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果たして彼女は実在したか? ーーあとがきにかえてーー
――あとがきにかえて――
あらあら。話が終わってしまった。ぼくに閃いた極上のイマジネーションはどうなるの?
でも、そんなもんは単なる“きっかけ”に過ぎなかったのかもしれないな。
雄弁は銀、沈黙は金。
ぼくは言葉を使い、Gさんは黙々と働く。ただ、それだけのこと。上も下も、ない。
それは確かですが、言葉を使うものの使命として、ぼくはやっぱりぼくに舞い降りた極上のイマジネーションを是非ともあ
果たして彼女は実在したか? 5
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清掃控え室に戻ると、ぼくたちは払い下げの古びた会議用テーブルに向かい合って座り、熱い玄米茶を飲みました。からだは疲れきっているのにこころはなんとも軽やかで、……なんというか……達成感のようなものがあり、気分はやたらと高揚しています。
ひと仕事終えた後だけに、Gさんは例のほっかぶりを取り、相撲取りの名前のたくさん入った大振りの湯飲み茶碗を両手で包み込むようにして静かにお茶を飲んでいます
果たして彼女は実在したか? 4
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「じゃいつもの手筈でいきますか!」
1階フロアの一角を占める化粧品コーナーに機材をすべて揃えると、ぼくはいくぶん気色ばんだ口調でそう言いました。
というのも、作業面積がゆうに普段の1.5倍はあるからなんです。大変な作業になることはわかりきっています。
幅100m、奥行き40~50mはあろうかという巨大なフロアを一気にやれるわけなどありませんから、当然作業は小刻みになります。なりま
果たして彼女は実在したか? 3
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「おはようございます」
普段よりいくぶん早く夜の10時に出勤すると、Gさんはすでに来ていて、制服に着替え、いつものタオルのほっかぶりを五分刈りの坊主頭に巻いているところでした。
「Gさん、早いですねぇ」
「……ええ、……まあ」
「あのー……、昨日も言いましたけど、今日は普段より1時間ほど早めのペースでいきましょう。よかですか? ……ほら、例の髪の毛……」
「わかりました。よかですよ」
果たして彼女は実在したか? 2
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もうお分かりだと思いますが、ぼくは一介の掃除夫です。とある島の中心的大都市・F市の駅前にある大型商業施設で、夜間清掃作業員をやっています。清掃作業とはいっても、ぼくたちの担当は特殊業務で、専門用語で剥離洗浄と呼ばれるものです。
ビルの床面は、だいたいにおいてPタイルという樹脂性の床材で張り詰めてあります。通常は、時速5キロメートルほどでコトコト走る自動床洗浄機なる清掃マシンを使って