コンプレックスと『金閣寺』
僕には、言葉を発する前に「あ、」とワンテンポ置くクセがある。「あ、」と言うのは一瞬だが、その一瞬の間に、相手の言葉を咀嚼し、言葉を探し出し、ようやくそれで、それ相応の返答ができる。この「あ、」はいまや、僕にとってなくてはならない一瞬、言語活動の必須要件となってしまった感がある。が、他方でこのクセは僕にとって長いあいだコンプレックスでもあった。「あ、」と間を置く人間はコミュニケーション障害と揶揄され、馬鹿にされたりいじられたりするのが定石だからだ。このことから、僕は言葉を発する