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短編小説【ウラとオモテシリーズ】「ハートの転売ヤー・ウラ編」

※「ハートの転売ヤー・オモテ編」を読んでいない方は上記のページに飛んでいただければと存じます。

「ちょ、ユ、ユウキくーん」
ミユキが叫び、ユウキくんがこっちへ全力速で走ってくるわ。
あたしというと昇降口の影で張り込みんでいる刑事のように隠れて、ミユキとユウキくんのやり取りを一部始終覗き見していたところ。
ユウキくんが校舎に駆け込み、あたしに気づかず通過しようとしていたので、「こっちこっち」と声を絞って声をかける。
ユウキくんに声が届きいたのか、あたしの方に気づく。
「おっ、ミサキか」
そう言うと、誰かに見られていないか辺りを見回し、見つからないように俊敏な動きであたしの方へ駆け込んできた。
ユウキくんが不安な表情であたしの前に立ち尽くしているから、まずは励ますか。
「いい仕事だったわ」
ダサいサムズアップポーズするのもいいが、あたしの顔は薄気味悪く、ニタニタっと笑っているだろうな。そんなことは今はどうでもいいか。
「おい、あれで俺の金、返ってくるんだろうな」
「あとは任せて。あの迫真の演技で購入確率をアップアップ」
「そんな自信はどこから来るんだ…」
「んーそうだね…ミユキやミズキ達が、あなた達の第二ボタンを他校に売りさばこうと作戦を立てていたのは、教えたでしょう?」
「あぁ、それは聞いた聞いた」
「正直あたしとしては、ミユキ達がどこの誰に売ろうが煮ようがどうでもいいの」
「どうゆうことだ?」
「まぁまぁ、怖い顔で凄まないで」
「おっ、ごめん」
「こほん…じゃ、気を取り直して。一番重要なのはあたし達にお金が入ってくるかどうか」
「そりゃそうだ」
「入ってくるためには、ミユキ達にどんな手を使ってでも買わさせる必要がある」
「それがさっきの演技やこの前取った写真とかと何が関係するんだ?」
「鈍いね」
「悪かったな、バカで」
「バカまでは言ってないわ」
「そんなことより、続きだ」
「はいはい」
あたしはポケットから写真とボタンを取り出す。ポケットから出した瞬間、某青狸型ロボットアニメで出てくる効果音が頭に過ったのは、ここだけの話。
「まず、写真を撮ったのと第二ボタンにサインさせたのは、他校の女子の購入意欲を高めるため」
「購入意欲?」
「…Airhead…」
「あ?なんて?」
「気にしないで、独り言だから」
「まぁ、要するに、アイドルのCD買ったら、おまけにチェキやサインが付いてくる、そっちのほうが買われるでしょう?それと同じ考え方よ」
「なるほど…やっとわかった。だけどな、それだけでは売れる保証はないだろ?」
「そ・れ・と、保険にあなたにミユキに好意を匂わせる演技をさせたのは、ミユキの購入意欲を高めるためでもある」
「ほう…へ?」
「あたしが提示する値段を見て、転売を辞める可能性はある。だけど、ミユキ達の向こうの人達が買わなくても、ミユキ達本人が欲しがる可能性があるのさ。あなたへの好意を知って自分で持っておきたい欲を満たすために」
「そんなものなのか、女って…俺は買おうと思わないけどな」
「一般的にはね。ミユキ達はちょっと強欲というか、人より欲に忠実というか、悲しいことに」
「ミサキがそう言うなら、そうなんだな」
「はい、そんなことだから、ここで会っているのが見られる前に解散。後は任せて」
「任せるわ。ちゃんと俺の六千円、ミユキから取り返してくれよな」
「あぁ、モチのロン」
ユウキくんはそそくさと階段を登っていき、あたしはその後姿を目で追う。
「さて、ハルキくんの様子も見てくるか」
あたしは辺りを見回し、誰も居ないことを確認して、廊下を走っていく。

屋上のフェンスの前でスマホを弄っていると、下からミユキとミズキがギャーギャー騒いでいるのに気づく。
恐らくあたしを探しているだろうが、まだ見つかるものか。
「さて、仕掛けるかな」
あたしはスマホ画面をタップして、グループラインに文章を書き込んでいる。
「”ユウキくんの第二ボタン(写真とサイン入り) 今なら7,000円 早い物勝ちだよ。購入者居ないなら、後輩に売っちゃうぞ♡”と、くくく」
今、あたしの顔は薄ら笑いを浮かべているだろうな。
いいでしょ?あたしにもちょっとは分け前貰ってもバチは当たらないでしょ。

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