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千葉奈穂子 父の家 My Father’s Houseギャラリートーク 第1回 (後半)

 展示「千葉奈穂子 父の家 My Father’s House」に合わせて開催したギャラリートークの記録です。
 千葉奈穂子が制作の経緯、写真を始めたきっかけ、過去作品や展示中の新作などについて、お客様からの質問も交え、3回にわたってお話ししました。


<ギャラリートーク第1回>

【トーク(前半)】*テキストのみ
・写真を始めるきっかけになった経験
・展示構成と二つの表現手法のこと
・こちらからお読みいただけます。

【トーク(後半)】
*本記事では文字起こしをお読みいただけます。
*Cyg art galleryのYouTubeチャンネルから動画もご覧いただけます。

【目次】


・「父の家」より春の作品のエピソード
・みなさまからのご質問

聞き手: 佐藤拓実(Cyg art gallery キュレーター )
 



(佐藤)全体の展示構成としてはそのような展示で、震災以後の千葉さんの制作の状況も踏まえて、今どういう表現をしようとしているのかという模索の中で、ゼラチン・シルバー・プリントと、サイアノタイプ・プリントを展示している、ということでした。個別の作品についても、すこしお話を聞いていきたいと思いまして。
作品リストを見ていただくとわかるんですけれども、ゆるやかに四季の流れになっていますよね、展示としては。

(千葉)はい。

(佐藤)手前のほう、入口側のほうに春、夏、秋があって、この辺は冬景色ですね。

(千葉)はい。

(佐藤)ちょっとここから移動していただいて、まず春の作品について詳しくお話を聞きたいと思います。

「父の家」より春の作品のエピソード

(千葉)春の作品を中心にお話します。
 エッセイは、もうお読みになった方もいらっしゃるかと思いますが、「鶏小屋・六月」というエッセイにでてくる鶏小屋は、こちらの《鶏小屋 2021年3月》という写真に写っています。
 父の家は、私で13代目だそうです。代々農業をしてきた家なので、母屋や鶏小屋、作業小屋などがあります。作業小屋は、震災後に倒れてしまいました。すぐそばには、たくさんの焚き木を保管しておく木小屋もあります。
 鶏小屋には、昔、蛇がいたので、父からは何回も気を付けるように言われました。私は、それではいけないのですが、出てきた時に気をつけようと思ったりしていました。今、私が行く度に蛇があまり出て来ないのは、もしかしたら、今は鶏小屋に鶏がいないからかもしれません。

《鶏小屋 2021年3月》36.5×54.5cm、ゼラチン・シルバー・プリント、2022年
《A Field-side Chicken Shed, March 2021》36.5×54.5cm, Gelatin silver print, 2022 ©Naoko Chiba

(佐藤)じゃあ、今もマムシはいますか?

(千葉)ちょっといます。

(佐藤)あぁ(笑)。いるんですね。

(千葉)でも、父の話しに出てくるような大きなアオダイショウにはまだ会っていません。
 アオダイショウが玉子を飲み込んで、栗の木に登って、自分で腹をぶつけながら玉子を消化する、という話を父から聞いたときは、衝撃を受けました。そんなふうに玉子を食べる、アオダイショウの荒々しい玉子の食べ方を知って。

 赤マムシや黒マムシは、田んぼや水辺の近くにいます。私が一人で父の家に行くようになってからは、父は口を酸っぱくして、マムシに出会った時どんなふうに気を付けるかや、山や野原の危険さを教えてくれました。私はぼんやりしているところがありますが、必ず鎌を持って、鎌で草を分けながら歩きます。

(佐藤)鶏小屋は、中に入ってみると、どういう感じですか。

(千葉)結構暗くて半分に分かれています。一つは通路になっていて、もう一つが鶏の居場所になっています。

(お客様)大きさはどのくらいですか?

(千葉)そうですね、こちらの写真(《夏畑 2021年6月》)に写っているのが鶏小屋の正面です。

《夏畑 2021年6月》36.5×54.5cm、ゼラチン・シルバー・プリント、2022年
《The Fields in Summer, June 2021》36.5×54.5cm, Gelatin silver print, 2022 ©Naoko Chiba

(お客様)あぁ、そうなんですね。

(千葉)はい、これです。

(佐藤)これ(《鶏小屋 2021年3月》)は、横から撮ったのですね。

(千葉)そうです。鶏小屋が半分くらい見えなくなるほど、夏になると草が生えるので、草刈りをします。この場所では、草が一気に伸びてまた草かりをする、ということを毎年繰り返しています。
(佐藤)こっち(《鶏小屋 2021年3月》)も撮影時期は、もっと春の早い時期ですか?

(千葉)そうですね。

(佐藤)あぁ、そうでしたか。じゃあ、見比べるとすごく草の伸びる速さがわかりますね。

(千葉)そうですね。


《山からの水 2021年3月》36.5×54.5cm、ゼラチン・シルバー・プリント、2022年
《Mountain Spring Water, March 2021》36.5×54.5cm, Gelatin silver print, 2022 ©Naoko Chiba

(千葉)この写真には、母屋の後ろにある裏山のほうから流れてくる、「山からの水」が写っています。湧き水です。その湧き水は、裏山から小川になって流れてきて、一度小さな溜め池にたまりながら、田んぼのわきをずっと水が通っていきます。言ってみれば、古い水路になっています。画面下に写っている小さな石で、水を堰き止めたりします。
写真の左側に写っているのは、小さな裏山です。右側にはまだ小さく雪が残っています。

(佐藤)ここに木が二つ、ありますね。

(千葉)これはナラの木で、親戚のKさんが切ったものです。だいたい手のひらを広げたくらいの太さの、細いナラの木を切っています。間伐にもなるし、それを椎茸のほだ木に使います。使う分だけ切って、あとは伸ばしています。

(千葉)写真に写っている「山からの水」が流れる場所は、土でできた水路です。向こうにいくとコンクリートでできた水路もあります。深く作られてしまったのですが。そういう水路には、植物や小さい生き物が育つ場所がないので、生き物はあまりいないです。自然に近い環境に出来れば、戻ってくるのかもしれないです。

(佐藤)いま(写真の)ここには生き物がいるんですね。

(千葉)はい。

(千葉)今回ギャラリーに展示しているエッセイに、私は親戚のKさんとお話をしていることを書きましたが、「山からの水」の写真の中の、このぽってりした土手のところで話をしています。いつもKさんはここを歩くので、私もここを歩いてKさんに会います。

 (「父の家」の春の作品を3点ご紹介します)


《春の田 2021年3月》54.5×36.5cm、ゼラチン・シルバー・プリント、2022年
《Rice Fields in Spring, March 2021》54.5×36.5cm, Gelatin silver print, 2022 ©Naoko Chiba


3月末。昨年の稲株とすこしの雪が、田んぼに残っている。
ぬかるむあぜ道を通って、溜め池の氷を見に行く。

《春とカシワの木 2021年3月》54.5×36.5cm、ゼラチン・シルバー・プリント、2022年
《A Kashiwa Oak in Spring, March 2021》54.5×36.5cm, Gelatin silver print, 2022 ©Naoko Chiba


父の家の母屋のわきで、ゆっくり成長したカシワの木。
古くなった大きな葉を、春になってもつけている。
次の新しい芽がでるまで、古い葉は木に残っている。


《土蔵の壁 2020年8月》54.5×36.5cm、ゼラチン・シルバー・プリント、2022年
《Walls of an Earthen Storehouse, August 2020》54.5×36.5cm, Gelatin silver print, 2022 ©Naoko Chiba


父の家の母屋の裏に、古い土蔵がある。
土蔵の壁には、昔、子どもたちが描いた落書きが見える。
その下には、小さな動物たちが爪で壁を引っ掻いた跡も、残っている。


みなさまからのご質問

(佐藤) ご質問ある方いらっしゃいますか。

(お客様) 長靴が写っている写真のお話を聞きたいです。

(千葉) はい。

《畑の長靴 2006年10月》60.0×41.0cm、黒谷和紙にサイアノタイプ、2022年
《Boots for the Field, October 2006》60.0×41.0cm, Cyanotype on kurotani paper, 2022 ©Naoko Chiba

(お客様)この長靴は全部、お父さんの長靴ですか?

(千葉)この長靴は、父と私と母と妹と親戚の人たちみんなで、好きなものを履きます。でもだいたいこれは、父さんの長靴です。

(お客様)お父さんの。お父さんがたくさんの長靴を履いたりしているのかなと思って。

(千葉)私のエッセイには、父が働いていることばかり書いてきましたが、みんなで手伝う姿もありました。この写真《畑の長靴 2006年10月》は、2006年の撮影です。

(お客様)これは鎌ですか?(写真の中の、棒のようなもの)

(千葉)はい。これは草刈鎌の短いものです。

(お客様) あぁ、そうですか!

(千葉)私がいつも使う長い鎌は、実はあの《ガラス戸と柱 2021年6月》という写真に写っています、ガラス戸の中にあります。長い鎌をそこから出してきて、蛇をよけます。


《ガラス戸と柱 2021年6月》54.5×36.5cm、ゼラチン・シルバー・プリント、2022年
《The Glass Doors and Pillars, June 2021》54.5×36.5cm, Gelatin silver print, 2022 ©Naoko Chiba

(お客様)このタイトルを初めて見たのは20年以上前なんですけど、当時20代くらいだったかと思いますが、いろんな技法を試されているのかなというところもあったし、すでに決めていらしたのかもしれませんけど、いずれにしても20年以上続いている訳で、この表現手法、サイアノタイプを続けてきた理由、続けてこれた理由というのは、あれば教えてください。

(千葉)はい。暗室で手作業でプリントして像が浮かぶことに、魅力を感じているからです。

(お客様)サイアノタイプって、同じ大きさのネガを作るのですよね。

(千葉)はい。

(お客様)そうですよね。密着焼きをするんですね。
一方で、ゼラチン・シルバー・プリントのほうは、引き伸ばしされていると思うんですけども、その工程の違いで、気持ちの違いはありますか。

(千葉)ゼラチン・シルバー・プリントも、サイアノタイプと同じように過程は多いです。

(お客様)サイアノタイプのほうがより日光写真に近い訳ですよね。密着なので。ゼラチン・シルバー・プリントのほうは、引き伸ばしの機械にかけたときに、何か違うのかなぁと思ったんですが。

(千葉)あぁ、そうですね、使う機材や露光方法は違います。

(お客様)そうですよね。

(千葉) サイアノタイプのプリントでは、日光や紫外線を使って密着露光をしますが、ネガを作る過程で、私はゼラチン・シルバー・プリントと同じように引伸し機も使っています。どちらの手法も、光を通したり、現像液の中を通したりして、何度も像を見ます。それぞれの過程で見えてくるものや違いがありますが、どれも大事で、大事にプリントしています。
 すみません、気持ちの違いをうまく答えられたかわからないです。

(お客様)ありがとうございます。伝わってきます。

(千葉)すみません。

(佐藤)ありがとうございます。

*補足・千葉より
サイアノタイプとゼラチン・シルバー・プリントは、露光の方法、薬品、印画紙が違います。どちらも手作業の過程を大事にしながら、偶然が入り込むところもあり面白さを感じます。また、テーマによってプリント方法を決めています。

(佐藤)どうでしょう、もうお一方くらいいれば。もしこの場でむずかしければ、そのあとでも大丈夫なので。はい。ではトークはひとまずここまでにしたいと思います。ご清聴ありがとうございました。

 展示は4月27日から始まって、5月15日までで、これからもたくさん会期ありますので、もしお近くの方にぜひ、面白かったよって、薦めていただければと思います。
 この後は、トークがまたありまして、5月5日(木・祝)です。5月14日(土)にトークがあります。また別の作品のお話をしたいと思いますので、良かったらまた来ていただくと面白いかなと思います。

 あとはショップに、さっきお話されてた「浜辺のまち」、南相馬市のほうに通って千葉さんが撮られた作品と、エッセイがまとまった本があります。こちらもすごく興味深い本になっております。面白いです。あと過去の展覧会の図録も販売をしております。

 あとちょっとまだ届いていないんですけど、新しくですね、(補足:現在は販売中)今回展示に合わせて、ポスターとかポストカードとかも製作してまして、遠方の方には(Cyg art galleryの)オンラインショップで、また店頭でも販売しておりますので、こちらももしご興味あったら、チェックしていただければと思います。

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(千葉)今日は長い時間、みなさま本当にありがとうございました。

(お客様)(拍手)


第2回へ続く……


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ギャラリートーク 第1回

出演: 千葉奈穂子
聞き手: 佐藤拓実(Cyg art gallery キュレーター )


Cyg art gallery 企画展
「千葉奈穂子 父の家 My Father’s House」
Webサイト:https://cyg-morioka.com/archives/1552

会期: 2022年4月27日-5月15日
会場:Cyg art gallery
 
ギャラリートーク日時:
第1回 2022年4月29日
第2回 2022年5月5日
第3回 2022年5月14日
助成:公益財団法人 小笠原敏晶記念財団



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