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やりたい!を応援してくれる人が沢山いる?! ~ 地方の可能性を知ろう ~

 2月のカラフルデモクラシーでは昨年9月に扱った「地方の過疎化と都市一極集中」というテーマに引き続き、鳥取県大山町で地域おこし研究員としてご活躍の松浦生さんをゲストにお迎えし、地方の可能性についてお話を伺いました。

実践の場を求めて、鳥取へ

 小さな頃から釣りや登山が好きだったという松浦さん。小学校1年生ぐらいの時に自分が度々釣りをしていた川がコンクリートで護岸され、魚がいなくなってしまったという経験をした。そのころから、子供心に「人間の生活と自然のサイクルは相いれないものなのかな」という問題意識を感じ始めたという。中学生の頃に、その問題意識が社会の中では環境問題としてとらえられており、解決しようと動いている人が沢山いて、国際的な動きもあることを初めて知った。それ以来、環境問題が松浦さんの中での大きなテーマになったという。

 高校3年生の時に取り組んだ卒業論文でも環境について扱った。しかし調べを進める中で、「環境、環境って主張するのってちょっと違うな。もちろん声を上げて活動することは大事だけど、それでは『また環境保護主義者が騒いでいるよ』で終わってしまう。人間社会の仕組み自体を自然の循環の中に組み込む形に作り替えていけば、自然環境のサイクルと人間生活のサイクルが喧嘩しない形に作り替えられるのでは?」という考えに至った。そういった事を更に勉強し、かつ実践もしてみたいと考え、大学進学を機に、生まれ育った東京都から鳥取県に移った。東京ではなく鳥取を選んだのは、東京には実践できる余地を感じなかったからだという。

「チャレンジする大学生と暮らす宿」を経営!

 鳥取県は人口最少県。県全体で56万人しかいない。これは東京都八王子市と同じぐらいの人口だ。特に若者が少ない。そのため、若者がなにか活動すると良くも悪くも注目が集まりいろんな人が応援してくれようとする環境があるそうだ。大学一年生の時は近くの村のおじいちゃんおばあちゃんの畑作業を手伝って、野菜をもらい大学の中で売る活動をしていたそうだ。そんな中で鳥取市用瀬町という町の人から声がかかった。

 用瀬町は人口3500人程度の小さな町。沢山ある空き家を使って、自分たちのやりたいことにチャレンジしないか、という誘いだった。松浦さんはここで、1学年上の先輩と「もちがせ週末住人の家」という活動を始めた。もちがせ週末住人の家は宿を運営している。といってもただの宿ではなく「チャレンジする大学生と暮らす宿」だ。若者がやりたいことを、沢山の人が応援してくれる環境を生かし、全国の大学生が一定期間滞在して、自分のやりたいことをチャレンジすることができる宿だという。今までの4年半ほどの中で滞在したのは400人ほど。だが、大学生が長期休暇などを使い、国の制度も使って長期間滞在することも多く、泊数で数えると3000泊ほどにもなるという。若者がほぼいないまちに、これだけの若者が訪れる拠点を作り出した。滞在する中でこのまちを大好きになって何度も通ってくれる人も多く、そういった人たちのコミュニティーもできている。中には、鳥取に魅了され移住してきた人もいるという。「ビジネスとしては成り立っているかと言われれば怪しいが、応援してくれる人がたくさんおり『楽しいね』という気持ちだけで4年間続けられているという感じ」と松浦さんはいう。若者を面白がって応援してくれる人がいる環境だからこそ成り立つ取り組みだ。


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    (写真提供:松浦生さん 後列左端が松浦さん)

 2018年度に大学を卒業した松浦さん。今度は同じ鳥取県の大山町に主な拠点を移し、地域おこし研究員に就任した。地域おこし研究員とは、慶應義塾大学大学院政策メディア研究科が、全国各地の地域と協力して行っているプログラムである。総務省の行う「地域おこし協力隊」制度や、地方自治体、企業、団体の独自の制度を利用し、実践的な研究を行う大学院生を任用している。任用先では一定の報酬費等が支払われる。例えば地方自治体との連携の場合、役場の臨時職員として働きながら、町から与えられる一定のミッションに取り組む代わりに、3年間は町からお給料が払われるという仕組み。松浦さんは大山町でも「もちがせ週末住人の家」のように、大学生が週末やお休みなどの、大学以外の時間だけでも、住人として町の一員になりながら活動することができるのではないか、それが、町の制度としても整備できるのではないかという事を実験をしているそうだ。

人の持続性が息づく場所

 松浦さんが鳥取にやってきたころ、地方創生、地域活性化という言葉が盛んに叫ばれていた。

 鳥取では、県内出身の若者たちをいかに県内に残すか、というようなことを真剣に考えている人たちがいた。松浦さんは、確かにそれも1つの考え方ではあるが、鳥取県出身の若者たちも、1人1人の人生を持っており、選択の自由があるはず、国や行政がそこに関与しようとするのは少し違うのではないか、と思ったという。また、移住者を増やそうとすると、行政が住まいなどの支援をしようとお金をつぎ込むことになる。減りつつある日本の人口を、自治体同士がお金を注ぎ込んで奪いあう、という状況はお互いにとってあまりよくないのでは、と松浦さんは考えた。

 松浦さんは、いつもそこに住んでいなくても、休みの時だけやってくる人がいて、そこの住人と一緒に楽しいことをできるような環境を作れば、ある程度人が減っても楽しい生活が続けられるのではないか、と考えているそうだ。

 また、松浦さんは鳥取で活動するなかで、上の世代の人たちが、彼らがいままでの生活の中で育んできた思いや、知恵や、ノウハウを若者に引き継いでくれようとしているのを実感し、これこそが社会の根幹なんだろうと思ったそうだ。世の中では今、盛んに持続性という事が言われているが、これは突き詰めれば「人の持続性、人材の持続性」という事につながるのではないか、と松浦さんは考えている。

 ある世代から次の世代へと思いや知恵が引き継がれている地域社会。これこそが持続性のある社会の見本ではないか。こういった環境に人々が入り込み、自分自身の人生を模索しながら社会の一員になっていく。そんな環境づくりをしていきたいと、松浦さんは聞かせてくれた。


 後半は参加者との双方向のやり取りを通して話を深めた。これについてはまた別の記事でまとめよう。ぜひそちらもご覧あれ。


                    (記事作成:松浦 薫)

もちがせ週末住人の家について更に詳しく知りたい方はこちらへ!

(記事冒頭の写真は、用瀬町の流しびな。毎年旧暦の3月にはひな祭りが開催され、多くの人が訪れる。)

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