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【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする

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恋愛小説です。  過去の傷からクラスメイトに心を閉ざした嫌われ者が、新しい恋によって前を向こうとする痛々しい青春模様を書いている…つもりです。  春…起承転結でいう「起」のパート…
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【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第25話-春、修学旅行1日目〜理美①

「福原、バスの席、替わってくれないか?」
 貴志の言葉に瑞穂が頷いて、裕と瑞穂が並んで座る。裕は両肩が耳に引っ付きそうなくらいに、いかり肩になって硬直している。
 別に気を利かせたわけではない。貴志は理美と話がしたかっただけなのだ。

 バスが小さく振動し、出発する。ここから約40分の短い旅が始まる。要件を伝えるには十分な時間だった。
 自然と理美の表情が固くなる。
「二人で話したいとは言ったけど

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【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第15話-春、修学旅行前夜〜貴志①

 あれから一ヶ月が経過し、無事に5月の実力テストも終了した。次のテストまで一ヶ月の猶予を与えられた生徒たちは、開放感と共に修学旅行の準備に追われていた。
 貴志の家で行われるミーティングと評したお茶会は、毎週金曜日の定例となっていた。
「瑞穂の持ってきたお菓子、うめえ!」
 裕が満面の笑みでチーズスフレを頬張っている。
「オーホッホ!お神戸の会社から取り寄せたハイソなお菓子でしてよ!
 心して食べ

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【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第1話-春、始業式〜貴志①

 俺はもう恋なんてしない。
 夏が終わり秋が深まる頃、中学1年生の時、そう決めた。

 中学3年生になる始業式の朝。
 新しい日常の始まる朝。
 この上なく気分の悪い朝。
 北村貴志(きたむら たかし)は学校に続く坂道を歩き、ゆっくり下っていた。気分はまったく乗らない。
 新しいクラスへの不安はない。友達なんて作るつもりはなかった。だから不安もプレッシャーも生まれるはずはなかった。
 鼻先まで伸び

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