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エガオが笑う時

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#マナ

エガオが笑う時 最終話 エガオが笑う時(2)

エガオが笑う時 最終話 エガオが笑う時(2)

「エガオ!」
 全ての円卓を準備い終えるとカゲロウがキッチン馬車の中から声を掛けてくる。
「はいっ」
 私は、小走りでキッチン馬車まで駆け寄る。
 しばらく運動してなかったのと、身体の軽さに何度かバランスを崩しそうになる。
 料理を運ぶ時、気をつけないとな。
 キッチン馬車の前に立つと口の中いっぱいに広がるような甘い香りが漂ってきて三度、お腹が鳴りそうになるのを私はぐっと押さえる。
 そんな私の仕

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エガオが笑う時 最終話 エガオが笑う時(1)

エガオが笑う時 最終話 エガオが笑う時(1)

 赤い傘を広げると赤い幌が朝の柔らかい光に照らされて林檎のように輝く。
 朝ご飯を食べてない胃袋はそれだけで盛大に音を鳴り響かせ、私は思わず頬を赤らめる。
 キッチン馬車の隣で寝そべったスーちゃんにもその音が聞こえたようで面白そうに嘶く。
 私は、ぷっと頬を膨らませてスーちゃんを睨みながらも赤い傘を円卓の中央に差した。
 キッチン馬車の中ではカゲロウがタンクトップに白いエプロンを付けてせっせと仕込

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エガオが笑う時 第10話 一緒に帰ろう(5)

エガオが笑う時 第10話 一緒に帰ろう(5)

 次の瞬間、私の足は旋律を刻む。

 武舞踏連弾

 タッタッタッタッタッタッタッタッタァ!

 私は、柄の振るい、石畳の上に散らばる大鉈と鎧の残骸を空中に打ち上げる。
 異変に気づいたマナが猟獣の如く私を睨み、熱線を放出する。
 しかし、私はもうそこにはいない。
 大鉈と鎧の残骸と共に私も空中へと舞い上がる。
 熱線が石畳を砕き、炭化させる。
 戦乙女のプレートに爪先を当て、思い切り蹴り上げて落

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エガオが笑う時 第10話 一緒に帰ろう(4)

エガオが笑う時 第10話 一緒に帰ろう(4)

 カゲロウの手から離れると私は大鉈を握り立ち上がる。
 もう2度と立てないのではないかと思っていた身体に力が入る。
 心の奥の奥から湧き上がってくる。
 私は、スーちゃんと戦っているマナを見る。
 マナの中を這いずり回る醜いヌエの顔をした無数の魔印を睨みつけながら戦略を組み立てる。
 私は、半月に抉れた大鉈をじっと見る。
 そして青白い炎に囲まれた空間を見回す。
 これじゃあ・・・ダメだ。
 私は

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エガオが笑う時 第10話 一緒に帰ろう(3)

エガオが笑う時 第10話 一緒に帰ろう(3)

 カゲロウをカゲロウと認識した瞬間、私の身体は勝手に動いた。
 左腕が彼の首筋に周り、頬が彼の熱い胸板に飛び込む。
 口が勝手に言葉を紡ぎ出す。
「カゲロウ・・・カゲロウ・・!」
 そして次に飛び出した自分の言葉に私は驚く。
「会いたかったです・・」
 それはまるで子どもが甘える時のような幼く拙い言葉だった。
 カゲロウは、一瞬、驚いた顔をしたがすぐに口元を綻ばせて小さく笑う。
「ああっ俺もだ」

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エガオが笑う時 第10話 一緒に帰ろう(2)

「私を殺すんですか?」
 朗らかな声が私の耳を打つ。
 私は、旋律を刻んだまま声の方を見る。
 マナだ。
 マナは、先程と変わらない笑みを浮かべたまま私を見る。
「やっぱりエガオ様は私のことがお嫌いだったんですね」
 心臓が大きく跳ねる。
 大鉈を握る左手が汗で濡れる。
「マナ・・・?」
 旋律が狂い、集中が解ける。
 マナは、深い笑みを浮かべる。
 石畳を蹴り上げて私との距離を詰めると左腕を振り

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エガオが笑う時 第10話 一緒に帰ろう(1)

エガオが笑う時 第10話 一緒に帰ろう(1)

 赤い血が私の頬を濡らす。
 血溜まりが石畳に広がり、石と石との隙間に入り込んでいく。
「何を腑抜けているのです⁉︎」
 イーグルは、苦悶に歪んだ表情で私を睨む。
 彼は、私の前に立ち、剣を盾のように構えて何かを防いでいた。その足元に血が滴り落ちる。
 私は、飛散しかけた意識を戻し、現状を把握する。
 何かを遮るように私の前に立つ血まみれのイーグル。
 その向こうに見えたのは燃え上がる青白い炎に包

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エガオが笑う時 第5話 凶獣病(6)

エガオが笑う時 第5話 凶獣病(6)

 公園を出て左右を見回すもマナの姿はどこにもなかった。
 私は、街道に出て近くにある二階建ての建物に駆け寄ると、一気に飛び跳ね、雨樋に指を引っ掛ける。
 周りにいた人達が私の姿を見て声を上げる。
 私は、足を上げてそのまま雨樋の上に登り、さらに屋根に登る。
 屋根まで登ってから私は自分がスカートだったことに気づいてひょっとして見られたかな?と思って急に恥ずかしくなって裾を押さえるも今はそれどこでは

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エガオが笑う時 第4話 無敵(4)

エガオが笑う時 第4話 無敵(4)

 チャコの話しによるとマナの家は王国でも古参の騎士の家系で父親だけでなく母親も騎士でマナはそこの家の1人娘であったらしい。
 チャコの父親は、ピアノの調律師としてその家に出入りし、父親の仕事に興味を持っていたチャコはよく付き添ってマナの家に行き、父親の仕事を見て、そして幼い、まだ5歳か6歳くらいのマナの遊び相手になっていたと言う。
 マナは、よく笑う子で月に1回、チャコがやってくるのをとても楽しみ

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