ビジネスという名の戦場に立って
東西線の大手町駅を降りると、ネイビーだのグレーだのの制服を着た連中が出口に向かって行進を続けている。スーツは自らの能力を誇示する戦闘服であり、人々は固い皮でできた靴を履いて、せわしなく平坦なコンクリートの上を歩いてゆく。その手元に、金という名の銃弾を忍ばせて…。
ビジネスの世界は戦場だ、などと考えているのは、入社3週間目にして重い風邪をこじらせたせいかもしれない。週末の二日間の休暇で、僕は病気を治さねばならなかった。僕に選択の自由はなかった。当然といえば当然だ。月曜日から会社にまた行かねばならないという事実は変わらないのだから。言い換えれば、会社の規律に縛られている以上、戦場から撤退することも、戦闘から離脱することも許されないのだ。
この生活を始めてわかったことだが、僕はビジネスの世界で生きていくことにいかなる希望も持っていなかった。野心もなかった。同期には、「プレイヤーとして自立したい」とか、「早く成果をあげられるよう成長したい」とか、そういう理想や意志をもっている人もいる。そういう人を羨ましいとは思わないし、そういう気持ちをこれから持てるともあまり思えてはいない。この生活を続けるためのモチベーションが、彼らと僕とでは異なるというだけなのかもしれない。僕はただ、「生活」を営みたいだけだ。生活には金がいるし、今後の食い扶持も考えて、将来の融通が利きそうなところに就職しただけだ。しかしそんな気持ちで、僕はこの戦場を生きていくことができるのかと不安にもなる。僕に考えられるのはせいぜい自分のことだけだ。自分がどうやって生活をしていくか、無理のない範囲で読み、書くことをどうやって続けていくかという点しか、僕は気にかけることができない。少なくとも現時点では。
しかし、この仕事をやめるのはもう少し先でもいいかと考えている。いまは書かないが、理由はいろいろとあって、ともかく仕事をしなければならないというのも事実なのだ。ずっとこの戦場で生き延びていくだけの自信は僕にはないけれども、それまでは、逃げ回ってでも延命してやろうと思う。どうかみなさん、それまではこの拙い書き手の戯言に、愚痴に、お付き合い願いたい。
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