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チームでの強みの活用は「トランザクショナル・メモリー・システム」が役に立つ!? ~論文レビュー『組織における強みの活用をマルチレベルの構成要素として考える』(2)~

こんにちは。紀藤です。本記事にお越しいただき、ありがとうございます。さて、今日のお話は「個人の強みをチーム(組織)で活かす」というテーマにて、前回のお話(以下記事)の続きです。

前回の内容を簡単におさらいしますと、「個人の強みの活用とチームでの強みの活用は違う」という話でした。たとえば、個人が好きに強みを発揮すると、バランスが取れていないジャズのように、チームのパフォーマンスにとってマイナスになることもある。そんな風にチームの相互作用を考えて、個人とチーム双方がWIN-WINとなる状況を考えるのが大事だよね、じゃあどうすればよいのか? というのが今日のメインテーマとなります。

<今回ご紹介の論文>
『組織における強みの活用をマルチレベルの構成要素として考える』(第三章_後半より)
Woerkom, Marianne van, Maria Christina Meyers, and Arnold B. Bakker. (2022)
“Considering Strengths Use in Organizations as a Multilevel Construct.”
Human Resource Management Review 32 (3): 100767.


集団的強みの活用のための「トランザクショナル・メモリー・システム(TMS)」とは

では、個人の強みをチームの中でも上手に発揮するために、そして個人とチーム双方がWin-Winの結果を得るためにはどうすればよいのでしょうか?

そのために参考となる理論が『トランザクティブ・メモリー・システム(以下TMS)』(Lewis, 2003)です。

TMSとは「専門性、信頼性、協調性という3つの特徴によって、チームが持つ知識を最適に活用することができる」と述べています。さて、一体どういう意味なのでしょう。詳しく見ていきます。

TMSの3つの特徴

TMSの「専門性」「信頼性」「協調性」の3つの特徴を補足すると、以下の通りになります。

●「専門性(awareness)」:メンバーの誰がどのような専門知識を持っているかというチームメンバーの意識のこと。
●「信頼性(credibility)」:チームメンバーがその知識(誰かが持っている専門知識)に信頼を置くこと。
●「協調性(coodination)」:チームのタスクを達成する際に、それぞれの知識の違いを効果的に扱うこと。

とのこと。たとえば、職場で付き合いが長くなるとこういう事がわかってきます。

「新規営業だったら、◯◯さんに聞いてみたら?」
「データ分析のやり方だったら、△△さんが上手だよ」
「マーケティングの話なら、XXさんが詳しいよ。マジ神」

みたいに、”誰が何の専門家なのかお互いが知ってくる”ものです。そしてそうすると、情報の獲得もよりスムーズになり、お互いに頼りにし合うことができます。これが「専門性・信頼性・協調性」がチーム内にある状況です。

そして、”チームにおける強みの活用(集団的強みの活用)”も、まさにこの”トランザクティブ・メモリー・システム(TMS)に似た構造を持っていると論文では考えました。

TMSと集団的強みの活用の違い

とはいえ、トランザクティブ・メモリー・システム(TMS)と集団的強みの活用は似て非なるところもあります。特に、「強みというものがそもそも曖昧である」というのが大きな違いです。具体的に、以下の3点をあげています。

第一に、「”専門性”は比較しやすいが、強みは比較しづらい」こと。専門性は、例えば保有している資格や能力などは、比較的可視化もしやすいので他のメンバー同士でどちらがより保持しているかわかりやすいです。しかし「強み」はその性質上曖昧かつ、個人内で働いているので、見えづらく比較もしづらいのです。

第二に、「他者の能力に対しては”信頼”を得やすいが、強みに対する信頼はシンプルではない」こと。専門性にも通じますが、あの人は簿記の資格を持っているとか、社労士の資格があるのでその領域において信頼できるなど、タスクも明瞭で比較的わかりやすいのですが、強みに対する信頼はやや不明瞭です。よって、長期にわたって仕事を共にする時間、お互いの強みを理解し合う時間が必要となることもあります。

第三に、「専門性は活用するタスクが明確だが、強みは活用するタスクが不明瞭である」ことです。たとえば、エクセルの知識やスキルならデータのまとめにエクセルの専門性を使うとか、企画書作成能力・プレゼン能力なら営業に活用する、などわかりやすいです。しかし「強み」として「ユーモアさ」「分析力」などはややふわっとしており、一方タスクと明確に紐づくものではないため、わかりづらさがあります。

集団的強みの活用に、TMSを活用する

こうしたTMSの観点、その違いを踏まえて、集団的強みの活用にトランザクショナルメモリ―システムの理論を活用するために、論文では次のように提案をしています。抑えるべきポイントは以下の3点です。

(1)誰がどんな「強み」を持っているのかを認識する(強みの専門性
(2)その「強み」についての信頼しているかを確かめる(強みの信頼性)
(3)「強み」基づいたタスクの割り当てと実行ができているか(強みの協調性)

これらをチーム内において共通認識を持ち、組み込むのです。それぞれの具体的な方策と注意点を見ていきましょう。

(1)強みの「専門性」

●どういうもの?:
強みの認識とは、誰がどのような強みを持っているかについてチームメンバーが共有する知識のことである。

●見つける方法は?:
1、アセスメントを使う
→VIAアセスメント、ストレングス・ファインダーなど(詳しくは以下ご参照ください)

2,強みを見抜くワークを行う
→フィードフォワードインタビュー、リフレクテッド・ベストセルフ、ストレングス・スポッティングなど。(詳しくは以下ご参照下さい)

●気をつけるべき点は?:
1,「強み」の認識や注目に影響する要因を知っておく
具体的には以下の3つが、強みの認識に影響するとします。
a、年齢や経験(長いほど強化されやすい)が、「強み」の認識に影響する
b、特定の性格タイプ(好感度や肯定的情動が高い人)ほど「強み」に注目しやすい
c、「強み」に関する知識の有無が、強みの認識や注目に影響を与える

2,「個人間で比較した強み」と「個人内で比較した強み」を分ける。
「強みの認識」はメンバー間での強みなのか、個人内での強みなのかを分けて検討する必要があります。
例えばチームメンバーの”個人間レベルで比較”した場合を考えると「タスクA(営業)」があり、メンバー間(aさん、bさん、cさん)で比較したとき、bさんが一番強みがあるとなったとします。
しかし、bさんという”個人内レベルで比較”すると、bさんにとっては、「タスクC(経営戦略)」→「タスクB(カスタマーサポート)」→「タスクA(営業)」の順で「強み」があると認識することが起こります。

ゆえに、「強みの認識」はメンバー間での強みなのか、個人内での強みなのかを識別し、チームでの強みの活用を検討する必要があります。

メンバーの強みを「個人間レベル(左)」と「個人内レベル(右)」で識別する

(2)強みの「信頼性」

次に、強みの信頼性についてです。

●どういうもの?:
強みの信頼とは、チームメンバーが他のチームメンバーの強みをどの程度信頼しているかのこと。

●見つける方法は?:
「強みの相互承認」を行うこと。研究によると、チームメンバーが同僚の強み、才能、スキルを尊重し、肯定することを相互に認識することで、誰がどの仕事をするか、誰と協力して行動するかについて合同しやすくなるためワークチームの効果的な機能が高まるという(Grutterink,Van der Vegtら, 2013)。

●気をつけるべき点は?:
チーム内で中核的なタスクに関わるものほど「重要なもの」として考え、それ以外の「他者の強み」を見落としてしまう可能性があるので、注意が必要。(例:たとえば、ユーモアや、謙虚さ、楽観性などは、チームビルディングなどに関わるが、タスクに直接は影響しないため軽視される、など)

(3)強みの「協調性」

最後に、強みの協調性についてです。

●どういうもの?:
強みの調整とは、グループのタスクを完了させるためにチームメンバー個々の強みを、効果的かつ組織的に活用すること。(Lewis, 2013)

●見つける方法は?:
メンバーの強みに沿った職務やチームの役割配分や変更を”共同で決定する”こと」である。(例:「熱意」という強みを持つ人に、ミーティングの議長を任せるなど。本人もそれを使うとエンゲージメントが高まる)

●気をつけるべき点は?:
大規模な単一領域グループ(全員営業で大人数のグループ)などでは強みの調整が困難になる可能性がある。その場合は、「強みに基づく非公式な役割(例:面白い人、慎重な人など)」を割り当ててグループ全体に役立てるようにする。

その他印象に残ったこと

以下、「チームにおける強みの活用」について、その他の論文で述べられていたポイントについて、印象に残ったことをまとめておきたいと思います。

チームで発揮する自分の強みは「一部でもよい」

全部使えなくても、自分の強みを一部でも活かす機会を得られれば、その人なりの強みの活用ができる、としています。一方、チームの目標と個人の目標が全く相容れない場合(つまり個人の強みを一部すら活用できない場合)は、タスクの変更、よりフィットするチームへの異動を検討するとよいかもしれない、と述べていました。

「わかりやすい強み」と「そうでない強み」を理解する

「強み」には、チームの目標に明確に役立つものと、そうではないものがあるとしています。たとえば、所属するチームが経営企画部であったとき、それに伴うアウトプットに関わる「分析思考」「戦略性」などは、チームの目標に明確に役立つ、と見えるかもしれません。一方、強みとして「共感性」「公平性」などを持っていた時に、チームの潤滑油として機能し、心理的安全性を高め、間接的に結果を繋がっていたとしても、チームの目標に明確に役立つ、とみなされないかもしれません。このような中核的なタスクを担わないため、見落とされる可能性がある、と述べられていたのが印象的でした(でも、そうした強みにも役割がある!というのがポイントです)。

「強みの信頼性」は、他者の強みを承認することで高まる

さて、「強みの信頼性」を高めるために、どうすればよいか?論文では、”チームメンバーが同僚の強み・才能・スキルを尊重し、評価し、肯定する事を相互に認識することで、誰がどの仕事をするか、誰と行動を調整するかについて合意しやすくなり、ワークチームの効果的な機能が高まる”と述べられています。

というのも、強みは自分自身を定義し、仕事上のアイデンティティの中心であり、肯定的な側面です。強みを承認する(尊重・評価・肯定する)ことで人は肯定的なアイデンティティ(自己イメージ)を維持することができます。そしてその強みの承認により「感情的信頼」を高めることに繋がるのです。

「強みの信頼性」を高めるためには、強み発見のチームビルディング演習がオススメ

さて、強みをお互いに理解し合い、承認し合うと「認知的信頼」と「感情的信頼」の2つの信頼(McAllister, 1995)が高まると述べます。

●「認知的信頼」
・例:「仕事で最善を尽くすためにその人を頼りにできる」など
→主に「役割内行動」から発生する(仕事の中心的タスクから生まれる)

●「感情的信頼」
・例:「個人的な問題を打ち明けると、心配して親身になってくれる」など
→主に「役割外行動」から発生する(同僚による職場支援など)

そして、チームビルディングとして「強み発見の演習」を行うと、メンバー同士の「役割内行動で使われている強み」と「役割外行動で使われているツ強み」の両方を意識することができるようになる、そして「強みの信頼性」を高めることができるそうです。まさに先述の『「わかりやすい強み」と「そうでない強み」を理解する』を補完することができるのですね。

まとめ

だいぶ長くなってしまいました。今日のお話はここまでとして、次回は「集団的強みの活用が生まれる背景要因(強みに基づく風土、強みの多様性)」
「集団的強みの活用によるチームレベルの成果」「トランザクティブ・ストレングスシステムがもたらす個人レベルの成果」についての論文の考察をまとめてまいります。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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