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2023年9月の記事一覧

フロイライン

錆び付いた夜に
フロイラインを越える
Z2のCRキャブレーターが
空を吸い込んで
延々と加速するのさ
美しい事は
曝け出してはいけない
それは心の奥に
しまって置くべきなんだ
自分の為だけにさ

ティンクルベル

僕が異国で
戦争をしている頃
君は祈りながら
ティンクルベルを鳴らす
地獄の筈なのに
僕には戦場が向いていた
君の事など忘れ
銃を撃ち敵を倒す
君は健気に
ティンクルベルを鳴らす
僕の帰りを
待ちわびながら

発熱

取り付かれた様に
うなされる夢を見た朝
私は恋をしている
きっと本当の恋を
風が吹いても
雨が降っても
心は冷めたりしない
そんな恋をしている
他人は笑うだろう
愚かだと楽しそうに
そんな事は如何でも良い
発熱の様に燃え上がり
この身を焦がそうとも
私はそれで構わない

劫火

大金を奪って逃げる男
劫火に焼かれ踊る女
人は人にしか為れないと
嘲う老人を横目に二人は
異国の空へと消えた

声なき声を

12色のクーピーで
空にラグドールを描く
孤高のペインター
声なき声は
誰にも届かずに
捨てられるのさと
囁くザアカイ
十字架に掛けられた
基督はその罪を
越えて神に挿げ替えて
羊達を導くだろう
山羊を見殺しにしても

灰色のバレッタ

緩やかな坂道を
転がるレプリカントは
山羊の夢を見ない
灰色のバレッタを
髪に留めたあの娘は
パンクスの彼に
恋焦がれ焼けそうだ
きっと彼は今日も
改造したSR400に乗って
街を走り去るだろう
流れ星みたいに

秋蛾

地下鉄の街灯に揺れる
大きな蛾の群れに
悲鳴を上げる少女
休めないコンビニの
店員が掃き捨てる死骸
真夜中に舞い
朝の光と共に消える
美しいその生涯を
私は真似出来ず
今日も揺籃の中で
震えながら世相を占う
生まれたままの心で

湿った雪を

故郷に降る
湿った雪を
時に私は
思い出すだろう
良い事なんて
何も探せず
逃げる様に
出て行った街を
年を重ねても
憎しみは晴れず
燦々と積み重なり
心は荒んだまま
あの雪が魂を揺らす
業火の様に