見出し画像

短編小説【ウラとオモテシリーズ】「ハートの転売ヤー・オモテ編」

「えぇー、第二ボタン、ミサキにあげた!?」
「く、苦しい、え、襟、捕まえ、んといて…」
「あっ、ごめん、ユウキくん」
驚きのあまり私はユウキくんの襟を掴んで、凄んでしまった。
襟を掴んでいた手を直様離し、何度も頭を下げて、謝った。
「ゲホゲホ」
首元を手で押さを、苦しそうに空咳をしているユウキくんに、恐る恐る口を開く。
「ねえ?なんで、ミサキなんかに?えっ、まさか、ミサキと…そんな関係やったの?」
「ゲホ…え?ミユキが頼んだんじゃなかったんか?…ゲホ」
「私が?ミサキに?え?何の話?」
「ゲホ…ほんまに何も知らんのか?」
「知らんし、てか、なんでミサキに頼まんとあかんねん」
クソッ、なんで卒業式にユウキくんの前で声を荒げないといけないんだ。ミサキ、後で問い詰めたる。
「嘘やん、お前の頼みって言っていたから、渡したのに…それに…」
ユウキくんがその場で崩れ落ちる。
「ねえ、ユウキくん…そ、そんなに、落ち込んでくれるってことは…」
唾をごくんと飲み込み、心臓が破裂しそうに高鳴っているのがわかる。
だが、ユウキくんに語りかけても四つん這いのまま反応しない。数秒の沈黙が続いたが、それが体感で一時間以上に感じた。すると、小刻みに震えだすと、突然立ち上がり、「うぉおおおお」と発狂して、校舎へ全力で走っていく。
「ちょ、ユ、ユウキくーん」
ユウキくんが去っていく後ろ姿を私はポカーンと見つめ、その後地面を割るぐらいの力で地団駄を踏む。
「ミーサーキー」
怒って髪が逆立つと比喩されるが、今の私は傍から見たら、婆娑羅像に見えるだろう。
ミサキ、許さん。どこだ、待っていろ。そう心に刻むと、校内を駆けずり回る。

「ミサキ、どこだあああ…はぁはぁ」
息を整えるため膝に両手をついて、休んでいる。三十分ぐらい校内を隈なく探したが、ミサキのミの字もどこにも見当たらなかった。
「おーい、ミユキ」
「ん?ミズキ?」
背後から、友人のミズキが慌てて走ってくるのが見える。
息を切らし走ってきたが、私の目の前で足を止める。
「ねえ、ミサキ、知らない?…はぁはぁ」
「ミズキも探してるの?」
「そうゆうミユキも?」
「えぇ」
「うっそぉ!?なら、あんたもミサキにやられたわけ!?ミサキめ…」
「ミサキ被害者が複数人いるとは…早く見つけて、問い出だせてやる」
ミズキの話を聞いて、更に内なる私の闘志が湧き上がってくるのを感じる。
すると、トゥルンとLINEの通知音がミユキとミズキのスマホから同時に鳴り出す。
「こんなときに誰から?」
ミズキがスマホを取り出し、スマホ画面をタップすると、ミズキが表情が鬼に変化する。
「ミユキ!!グループライン、見て!!」
声を荒げるミズキを横目に直様スマホを取り出し、LINEを見る。
そこには驚愕の内容が書かれていた。探していたミサキからのメッセージだ。
そこには、”ユウキくんの第二ボタン(写真とサイン入り) 今なら7,000円 早い物勝ちだよ。購入者居ないなら、後輩に売っちゃうぞ♡”と書かれていた。
「はぁ?」
驚きと怒りが入り混じり、意識が混濁している中、次々とミサキからメッセージが書き込まれる。
”ハルキくんの第二ボタン(写真とサイン入り) 今なら8,000円 早い物勝ちだよ。購入者居ないなら、後輩に売っちゃうぞ♡”
ユウキくんと同じようにハルキくんというミズキが好きな人の第二ボタンや、他にも女子に人気の男子の第二ボタンをミサキがグループラインで売りさばいてやがる。
私はスマホを全力で握りしめ、スマホ画面にヒビが入る。
「ミ~サ~キ~」

※「ハートの転売ヤー・ウラ編」は上記のページに飛んでいただければと存じます。

この記事が参加している募集

眠れない夜に

文学フリマ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?