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アイルランド、スペインを経て奈良暮らし。夫はぽよぽよスペイン人。ふだんは漫画翻訳の周辺…

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アイルランド、スペインを経て奈良暮らし。夫はぽよぽよスペイン人。ふだんは漫画翻訳の周辺をうろうろ。noteではエッセイと妄想の間のようなものを書いています。

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光の方へ

秋の気配がぐっと濃くなった。 今朝、「もし画家か写真家になったら、光を表現できるようになりたい」とぼんやり思った。 それほど光が柔らかく、静かな朝だった。 名前に光が含まれている、ある写真家の方を思い出した。 写真を生業にしようとしている方だから、迂闊に写真見せてくださいと言えなかった。 どんな写真を撮るのだろう、と今更気になってきた。 部屋の中に観葉植物の鉢が5つある。 大して世話もしていないのにぐんぐん伸びて、皆健気に光の方を向いている。 「暗いほうを見つめないでく

    • ロンドン

      今朝、唐突にロンドンに行くと決めた。 ずっと抱えていた心のモヤモヤが霧散した気がした。 6年前の朝もそうだった。人の気持ちを安心させ、疲れを癒すような「肘掛け椅子のような絵が描きたい」と言っていたマティスの展示を観に、ロンドンのテート・モダンまで行くことにしたあの時も。 子ども時代、留学費用を貯めていた新社会人時代、留学生時代を通じて自由に使えるお金が少なかった私は、「展覧会のためだけにロンドンに行く」なんて信じられなかったのだ。 それでも魂の奥底からそれを求めていることを

      • 始動

        夫が数ヶ月スペインに帰国することになり、昨日出発した。 体重が自分の2倍以上あり、家事をするためいつも忙しなく動き回っていた夫が家の中からいなくなると、物理的にかなりの質量が失われた気がする。 「さびしい」という言葉では言いあらせわない、ぽっかり穴のあいた感じ。真夏なのに、胸の奥がスースーするような。 今日は久しぶりに朝から洗濯機をまわし、夫が作り置きしていったトマトソースを使ってミネストローネを作り、おそらく半年ぶりぐらいにお米を炊き、食器を洗った。 私は家事の中で洗

        • 読書会と翻訳教室

          読書会というものに初めて参加した。AからFまでグループ分けされていて、自分の名前のあるテーブルを囲んでチームで座るようになっていた。 薄暗い会場で、皆が『アントンが飛ばした鳩』を手にしている光景が一際目をひいた。青い表紙が並んでいて、なんだか圧巻だった。この本を暗号に集まったなにかの秘密クラブみたいだ。 自己紹介の後、順番を決めずに各々話し始める。 私を含めて6人だった。あからさまに場慣れしていそうな人から、寡黙な人までさまざまだった。読書会というものへのまったくの初参

        光の方へ

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          読書会にたどりつかない

          1ヶ月前から楽しみにしていた『アントンが飛ばした鳩』の読書会。 奈良から特急を使って名古屋に行くルートだったのだが、大和八木駅で特急券を購入した後、なんと別の急行列車に乗ってしまった。急いで大和八木駅に引き返そうと駅の反対のホームに走ったものの、ちょうど目の前で電車が去っていくところだった。途中駅でじりじりと15分待機して、やっと大和八木駅に到着した頃には、私の特急は出発した後。いつまでここでもたもたしているんだろう…。絶望しかけて、藁にもすがる思いでチケットを購入した窓口

          読書会にたどりつかない

          ムーン・パレスのこと

          ポール・オースターが4月30日に亡くなったとというニュースが、ゴールデンウィークの真っ只中に流れてきた。 これは私にとって、ちょっとした事件だった。 はじめはみぞおちのあたりがきゅっと縮まり全身が寒くなったような感じがして、状況を飲み込んでしばらく経つと胸がしんとした。 確か高校2年生の頃だったと記憶している。 本好きな友人が「この本すごいよ」と言って貸してくれたのが新潮文庫の『ムーン・パレス』だった。その頃の私は進路に悩んでいて、本当は語学や翻訳に興味があったけれどそれを

          ムーン・パレスのこと

          コーヒーゼリー

          天真爛漫で明るく、いつも持ち前のユーモアで周囲を和ませていた仕事仲間が、無断欠勤で突然解雇になった。上司からその決定を告げられたときは、どうしようもないと理解しながらも「仕事ぶりは問題なく、期日もしっかり守ってくれるので助かっていた」と勝手に口が喋っていた。 晴天の霹靂、とはこのことだと思った。 リモート環境で周囲も無断欠勤に気づいておらず、退職の理由も不明なまま日常は何事もない顔をして過ぎていった。 このままでは嫌だな、と思い彼女と一対一でオンライン会議をした。 いつも

          コーヒーゼリー

          人差し指の長期休暇

          クリックしすぎ?による右手人差し指の腱鞘炎発症からはや数週間。 書きたいこと、描きたいものいろいろあった気がしますが、日常で精いっぱいになっている内に霧散してしまいました。 テーピングしすぎで指が動かなくなりそうなのが怖くて、いまそろそろと書きはじめています。 まだぎこちなく、例えるなら人間の身体を乗っ取ったばかりの宇宙人が手をグーパーするときの感覚。 そんな心許ない状況ではありますが、転んでもただでは起きない、がモットーなので、これから霧散してしまったもの達を掻き集

          人差し指の長期休暇

          春の雨

          雨の日の本屋さんが好きで、仕事終わりにいそいそと向かった。 19時半の蔦屋書店。 まばらに埋まるスターバックスの座席を眺めて、ほっとする。 平日のこの時間にくるお客さんには、なんとなく親近感をおぼえる。 雨宿りをしていなくても、なんとなくみんなで雨宿りしているかのような、連帯感。同じ水槽に閉じ込められた魚の群れのようでもある。気づけばもう受験シーズンも過ぎて、思い思いに過ごしている大人の姿が多い。 突然、「子育てをしている人は、本当にすごい」と心の中で思う。 子どもが小さ

          作文の入り口

          先週の土曜日、ほんの入り口さんで開催された「作文の入り口スペシャル」に参加した。初参加なのに、いきなり3時間のスペシャルで大丈夫かという一抹の不安もあったものの、はじまってみればあっという間の、濃厚な時間だった。 参加にあたって、事前に宿題を出された。 お題はなく、A4用紙1枚程度という自由度の高さがかえって難しかったが、 しばらく考えていると最近心に留まった出来事が表面にぷかぷかと浮かんできた。 日頃から訓練している人間では無いので、自分の中にないものは書けない。 not

          作文の入り口

          深夜書店

          立春らしい。昨夜、久々に眠ることができなかった。 より正確には、うまく眠りの波に乗ることができず、取り残されてしまった。 不眠はつらい。隣に誰かが寝ていても、この世にひとりぼっちのような感覚に陥る。 夫は完全にあちら側の世界にいて、呑気にいびきをかいていた。 私はまんじりともせず2時間ほどベッドの中にいたが、一向に眠れる気がしない。 その状態が苦しく、嫌気が差してきて、仕方がないので諦めて起きた。 電子レンジであたためたミルクに蜂蜜を入れて、なぜかリビングではなく仕事部屋に

          深夜書店

          おまもり

          昨年、おまもりを買った。 正確には、ひいらぎさんのおまもりブレス。 SNSで美しい商品写真を目にして以来、頭の中が深い蒼色の石でいっぱいになってしまい、入荷と同時に「ブルータイガーアイxラブラドライト」のブレスレットを注文したのだ。 人生の節目節目で、主に心が弱ったタイミングでおまもりを必要としてきた。 それは物だったり、言葉だったりした。 どちらもそのときの自分にぴったり寄り添ってくれて、役割を終えると離れていった。 5年前、スペインにパートナーを残し日本へ引っ越すタイ

          おまもり

          振り返る間もなく

          2023年が終わってしまうらしい。 なんだかそれも悔しいので、振り返りきれないこの年を、振り返る努力をしてみようと思う。 1月、2月→誕生日は京都のちょっと良いホテルに泊まって魂の休息。ややこしかった確定申告を無事乗り越える。それ以外は記憶なしw 3月→3年以上遠距離状態だった夫がようやく日本へ。各種手続きでそわそわ。 4月→某大企業から仕事のオファー。オンライン面接など頑張っていた。あわよくば収入アップのチャンス!と血湧き肉躍っていたけれど、途中から「あれ、なんか求め

          振り返る間もなく

          ホームシックとアウェイシック

          先週夫が体調を崩し、めずらしく5日間ほど回復しなかった。 朝2時間半だけパートの仕事をしているので、なんとか仕事には行って、帰ってきてからぼんやり家事をこなし、昼寝をして、次の朝も体調が悪い…という状態がだらだら続いた。今年の風邪は喉にくるらしく、ずっとのど飴を舐めながらあまり声を発さずに過ごしていた。 声が特徴的な人なので、家の中で声がしないこと、そして小さくずっとスペイン語のラジオをかけているのがなんだか変な感じだった。心ここにあらず、というような。そういえば私も海外で

          ホームシックとアウェイシック

          光を求めて

          ロンドンのテート・モダンが大好きなこともあり、テート美術館 光展へ行ってきた。有名なターナーの絵画だけでなく、映像や写真、立体作品など、「光」を題材としたさまざまな作品に触れられておもしろかった。 国立美術館が無料のイギリスと比較するとお安くないチケット代かもしれないけれど、内容が実に多彩で「お得感」を感じられる展示内容だったように思う。 自然と足が止まったのはデンマークの作家ハマスホイの絵画。多くの人が一度は目にしたことがある、女性の後ろ姿が印象的な、室内の微細な光をと

          光を求めて

          言葉の贈りもの

          マネジメントというものをするようになってから、3年近くが経過した。 しかしここ最近はチームのメンバー数が10人を超え、気づけば数字の管理に追われ、常に業務過多な状況。ポジティブな気持ちで働くことが難しくなっていた。 メンバーの体調不良や休職も発生し、それでも変わらぬ数字を達成するよう求められる日々。人間というオーガニックな存在をまるで無視しているかのような、無機質なエクセルのグラフと数字たち。会社という名の利益追求集団。 誤魔化すのも限界にきて、もういいかな、ぜんぶ手放し

          言葉の贈りもの