高橋次郎

(中の人)恐ろしいほど遅読で、それに輪をかけて遅筆です。だからもう両方共やめてしまいま…

高橋次郎

(中の人)恐ろしいほど遅読で、それに輪をかけて遅筆です。だからもう両方共やめてしまいました。得意な事が何なのかわかりません。とりあえず早起きをしてみます。何もすることがないので洗濯機を回して家の中を全部箒で掃いた後、雑巾がけします。※この物語はフィクションです。2021.5.19

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パクチー犬 3

パクチー入ってたら食えないかもな?と思いながら、覚悟を決めておばちゃんの店に入りました。 (こんばんはー。どうもー。いやー今日は偶然何度も逢っちゃいましたね。なんかご縁があるのかなと思って、さっそくきましたよ) (あらー、いらっしゃーい、きてくれたのね。ありがとう。 ホント、あんなところで逢うなんてすごい偶然よね) …あはは。 かっこのなかのセリフはもちろんぼくの空想です。そんな気分だったというだけの話です。 現実は、「こんにちは」と挨拶しただけで、あとはただニコニコ。

    • パクチー犬 2

      2 頭上からガンガン照り付けるクソバカ太陽野郎が一瞬にして雲に隠れ、一転してクソバカ大雨がナニゴトダァーという勢いでザザ降りの雨をひっくり返し、ふたたび太陽が今度はただのバカ太陽ぐらいの輝きで西の空に戻ってきた夕刻のことでした。 水たまりを飛び越え飛び越えサンダル履きでペタペタ歩いていると、ちょうど四つ角のところで、足の悪いやせ犬が一匹、車に追い立てられているところでした。 「パーン、パーン、パーン」 高音のクラクション。そう、このあたり一帯の特徴なのですが、クラクションの音

      • パクチー犬 1

        《前口上》 ぼくには別段これといって食べ物の好き嫌いはないんだけれど、ずいぶん以前には、どうにも食えない食べ物ってやつがひとつだけありました。 パクチー! はい、そう。香草。 あれです。あれなんです。 タイ料理やベトナム料理など、エスニック料理によく使われる、三ツ葉みたいな香りの強い野菜──あれがどうにも食えませんでした。 ところが、ある日ある時ある瞬間、とある出来事をきっかけに、突然、劇的に食べられるようになったんです。いや、むしろ好きにさえなりました。 (そうか

        • 果たして彼女は実在したか? ーーあとがきにかえてーー

          ――あとがきにかえて――  あらあら。話が終わってしまった。ぼくに閃いた極上のイマジネーションはどうなるの?  でも、そんなもんは単なる“きっかけ”に過ぎなかったのかもしれないな。  雄弁は銀、沈黙は金。  ぼくは言葉を使い、Gさんは黙々と働く。ただ、それだけのこと。上も下も、ない。  それは確かですが、言葉を使うものの使命として、ぼくはやっぱりぼくに舞い降りた極上のイマジネーションを是非ともあなたにお伝えしたいと思うのです。Gさんが少ない言葉で語り尽くした後では蛇足といえ

        パクチー犬 3

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        • パクチー犬
          3本
        • 果たして彼女は実在したか?
          6本

        記事

          果たして彼女は実在したか? 5

            5  清掃控え室に戻ると、ぼくたちは払い下げの古びた会議用テーブルに向かい合って座り、熱い玄米茶を飲みました。からだは疲れきっているのにこころはなんとも軽やかで、……なんというか……達成感のようなものがあり、気分はやたらと高揚しています。  ひと仕事終えた後だけに、Gさんは例のほっかぶりを取り、相撲取りの名前のたくさん入った大振りの湯飲み茶碗を両手で包み込むようにして静かにお茶を飲んでいます。 (あっ、結構白髪頭なんだな)  今まで気にも留めなかったことにふと気が向き、

          果たして彼女は実在したか? 5

          果たして彼女は実在したか? 4

            4 「じゃいつもの手筈でいきますか!」  1階フロアの一角を占める化粧品コーナーに機材をすべて揃えると、ぼくはいくぶん気色ばんだ口調でそう言いました。  というのも、作業面積がゆうに普段の1.5倍はあるからなんです。大変な作業になることはわかりきっています。  幅100m、奥行き40~50mはあろうかという巨大なフロアを一気にやれるわけなどありませんから、当然作業は小刻みになります。なりますが、その範囲を作業する側の都合に合わせるというわけにもいかないのです。  同じ

          果たして彼女は実在したか? 4

          果たして彼女は実在したか? 3

            3 「おはようございます」  普段よりいくぶん早く夜の10時に出勤すると、Gさんはすでに来ていて、制服に着替え、いつものタオルのほっかぶりを五分刈りの坊主頭に巻いているところでした。 「Gさん、早いですねぇ」 「……ええ、……まあ」 「あのー……、昨日も言いましたけど、今日は普段より1時間ほど早めのペースでいきましょう。よかですか? ……ほら、例の髪の毛……」 「わかりました。よかですよ」  言い終わる前にGさんがそう即答するもんですから、またしても理由を言いそびれまし

          果たして彼女は実在したか? 3

          果たして彼女は実在したか? 2

            2  もうお分かりだと思いますが、ぼくは一介の掃除夫です。とある島の中心的大都市・F市の駅前にある大型商業施設で、夜間清掃作業員をやっています。清掃作業とはいっても、ぼくたちの担当は特殊業務で、専門用語で剥離洗浄と呼ばれるものです。  ビルの床面は、だいたいにおいてPタイルという樹脂性の床材で張り詰めてあります。通常は、時速5キロメートルほどでコトコト走る自動床洗浄機なる清掃マシンを使って洗い、新たにワックスを上塗りしてメンテナンスしているのですが、わずかに残った汚れ

          果たして彼女は実在したか? 2

          果たして彼女は実在したか? 1

            1  下弦に向かう半月が、南の空を通り過ぎ、西に傾く深い夜。  その“想い”は奇妙なリアリティを伴って、ぼくの脳裏に舞い降りてきました。 (そうだ。それがいい) ぼくは、そう、ひとり呟きます。 ――深夜のビルの中はとても静かです。  換気ダクトだかなんだか、高い天井を走る太い管が、時折寝ぼけた赤ん坊のようなかすかなうなりを上げるばかりで、広々とした人工的な空間には、流体であることを忘れたかのような空気が滞り、ソリッドな気配さえ漂わせています。 「ジー、ジージージージー

          果たして彼女は実在したか? 1