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神々の実験 Ⅰ

神話と言われた時代。
地球上には数多の神々がいた。
人間はまだ他の生物とさほど変わりなく
進化の途上にいた。

神々は地上にも海にも天空にもいた。
やがて神々は地球の統治から
手を離そうと考えていた。
人間に智慧と道具を与え、言葉を与えた。

そして壮大な実験を始めた。
人間が地上の守り神たり得るのかどうか
失敗を繰り返しても我慢強く
その進化を見守った。

やがて人間は文明を築き始め
世界各地へと活動範囲を広げるまでになった。
神々が次第に手放したおかげで
人間は好き勝手に欲望を手に入れた。

人間は神々のことを
神話や伝説の中に語り継ぐようになり、
その偶像や神々が棲まう神殿をつくった。
神々が降りてくる神聖なものとして。

しかし今なお、神々と話ができる者が
人間の中に現れることがある。
神官や巫女、聖霊の声を聴くことができる
原住民と言われる者たちだ。

彼らは時の声として神々の声を聴き
自ら媒介者となる伝える能力を保っていた。
その能力が生まれつきの者もいれば、
厳しい修行の末に身につける者もいる。

今も近代文明社会において
地上の特異な場所に現れることが多い。
そもそも人間は、生まれてしばらくは
神の領域と現生の間に生きているものだ。

それは人間が神々と交流があった記憶を
残すためだった。
だが早々と能力を閉じてしまった人間は
もはや記憶すら消去した。

現代ではかつての神殿を遺跡と呼ぶが、
その場に行けば、鋭敏な感覚を保つ者は、
厳粛な空気に包まれ、世俗を超えた力を
感じることがある。

未だ人間は神々の実験の対象である。
神々の生きている時間は人間のそれとは
まるで違う次元の長さである。
人間の一生はとても短い。

神々は実験の方向が狂ってくれば
様々な形で啓示を与えたり、
時に大きなテコ入れをすることもある。
神とて一度にすべてをやり直したくはない。

だがそれも限度があろう。
かつてのように、失敗した人間を一掃し、
新たに造り替え、違う要素を与えて
実験を始めるかもしれない。

その時、われわれ人間は、
どのくらい残されるのか、あるいはすべて
地上からいなくなるのか
それこそ神ぞ知ることなのだ。

(つづく)


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