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鎌倉で家、建てます 〜その2〜埋蔵物調査で建築が2年延期になりかけた話

 以前の記事で鎌倉に家を建てる、と決めたお話を書いた。その後タイトルの様な問題が起こって危うく土地を手放そうかとまで考えたが、結局一定の解決に至ったので、その経緯を書いておきたい。今(2021年2月現在)鎌倉に土地を買って家を建てようとしている人は要注意です。

 さて、前回の記事は住宅ローンを契約します、というあたりまでで終わっていた。その後2020年12月にめでたく土地の売買契約が終わり、晴れて土地が自分の名義になった。これで家が建てられる。

 それを受けてまず建築会社が行ってくれたのが、地盤調査だった。

1、地盤調査について

 最近では一部例外をのぞいて、住宅を建てる前の地盤調査が義務付けられている。地盤が危ういと不同沈下で家が傾いてしまうし、現実的にそんな地盤で何も考えずに建てると建築業者も瑕疵担保責任保険に入れない。そこで昨今では必ず地盤調査を行って、危うい地盤には地盤改良を行ってから家を建てるというのが一般的になっている。地盤調査はスェーデン式サウンディング方式というやり方でするのが通常で、具体的には家の基礎になる領域の4隅+真ん中の5点くらいに対し、どのくらいの硬さ=地耐力があるのかを深さ10mくらいまで杭を刺して調べていく調査になる。

 残念ながら我が家の場合、硬い岩盤が地中7mの深さにあり、そこまでの地盤がやや弱めであった。この「硬い岩盤」が「支持層」と呼ばれるものである。埋立地や港湾土木などは別として、どんな土地でも必ずどこかの深さに支持層があり、その上の地盤が弱くてもこの支持層まで杭を打ったり(鋼管杭)、コンクリートで固めたりして(柱状改良)、その上に家を建てれば不同沈下の心配はなくなる。これがいわゆる地盤改良である。そして私の土地では、地盤調査の結果から7mの支持層まで鋼管杭を打ちましょう、というお話になった。

 残念。だが、そもそも地盤改良の必要性と予算とは最初からある程度想定していたため(不要になったらその分の予算を他に回せたのだが)、ここまでは「仕方ないか」という程度で済んでいた。

2、埋蔵物について

 だがここで問題が起きた。

 実は鎌倉市の半分以上の土地は「埋蔵物包蔵地」、つまり歴史的な遺跡や土器などが埋まっている領域に当たっている。鎌倉は鎌倉時代以前から人が住んでいた場所だし、室町時代以降は歴史の表舞台から取り残された様なところがあるため、幸いなことに神社仏閣や埋蔵品などが開発から免れて多く残されているのである。

 さて家を建てるにあたり、「埋蔵物」に対する考え方はこうだ。

 家を建てるのが昔の遺跡の上でも、地面の下に何が埋まっていても、それら埋蔵物を壊さないのであれば、建築に問題はない。

 つまり、何か貴重なものが埋まっている可能性がある土地で、その土地に家を建ててしまい、結果としてその遺跡を調査するチャンスが向こう何十年に渡り失われてしまったとしても、その遺跡が破壊されなければ、家を建てて住み続けて構いませんよ、ということで、「建て替えに際してせっかくだから調べておきましょう」と寝た子を起こす様なことをする必要ないということだ。

 では、家の建設にあたり埋蔵物が破壊される可能性があったらどうなるか。この場合は、遺跡が破壊されることは仕方がない(所有権は購入した時点で遺跡も含め購入者にある)、ただ事前に発掘し記録を残し、もし価値のある発掘品が出た場合は博物館で買い取りましょう、ということになる。

 ここで関わってくるのが、先ほどの地盤改良である。普通に家を建てられればそこまで深いところを掘る必要はないものだが、地盤改良のために土地の深いところまで杭を打ったり、穴を掘ってコンクリートで固めたりする必要がある場合、これによって埋蔵物を破壊してしまう可能性が出てくるのだ。これを防ぐため、鎌倉市では事前に建築計画を提出させ、その上で(最終的には神奈川県の判断になる様だが)1、試掘が必要か、2、市の担当者が立ち合いの上で慎重に工事を進めれば良いか、3、立ち合いすらなしか、の3つのうちいずれかの判断が下される。1試掘が必要、となった場合は、まず数日かけて試掘を行い、その結果に基づいて、本堀と呼ばれる本格的な発掘調査を行う必要があるか判断することになる。

 さて今回の土地も埋蔵物包蔵地にあたっていたため、条例に基づいて建築業者が鎌倉市に申請に行ってくれた。すると担当者からは「今回の土地では、道路から65cmの深さのところに埋蔵物があることが、実は土地の造成の時点で分かっています。地盤改良により埋蔵物が破壊されることが想定されるので、試掘も飛ばして、いきなり本調査が必要です」と言われてしまったのだった。

3、本堀の費用と作業期間

 おおそうか、鎌倉だしまあ仕方がないだろう。というより、そうなる可能性も事前に調べて知ってはいたのだ。

 まずその調査の費用は誰が出すの、ということなのだが、基本は建てる人の個人持ちになる(!)。県指定の民間の発掘業者というのがある様で、建築主がそこに依頼すると、業者が本調査をして市に報告書を上げてくれる。そして普通の個人住宅の場合、その費用が200万円程度必要と言われている(幾ばくかの補助金は出るが、とても足りない)。

 200万円。余程のお金持ち以外はおいそれと出せる額ではない。そこで、特に個人住宅の建設の場合は、市の負担で市の発掘チームが行ってくれる。これはありがたい。

 私たちも当然この市のサービスを利用するべく、申し込んだ。

ではその本調査のために、どのくらいの期間、工期が遅れるのか。

 事前に建築業者からは4−5ヶ月、最大でも半年程度の遅れで済むでしょう、というお話をいただいていた。半年ならまあ許容範囲だ。

 だが。

 2021年1月の申請時点で、鎌倉市が行う本調査は既に10件の順番待ちになっている、ということが判明した。

 現在、鎌倉市の本調査チームは2チームある。そして1箇所の調査に4ヶ月かかる。

 ということは。

 4 x 10 ÷2 =20ヶ月待たないとうちの敷地の調査は始まらない。

 それから家を建て始めるので、

引っ越せるのは2年以上先になる。

 これは困った。住宅ローンの支払い開始を2年も先延ばしにしてしまうと(そもそもそんなに元金据置払いを利用できるのか不明だが)、その分返済の期間が短くなるので、月々の支払いがかなり厳しくなってくる。なら土地のローンだけでも先に払い始めるしかない。でも賃貸の家賃とダブルに支払うのは大変だ。そもそもその間の賃貸の家賃が2年間でウン百万円になり、これも実質的な損失だ。一旦実家に引っ越して、そこでじっと調査が始まるのを待とうか、でも子供の学区はどうしよう。いっそのこと自費で調査をしようか。。。。

4、地盤改良の方法を再検討する

 ああ、あんな土地を買ったのがそもそもの失敗だったのだろうか、と思い、一時は手放した方がすっきりするかとも考えたのだったが、そこでお願いしている建築業者さんから、「2年以上待つのも自費でやるのも現実的でないので、方針を替えましょう」というありがたい提案があった。

 具体的には地盤改良の方法を再検討しましょう、ということである。

 先ほど書いた様に、埋蔵物が埋まっていても、それを壊さずに家を建てる分には調査の必要はない。今回のケースでは道路面から65cmの深さに何か(武家屋敷で使われていた土器か何かの様だが)が埋まっていることが分かっているので、その深さまでしか工事を行わないのであれば、埋蔵物調査の必要はない、という判断を鎌倉市からいただいていた。

 そんな地盤改良の方法があるのだろうか。

 実はある。昔から支持層のない港湾土木などで使われていた方法で、コロンブス工法(浮き基礎)やジオクロス工法がそれに当たる。

 コロンブス工法というのは、簡単に言えば発泡スチロールの基礎を土の中に埋め、その浮力を利用して上に建てた家を支えるという方法、ジオクロス工法というのは砂礫を敷き詰めた中に特殊なネットを入れ、そのネットをハンモックの様に使って家を支える工法だ。

 どちらも支持層のない港湾での工事、例えば空港の建設などで利用されてきた方法であり、浅いところだけの工事ですむ。結局うちの場合、コロンブス工法は発泡スチロールの特許の関係で費用が若干高いのと、65cmよりも少し深く工事をしなければならないということで、ジオクロス工法を採用する運びとなった。

 実はこうした地盤改良法は、メリットがいくつかある。

1、我々の場合も含め、そもそも遺跡を壊さずに済むので、優しい工法である。

2、ジオクロス工法では特に費用が(鋼管杭に比べて少しだけ)安く済む場合があるのでお財布にも優しい。

3、環境にも優しい(柱状改良の時に問題になる様な六価クロムの心配がない)。

4、土地の将来的な資産価値にもメリットがある。

 3、4に関連して、近年ジオクロスやコロンブス工法は注目されている様だ。特に4については、昨今の様に地盤調査が厳しくなりやたらと杭が打ってあると、今後何十年かで問題になってくるのではないかと思う。というのも、実は将来土地を更地にして誰かに売ろうとした場合、この「更地」にするためには地中の人工物も全て撤去する必要があると言われていて、その費用が数百万かかってくるのだ。そうでなくても、例えば子供がそこに家を建て替えようとした場合にも、既存の杭とどの様にすり合わせて家を建てるかとか問題になってくるだろう。その点、コロンブスもジオクロスも、撤去が非常に安価に行え更地にするのが容易なのだ。

 ということで、結局はむしろ費用が少し安くなり、色々な意味で優しい地盤改良法を選択することができたと思っている。安全性については、これは基本的に不同沈下を予防するためのものなので、大地震が起きて液状化とかになったら厳しいだろうとは思っているが、それは全ての地盤に鋼管杭を打たない限り防ぎきれないだろうし、そもそも液状化が本当に起きたら杭を打っていてもそのままでは住めないだろう。ちなみにジオクロスは一応液状化にも強い工法で、一方柱状改良では東日本大震災の時には不同沈下は多かった、と少なくともメーカーは謳っている。

 結局鎌倉市には地盤改良法の変更を申請し、結果として(正式決定はまだだがおそらく)係のものの立ち合いのみで工事を進めて構わないでしょう、というお言葉をいただいている。

5、おわりに

 今回の件で一つ思ったのは、地盤改良法を柔軟に再検討してくれる建築業者さんにお願いしてよかった、ということだ。大手のハウスメーカーでは先ほど挙げた柱状改良や鋼管杭を使った方法のみ取り扱っており、他の選択肢はない様な噂を聞く。おそらく瑕疵担保責任保険の加入を念頭に、社内的に新たな方法を取りたくないのと、そこまで個別に考えていてはコストが見合わない、というあたりだろうと思う。実際、私の土地の周囲で実際に2年待ちしている人の話も聞いている。ただ、将来的な土地の資産価値の問題、また環境汚染の問題を考えると、これから新たな地盤改良法がどんどん採用されてしかるべきではないか、とも思う(例えば資産価値を下げない方法としてエコジオ工法なんていうのもある)。

 ということで、これから鎌倉に家を建てようかと思われている方は現状を十分に考慮した方が良い。ちなみに鎌倉市に問い合わせたところ、埋蔵物の調査に2年かかるという現状は市としても問題視しているが、専門性を持った技術者が市の公募に応募してくれず(ずっと公募はかけ続けているとのことだった)、短期的には改善が難しいということだった。

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