見出し画像

チームでの強みの活用は「ジャズ・アンサンブル」である!? ~論文レビュー『組織における強みの活用をマルチレベルの構成要素として考える』(1)~

こんにちは。紀藤です。本記事にお越しいただき、ありがとうございます。
さて、今日のお話は「個人の強みをチーム(組織)で活かす」というテーマです。

2022年の論文ですが、「組織内の相互作用を踏まえて、強みの活用を考える」という、これまでの研究を更に発展させた研究となります。キーワードは「集団的強みの活用(Collective Stregnth Use)」です。一言感想を言うならば、めちゃくちゃ勉強になりました。ということで、内容をみてまいりましょう!

<今回ご紹介の論文>
『組織における強みの活用をマルチレベルの構成要素として考える』(第三章より)
Woerkom, Marianne van, Maria Christina Meyers, and Arnold B. Bakker. (2022)
“Considering Strengths Use in Organizations as a Multilevel Construct.”
Human Resource Management Review 32 (3): 100767.


論文の全体像をざっくり解説

最初にお伝えしますと、本論文、長いです。そして内容も身がぎっしり詰まったカニのように、味わい深く濃厚です。よって合計3回に分けてお伝えしたいと思います。

本論文の目的

本論文での目的は、以下の3点です。

1,「組織における強みの活用」をより深く理解する
2,「チームが個々のメンバーの強みをどのように活用しているか」を調査する
3,トランザクショナルメモリー理論を活用した「強みの認識・信頼・調整を行うことによるチームのパフォーマンス向上の可能性」をみる

本論文の研究モデルは以下のように紹介されています。

研究モデル:「集団的強みの活用」の専攻要因と結果
オレンジの文字の部分が、本論文の中心テーマとして紹介されています。

本論文の内容

合計9章に分かれており、以下の章立てになっています。そして本日はこの内容の1~2章を解説していきます。

【論文『組織における強みの活用の考察:マルチレベルの構成要素として』】
1,はじめに
2,組織における強みと個人の強みの活用

3,個人の強みをチームで活かす:集団的強みの活用に向けて
 3.1 強みの認識
 3.2 強みの信頼性
 3.3 強みの強調性
4,個人の強みと集団的強みの活用の関係
5,集団的強みの活用が生まれる背景要因
 5.1 強みに基づく風土
 5.2 強みの多様性
6,集団的強みの活用によるチームレベルの成果
7,トランザクティブ・ストレングスシステムがもたらす個人レベルの成果
8、境界条件
9,ディスカッション
 9.1 実践的な意味合い
 9.2 結論

個人の強みをチームで活かす

はじめにお伝えしたいのが、「個人が強みを活用する」ことと、「チームの中で個人が強みを活用する」ことは若干違う、ということです。そしてその違いを解き明かすのが本論文の一つのテーマにもなっています。

より正確にいえば、「個人が(一人で勝手に)強みを活用する」ことと、「個人が(チームの相互作用の影響を踏まえた上)で強みを活用する」ことは、考えるべき要素が増えて複雑になる、ということ。まずはこの違いを見ていきましょう。

チーム内での「個人の強みの活用」は、複雑で難しい?

個人において、「強みの活用」について多くの研究があります。「強み」とは「その人が良いパフォーマンスを発揮したり、ベストを尽くしたりすることを可能にする特性(Wood ea al, 2011)」とも説明されます。

個人がその人の「特徴的な強み」(=シグニチャーストレングス。通常3~7つ持っている)を活用することで、ポジティブな感情が高まったり、最高の自己像に近づいたり、創造性が高まったり、幸福度が高まったり、ワークエンゲージメントが高まり仕事のパフォーマンスも上がるなど、様々な効果があることが知られています。

しかし、「チームの中で活かす」となると、話が複雑になります。繰り返しになりますが、チームではメンバー間の相互作用が起こるからです。

チームの中での強みの発揮は「優位な偏り」が優先される

たとえば、その個人の強みが「人の気持ちに共感する」であったとします。人への共感をすることが「自分らしさ」を感じると自分でもわかっている。しかし、チームの状況を見た時に、たとえば「うちのチームで、データ分析をしないといけないけど分析することができる人がいない。ちなみに、あなたはメンバーの中では比較的「分析する力」があるよね。だからお願い」と求められることもあるわけです。

別の表現で言えば、チーム(組織)で強みを活用する場合は「個人の中での優位な強み(かたより)」ではなく、「チームの中での自分が持っている相対的に優位な強み(かたより)」が優先されることもある、ということです。”個人の中”では「共感性」という特徴的な強みがあっても、”チームの中”で求められることは、(個人的にはさほど強みとも思っていない)「分析志向」が重宝され感謝されるということは、現実には起こりえます。

以下、関連する話を、論文から引用いたします。

<チームにおける強みの活用の難しさ>
チームで働くということは、様々な個人が共通の目標を共有し、タスクの相互依存関係を示し、社会的に相互作用することを意味する(Kozlowski& Bell,2013)。

自分の強みを自分のニーズに最適な方法で活用するチームメンバー個人は、その行動によってチームタスクの一部が放置されたり、人員過剰になったり、その分野に強みを持たない他のチームメンバーに引き継がれたりする可能性がある。すると、その人の強みはチームパフォーマンスに利益をもたらすどころか、むしろ害を及ぼす可能性がある。

この状況を「ジャズ・アンサンブル」に例えることができる。たとえば、一緒に演奏するとき、全員がそれぞれの強みを発揮しようとすると、ひどい音になってしまうかもしれない。

このような理由から、「集団的強みの活用」を理解するためには、個人レベルの強みの使い方をユニットレベルに集約するだけでは不十分なのである。

第三章:個人の強みをチームで活かす:集団的強みの活用に向けて より

余談ですがこの話に共通する本は、書籍『天才性が見つかる才能の地図』でも、同様のことが書かれています(ご興味がある方はこちらの記事もどうぞ)。

少し長くなりましたので、この「集団的強みの活用」に役立つ考え方と理論については、次の記事に続けたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?