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詩集 まほらの詩(うた)

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自薦の詩を載せています。 よりよい表現を追求しつつ編集します。
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記事一覧

詩 『抱えきれない物』

詩 『抱えきれない物』

週末の終わりの二日前
ぼろぼろに破れたリュックを降ろす

それは心のリュックだ
あれやこれや詰め込んで
たいそうな重さになってしまった

重たいから引き摺って歩く
ズルズルぼろぼろズタズタ
傷だらけで草臥れてしまった心

ほら ほら 明日から休日
やれ やれ 一日が終わる

何にもしないでいいんだよ
時間はたっぷりあるんだよ

そうだ呑もう
冷蔵庫に赤いワインが冷えている
私の熱い血のような色

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詩 ニュンフェ

詩 ニュンフェ

『 nymphё 』
妖精

春の風が吹いて
森の nymphё があちこちに現れます

若草色のなだらかな丘を登ると
やわらかな nymphё の裸体が
薄衣を透かして踊っています

光りにたなびく金色の髪
豊かな乳房
豊満な臀部

それ等は平和な面持ちで
わきだす泉のように
朗らかにうたい
愉しく踊ります

もう、私は去ることもなく
この場所を空を翳りをあびて

あまねく幸福のよろこびに
この

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詩 砂丘

詩 砂丘

『 砂丘 』

私達は もう、此処には居ない
あの白い砂丘に立ち尽くし
呼んでいる 

 風も 空も、眩しいすべてが
砂丘の空間を歩いている
無音の白い世界

エロチックに光る波
さらさらと抱かれる音
ざらざらと触れる肉体
眩しい白い足裏

流木が疲れた顔をやすめ
此方を見ている
滑らかなわたしの裸体を
虚ろにゆれるわたしの髪を
解き放たれた力強さを

私達は繋がっている
無意識の必然が
此処にあ

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詩 朗々の花

詩 朗々の花

年老いたわたくしが見た花
朗々の花
翳りゆく花
死に向かって咲く花

かつて若かったわたくしの花
老老の花を一本くださいな

いとしいあの人へ
持たせてあげたいのです

あの人には
もう 歯がありません

あの人には
もう 何も見えないのです

この悲惨なニュースも
もう 何も聞こえません

一日さえも儚げで
明日のことも分かりません

老老の花をわたくしに一本下さいな
一本だけでよいのです

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詩 無常の哀しみを抱いて…

詩 無常の哀しみを抱いて…

未明に ふとめざめた わたしに
ちいさく コトりと
戸をたたく音がきこえた

誰もきづかない ときに…
わたしは そっと 戸をあけ

その人にあい よろこぶのだ
よく来たと 泣いているように
抱きしめて しずかに そっと…

その人は なにもいわず
たちつくし ちからなく 
わたしを抱きしめる

よくぞ ここまで尋ねてくれた
身にひき寄せ 泣きじゃくり
ひとしきり 泣きじゃくり

やがて ただ 安

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詩 魚影

詩 魚影

きらめく水底を影が泳ぐ
しずかな波紋をのこし
優雅に尾鰭をくねらし

衣を脱ぎ捨てた
なめらかな肢体は
飛沫をあげて跳ねる

歓喜に笑い踊る女のように
自由に裸体を日に晒しながら
ふたたび水底に潜る

ひとつ ふたつ みっつと、
水泡が昇ってゆく
明るい水面へと、

息苦しさに悶え
急いで浮上すると
私は裸で濡れていた

春の夕暮れの狭間で
空気を掻き分け
どこまでも泳いでゆくと
どこまでも人影が

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詩 鳥籠

詩 鳥籠

『 鳥籠 』

鳥かごは空のまま
其処に置かれ
鳴くこともなく 
冷めてしまった

喪失の哀しみは
とおい日を囀ずり
わたしの指に泊まり
わたしを離れる

住み慣れた籠を残し
自由な空へはばたき
もう、鳴くこともない

─ 林 花埜 ─

詩 鈍色の雲

詩 鈍色の雲

  鈍色の雲は
  空一面を覆い何層も重なって
  水墨画のように寒々しい
  流れゆく時は重なり
  濃淡をつけて流れてゆく

  ゆっくりと ゆっくりと
  私の目に映る鈍色の雲
  
  冬の果てを追いかけ
  何処へゆくのだろう?
  私は此処にいるのに
  
  さよならも言わずに
  過ぎ去った人達のように
  振り返って私を見ることもない

  さようなら さようなら

  もうすぐ

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詩 『平和な午後に』

詩 『平和な午後に』

僕達はお互いの肉体を頬張り
少しの痛みと共に笑い合い
空腹を満たしていた

血は丸く膨らみ
ぽとぽとと滴り生温かい
嘆きは たおやかに震えて

僕達は
新鮮な果実のように飛び跳ね
お互いを貪りながら生きていた

例えば、一つの影と一つの影
例えば、二つの影と四本足

例えば…
平和な午後の穏やかな昼下がりに
誰かが坂道を登って行くように…

詩 春の水

詩 春の水

雨はやさしく しとしと と、

霙はつめたく さらさら と、

雪は無常の 恋うたひ

どこへゆくやら春の水

─ 林 花埜 ─

詩 『届けたい思い』

詩 『届けたい思い』

届けたい思いは
風のように
誰かの心に寄り添う

届かない思いは
枯れ葉のように
埋もれてゆく

一つ又ひとつ
灯されたそれぞれの思い
幾億の瞬きの下に
しあわせに息づき
小鳥のように寄り添う

あなたは私を愛していたの?
誰かが問いかけてくる

季節は移ろい色褪せ
鏡の向こうで鈍く光っていた

あなたは私を愛していたの?
透明な風がそよぎ
小枝を揺らし 私を揺らす

会いたい 会いたいと
小鳥の

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詩 星の夜に

詩 星の夜に

人々の想いは
日暮れの街に
一つ又ひとつと灯りだす
やがて幾億の星の瞬きの下に
肩を寄せ合う
あたたかな暮し

灯りは やがて
一日の終わりの
僅なしあわせを惜しむように
一つ又ひとつと消えてゆく

そうして 
私は子守唄を歌おう
あなたの側で歌った子守唄を
夜の星のように

─ 林 花埜 ─

詩 ムスカリ

詩 ムスカリ

ムスカリよ
ひとり道端に佇み
春のはじまりを告げている
熟した重そうな葡萄色の花房

 

老夫婦の暮らす
斜向かいの一軒家
寂れた庭の
寂れたムスカリの鉢

其処は君の懐かしい故郷
旅の始まりを知る由もないが
今此処に精一杯に生きている

 

遠い日の楽しかった日々
美しい風景を駆け抜けて
君は思い出すことがあるのだろうか?
懐かしい君の故郷を
 

   ─ 林 花埜 ─