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医師、研究者。鎌倉在住。その前は留学のためドイツで6年間暮らしていました。今は東京で研…

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医師、研究者。鎌倉在住。その前は留学のためドイツで6年間暮らしていました。今は東京で研究室を持っています。

最近の記事

キレニアのこと

ドイツに住んで2年目くらいだっただろうか、その日僕は、妻の友人であるキレニアの家へ招待されていた。キレニアはドイツ人男性と結婚してドイツへやってきたキューバ人で、この国に移り住んで既に5年だという。ドイツ在住歴で言えば僕らよりずいぶん先輩にあたる彼女は、夫がスペイン史の研究者でスペイン語に堪能であり、夫婦の会話に困らないこともあってなのか、ドイツ語にはそれほど堪能でなく、こちらで小学校に通っている自分の娘の発する言葉もしばしば理解できていない様子だったが、キューバ人に対して抱

    • オミクロンに感染して

      医療従事者の端くれとしてこれまで何とか逃げ切ってきたが、ついにコロナに感染してしまった。もうこれが最後の感染と信じているので、せっかくなので症状の経過を記しておこうと思う。 10/26(水) この日に長男(7歳)が発熱した。夜中からなんだか寝苦しそうにしていたのが、朝方38度の熱があり、これは。。。と思っていたところ、午後になって39度近くまで上昇、夕方にようやく近医を受診でき、抗原検査キットで陽性が判明した。この時点で我々両親は濃厚接触者となり、出勤停止を手配した。 1

      • 凡庸な医者には患者の手を握る暇がない

        僕の専門は糖尿病で、研究と臨床とを半々くらいの比率で行っているので、それなりに患者さんを診る。というより、医師免許を取ってから20年を超えたが、留学中の6年間を除いては週の半分以上を外来患者さんの診察をして過ごしてきた。 先日敬愛する養老孟司先生の文章を読んだ。最近先生は虚血性心疾患を患われた様だが、そこに結びついてか、医師の診療態度について書いておられたのが興味深かった。 養老先生曰く、今の医者はコンピューターの方ばかりを向いて、患者さんを見ようとしない。患者さんを見な

        • 鎌倉で家、建てます 〜その3〜鎌倉に必要な住宅性能について

          注文住宅建設について、前回の更新から随分日が経ってしまったが、結局僕らの家は順調に完成し、11月中旬に引っ越すことができた。今、こちらで過ごす初めての年末年始を迎えている。 元々同じ鎌倉の海側に住んでいたのが、(津波を懸念して)いくぶん山側の土地を買って家を建てた。鎌倉の土地と言うのは、少し歩くと全然雰囲気が違ってしまうもので、やはり今の土地も前とはだいぶ違った雰囲気だ。以前にも書いたが、海沿いはヨーロッパで言うと地中海の雰囲気で、山側はドイツっぽくしっとりしたイメージだ。

        キレニアのこと

        • オミクロンに感染して

        • 凡庸な医者には患者の手を握る暇がない

        • 鎌倉で家、建てます 〜その3〜鎌倉に必要な住宅性能について

          雑文・ドイツから鎌倉まで

          生まれてこの方東京でしか暮らしたことのなかった僕が、留学のため日本を離れいきなりドイツのケルンで暮らし始めたのは2012年4月のことだった。出発した日の東京ではもう桜が咲いていたのに、到着した頃のドイツはまだまだ寒く、その日も気温は3度しかなかったが、金色の日差しが雨上がりの様な透明感をもって夕暮れの街を明るく照らしているのが印象的で、今でもその時感じた感覚をよく覚えている。それは今にして思うと、冬から春になるにつれ日照時間がどんどん伸びていく特別な時期の、とてもドイツらしい

          雑文・ドイツから鎌倉まで

          鎌倉で家、建てます 〜その2〜埋蔵物調査で建築が2年延期になりかけた話

           以前の記事で鎌倉に家を建てる、と決めたお話を書いた。その後タイトルの様な問題が起こって危うく土地を手放そうかとまで考えたが、結局一定の解決に至ったので、その経緯を書いておきたい。今(2021年2月現在)鎌倉に土地を買って家を建てようとしている人は要注意です。  さて、前回の記事は住宅ローンを契約します、というあたりまでで終わっていた。その後2020年12月にめでたく土地の売買契約が終わり、晴れて土地が自分の名義になった。これで家が建てられる。  それを受けてまず建築会社

          鎌倉で家、建てます 〜その2〜埋蔵物調査で建築が2年延期になりかけた話

          ドイツ流クリスマスの過ごし方

          僕は2012年から2018年まで6年間をドイツに留学して過ごしたので、ドイツで計6回のクリスマスを経験したことになる。そこで見てきた『ドイツ流クリスマスの過ごし方』を周りの人に喋ると結構感心されることが多いので、ここにポイントを記しておきたい。特にコロナ禍の今年は、日本でも参考にできることがあるかもしれない(ギリギリになってしまったが)。 1、クリスマスは家族で過ごす  まず中心となる考え方は、クリスマスは家族が集まる日だと言うこと。研究室の留学生たちも基本実家に帰ってし

          ドイツ流クリスマスの過ごし方

          良いGRITと悪いGRIT、やり抜く力と鬱との関係

          子供が今5歳なので、子育てに関する記事や、場合によっては子育て本なんかを時々読む。そうすると僕が子供の頃には無かった考え方がたくさん出てきていて、確かに昔に比べると児童心理学なんかも進歩しているだろうし、少なくともいろいろな価値観や選択肢が親の側にあることは子供にとっては良いことだろうと思ったりしている。 この前そんな新しい考え方の一つとしてGRITというもの知った。GRITというのは「やり抜く力」と訳されていて、Guts=「ガッツ」、Resilience=「粘り強さ」、I

          良いGRITと悪いGRIT、やり抜く力と鬱との関係

          鎌倉で家、建てます

          今回鎌倉に家を建てることになった。  おそらく今後の人生でもう一度家を建てるチャンスはないと思うが、この機会にいろいろなことを勉強し経験したので、せっかくなのでその経緯をここに書き残しておこうと思う。 1、はじめに  僕が最初「家を買う」、ということを考え始めたのは2020年3月のことだった。よく言われる議論だが、トータルコストで賃貸と持ち家とどちらが得か、ということを考えて、家を買う方が得だから、と考えて決めたわけではない。むしろ今後日本の人口がどんどん減っていくと言

          鎌倉で家、建てます

          研究効率化のための、エクセルを使ったマルチタスク管理の勧め

           研究者という仕事をしていてラッキーなのは、自分がその日やることを自分で決められるということだ。しかしそれゆえに過去の僕は、「今よりもっと効率的に仕事を進められるのではないか」「実は今この瞬間にも時間を無駄にしているのではないか」という猜疑心にいつも苛まれていた。研究においては、いかにして論文を早く出すか、という工夫も大事なのだが(以前の記事参照)、僕は鎌倉に住んでいることもあり、ゆっくり仕事をしていると家に帰るのが絶望的に遅くなるため、日々の生活の中でもできるだけ効率的に仕

          研究効率化のための、エクセルを使ったマルチタスク管理の勧め

          糖尿病研究と癌研究とを比較してみて

           先日、代謝関連のある研究会に参加したところ、ほとんどの演題は癌に関するもので、糖尿病に関する発表は全体の1割にも満たなかった。普段なかなか聴く機会のない研究内容に触れられ刺激的に思った一方で、糖尿病の研究はこれで良いのだろうか、と疑問が湧いたのでこの文章を書くことにした。  僕は糖尿病の専門医だが、基礎研究に関わる様になって既に20年近くが経ち、今では仕事の軸足を完全に基礎研究に置いている。この20年、糖尿病の基礎研究の分野ではいくつかの画期的な発見があった。例えば肥満が

          糖尿病研究と癌研究とを比較してみて

          ルーキーズと研究、ライ麦畑でつかまえて

           今日『知の逆転』という本を読んだ。『銃・病原菌・鉄』の著者ジャレド・ダイアモンド、生成文法を提唱したノーム・チョムスキー、『レナードの朝』や『妻を帽子と間違えた男』の著者オリバー・サックスなど錚々たる面々のインタビュー集で、ざっくり言えば、世界は今後どうなるのか、教育はどうであるべきか、インターネットが普及する中で社会はどう変わっていくか、という未来のについての意見を、これら偉人たちに聞いてみた、という内容だ。出版されたのはもう10年近く前だが、色々と考えさせられた。  

          ルーキーズと研究、ライ麦畑でつかまえて

          鎌倉に住むならどの辺がおすすめか

           先日友人が、鎌倉への移住を検討していると言って、下見も兼ねて僕の家に遊びに来てくれた。その時に色々おしゃべりして、具体的に鎌倉のどのあたりに住むのがおすすめか、何がネックになるのか、などをある程度整理できたので、この機会に順を追って記していこうと思う。今回は、住むなら鎌倉のどの辺がおすすめか、ということについて。  一口に鎌倉と言っても、鎌倉市の範囲は意外に広くて、北は北鎌倉を超えて北西に向かい、大船駅の先まで鎌倉市に含まれる。南は南西は海沿いで江ノ島駅の手前まで、それを

          鎌倉に住むならどの辺がおすすめか

          研究不正と医療訴訟と真実について

          僕は一度研究不正騒ぎに巻き込まれたことがある。研究不正といえば、STAP細胞の時に随分と世を騒がせた。ちなみにあれについては捏造で間違いないことが証明されているが、個人的には筆頭著者が自分の見つけた「真実」を提示しようとした結果だったのではないか、と僕は推測している。それは言い換えれば、科学的事実と、カッコ付きの「真実」とを混同した過ちの結果ということなのだが、それについてはまたいずれ書こうと思う。 さて僕がドイツにいた頃、日本の研究室の元ボスから連絡があり、研究室の複数の

          研究不正と医療訴訟と真実について

          効率的な研究の進め方

           ドイツに行く前、僕は大学の大きな研究室に所属し、毎日夜遅くまで実験をしていた。その割になかなか業績が出ず、苦しい気持ちで毎日過ごした。しかし周りの人たちも同じように苦しんでいたし、教授は「成果が出る出ないに関わらず、とにかく頑張っていることが大事だ」という趣旨のことを言って憚らなかった。その頃の空気は、そんなものだった。  一方で、毎月のようにNatureとかCellとかScienceといった雑誌に業績を発表している研究室も海外には多い。そういう研究室に留学した人たちに聞

          効率的な研究の進め方

          はじめに

          僕はいま鎌倉に住んでいる。職業は医師であり研究者で、家族と夕食を食べられるようになるべく早く帰宅し、帰宅すればできるだけ3歳の子供の面倒を見る(と決めている)一児の父でもある。研究室は東京の真ん中にあり、そこまでおよそ片道2時間の通勤時間が必要だ。 6年間ドイツに留学し、日本に帰ってきたのが昨年の4月のこと、再び日本に住むにあたって、迷った末に僕は鎌倉に住むことに決めた。それと共に、生活をどうやってorganize するか、というスタンスも決まった。ちなみに僕が日本を離れて

          はじめに