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自閉症支援の現場で人材育成・マネジメントを考える

 皆様、ご無沙汰しております。noteで活動をやっていこう!と気合を入れたもののその後は大学院の研究が忙しくなり、修了してからは現場が忙しくなり、気が付けばこんなに期間があいてしまいました。申し訳ありません。無事に大学院を修了して早1年も経ってしまいました(笑)少しずつ、こちらの活動も再開したいと思っています。(またnoteに慣れていかなければ…)うまく書けるかどうかもわかりませんが、皆様からのリアクションが励みとなります。拙い文章で大変恐縮ではございますが改めてよろしくお願いいたします。

 今回は私が社会人大学院として学びを深めてきた専門職の人材育成やマネジメントについてお話をしていきたいと思います。私が人材育成やマネジメントに興味を持ち始めたのは少しずつ出てきた様々なズレでした。効果的な支援をどうして導入しないのだろう?「利用者のため!」と全受容している様子は本当に正しいのだろうか?など多くの疑問が頭をめぐっていきました。そして一人で取り組んでいることに難しさを感じ、私は外部とのつながりを多く持つようになり、学びをすすめていきます。そうすると多くの情報に触れることができて、支援の方法や考え方はどんどん変化していきました。以下の記事に少し考え方の変化の部分が書いてあります。

 そういった中、大学院で学んだことは「研究されたものが実践につながっていない現状に対し、どのようにアプローチするか」でした。現場においても様々なところで「なかなか人が育たなくて…」「どうやって人材育成をしていいかわからない」「研修に行ってもらうんだけど現場が改善していない」などのご意見を聞くことがあります。これらは本当に難しい課題であるとともに、喫緊の課題です。しかし、人材育成とマネジメントの違いや整理をしていかないとごちゃ混ぜになってしまう内容でもあると考えました。私なりにひも解いていこうと思います。どうぞお付き合いください。今回は6842文字でした。


1.現場で実践すること考える

 これまでの先人たちの培ってきた研究により、エビデンスに基づく実践(EBP)とそのプログラムの開発や特定に関連する科学は多く見られます。EBPとは有効性が証明されている特定の焦点を絞った介入の戦略です。海外ではThe National Clearinghouse on Autism Evidence and Practice (NCAEP)、が1990 年から 2017 年に発表された文献をレビューし、基準を満たした 28 の EBP と 10 のマニュアル化された介入を特定しました(2020 EVIDENCE-BASED PRACTICES REPORT)。
 身近に考えてみましょう。例えば、強度行動障害の支援の中でも言われている介入方法としてTEACCH Autism Program🄬のアイディアやPECS🄬、応用行動分析など効果があると認められた方法は皆様も聞いたことはあるのではないでしょうか?より実践的に整理されたものを私たちは日ごろから学ぶ機会も増えてきており、自閉症支援のプログラムは随分と進んできていることがよくわかります。しかし、こういった効果的な実践として知られていること(理論と科学)と実際に行われていること(政策や実践)の間に大きなギャップが存在することが浮き彫りになってきました。それぞれには「効果的な実践プロセスと結果」、「現場の実践に落とし込むプロセスと結果」があります。

 Blaseら(1984)はEBPや何かのプログラムを実践する際には実践の結果(意図した通りにプログラムを行なえているか?)を有効性の結果(実践やプログラムの良い効果が出ていたか?)を区別する必要があると論じました。効果的な実践やプログラムが完全に実施された場合にのみ、肯定的な結果が期待できます。RossiとFreeman(1985)は、以下のような3つのプログラムの不適切な実践をすると、介入が効果的ではないという誤った結論につながる可能性があるとしました。

①プログラム内容が提供されないか、少なすぎる。
②間違った形でプログラム内容が提供されている。
③プログラムが標準的になっておらず、管理されていない。ターゲットの集団によって異なっている。

2.プログラムの忠実度を高める重要性

 以上のことからEBPやプログラムが明確に説明されたら、それらが使用されていると言えるために存在する重要な要素を考慮して、その要素を忠実に機能させることが大切になってきます。Humeら(2010)は実際の方法と支援者の実践の間に決定的な関連性を引き出すことができる信頼性の高い有効な尺度の妥当性とその重要性を示しました。それをFidelity(忠実度尺度)といいます。この忠実度の尺度がなかったり、活用が乏しかったりすることは実験群と対照群の間の違い(例えば、対象群の現場がプログラムの要素をどの程度使用しているかなど)を十分に説明することができず、成功しなかった結果が効果的でない実践によるものかどうかを判断できず、悪い結果が意図した通りにプログラムを実践しなかった結果であるかどうかを判断することができないとされています(O'Donnell2008)。これらから忠実度は、重要な分野として認識されるようになりました。効果的な実践を忠実に「スケールアップ」して使用するための、より広範なシステムの視点が必要になってきます。

3.実装のフレームワーク

 Fixsenら(2005)はこうした一連の研究をまとめ、プログラムの実装を可能とする要素と概念化のモデルを挙げました。実装とは、証拠とアイデアを現実世界の人々のために機能する政策(方針)と実践に変えることを目的とした、計画的かつ意図的な活動を実行することと定義できます。言い換えるとどのようにプログラムを導入し、現場での実践に活用できるようにしていくかの部分を検討されてきたと言えます。Fixsenらが研究したその要素や概念化したモデルについて整理していきましょう。今回参考にしているのはNational Implementation Research Network(NIRN)の研究論文です。NIRNは、ノースカロライナ大学チャペルヒル校のネットワークなのでTEACCH Autism Program🄬を学び、研究論文を調べていたらどんどん行きついてきました。今回はその中でもActive Implementation Frameworks(2015)でまとまっているNIRNモデルとされている内容です。このActive Implementation Frameworks(
積極的な実装フレームワーク)というのは、次の5つのフレームワークによってEBPやプログラムの忠実な実装を導きます。

①Usable Innovations(使用可能なEBPやプログラム)
②Implementation Stages(実装の段階)
③Implementation Drivers(実装の推進要素)
④Implementation Teams(実装のチーム)
⑤Improvement Cycles(改善のサイクル) 

4.フレームワークの意図とは?

 上記の5つのフレームワークの意図を整理していくと、①としてEBPやプログラムを導入する前に、プログラムとその機関や組織への適合性を明確に理解することが重要です。実行が可能であり、実際にすぐに評価できる必要があります。利用者への支援成果を向上させるために、EBPやプログラムを完全かつ効果的な使用を促進させられるようにしなければいけません。②さらにはサービスやシステムの変更を成功させるには、段階に応じた実装の活動を計画的に実施することが必要となります。③具体的に計画する主要な要素は実装の推進要因としてまとめられました。この推進要因となる要素を開発すると効果的で持続可能な使用をサポートする実装インフラ(実装の基盤)の整備が実現します。④また、積極的に取り組む実装チームを作成するとより効率的でレベルの高い実装につながり、⑤PDSAの改善サイクルを用いて意図的に様々な障壁を特定し、問題解決や対処を行い、実装を改善していきます。そして、事業所や法人の方針や方向性を実践に結び付けることは、持続可能で忠実度の高い実践に対するシステムの困難さを軽減するのに役立ちます。こうしてそれぞれのフレームワークが連携することでEBPを現場の実践を忠実に実行するための基盤を提供します。
 これらの意図が整理されていて、取り組みたいことが効果的に動いていく。これを聞いて振り返った時に皆さんがプログラムに取り組むときはどうでしょう。ここまで整理をした上で計画をたてて、組織のサポートをもらいながら動くことはできているでしょうか?おそらく学んできたことを個々が利用者に対して実践しようと取り組んだり、ある程度のグループや体制で利用者の行動に対して実践してみたりが多いのではないかなと推察します。実際には組織的な行動管理がとても重要になってくることがよくわかる内容だったのではないでしょうか?私はどんどんそういった組織的な行動管理に興味が沸いてのめりこんでしまいました(笑)

5.人材育成で活用されるコーチング

 さて実装フレームワークの中で③Implementation Drivers(実装の推進要素)は、Core implementation component(主要な実装要素)とも言われており、実装をするためのキーとなるポイントです。実装の計画や戦略を促進し、成功を確実にしていくために多くのプログラムや実践に存在する共通の特徴に基づいています。これを学ぶだけでも自身の実践を振り返った時には何か実践のヒントになるのではないかと思いました。
 このImplementation Driversの推進要素には2種類あり、その中の一つであるCompetency Driversの推進要素でコーチングがあります。Competency(コンピテンシー)という言葉は日本語になりにくく個人の能力、適性などになるらしいのですが、職務で優れた業績や成果を生み出す個人の行動特性や特徴を示します。この個人の能力を高める方法、言い換えると個人がプログラムを忠実度に行っていくための手法の一つとしてコーチングがあるということにつながります。
 最近は様々な研修でよく見かけるコーチングですが自閉症支援の中でも人材育成の中でも重要な手法として紹介されるようになってきました。その中でよく出されるJoyce and Showers(2002)のコーチングに関する研究があります。この研究では4つのトレーニング要素を活用した時に知識、技術の実践、現場での活用の3つの成果に対する影響を調べました。4つのトレーニング要素とは①座学と討議のみ。②①にモデルを見せる実演を行う。③②の要素に自分で行う実習と振り返りを追加する。④③の要素に加えて、現場でのコーチングを導入するといった4種類です。その結果、①②③のトレーニング要素では現場実践にはうまくつながっていないことが示唆され、現場での活用において影響があると考えられたのは④実際の現場で行うコーチングを伴った研修でした。このことから私たちがよくやっているセミナー型やワークショップ形式の研修だけでは知識や技術が上がっていても、現場での実践に対して影響与える成果が乏しいことがわかります。この研究のデータではびっくりするような数値ではありますが皆さんも「学んできたはずなのにうまくいかない」と悩まれていることもあるでしょう。悩まれている方々は実際の現場でどういったところがポイントになるか整理はできているでしょうか?一つ整理ができる内容であると思います。

6.参考にできるところはたくさんある

 色々と私の中での学んできた人材育成やマネジメントなどを整理してきました。支援を学ぶこと同様に、現場で成果を目指す上では、より効果のある方法を模索して学ぶ必要があることが考えられます。内容は近年どんどん進化しており、2020年の論文ではNIRNの実装モデルも新しい形になっていたので…また勉強を頑張ります(笑)今回はまとまっていた2015年の書類から抜粋させてもらっていますが進化は本当に早いですね。私自身も論文を読み漁って「これがわかりやすい!」と読んだ後に、さらに改良されたバージョンを見つけてイタチごっこのように戦っています(笑)
 私がこういった研究と実践をつなぐ観点から整理をする時に参考にしている団体はNIRNだけでなく、The National Professional Development Center on Autism Spectrum Disorder (NPDC)やState Implementation and Scaling-up of Evidence-based Practices(SISEP)などがあります。英語がもっとできればこれらの団体が開催しているセミナーやワークショップにぜひ参加してみたいと思うのですが…勇気も覚悟もパワーもお金もありません(笑)皆様もご興味があればHPだけでも覗いて見られると何か人材育成やマネジメントについてのヒントを得られるかもしれませんね。それぞれの導入のモデルや仕組み、アイディアがあるのでおもしろいですよー。

7.日本の現場に適応させていく

 こういった学びをいかに現場レベルで使える内容にしていくかということを考えてみましょう。詳しくは今後もっともっと個別の記事にてまとめていきたいと思いますが今回の記事の中で使えそうなところはどこになるでしょうか。
 例えば、現場においては人材育成という言葉もたくさん使われていますがどこを人材育成するように言われているか考えてみてください。ついつい、とても幅広く意味を持たせ、高い目標に設定していないでしょうか?「研修にいく」「学ぶ」といったことは何を得て、現場に戻ってきて何をすることになるでしょうか?今回の記事では利用者支援と同じように組織や職員個人の評価に基づいた学びの計画や目標がとても重要であると考えられます。そういった意味では何を基準にしているのか、Fidelity(忠実度)はどんな形で取り入れているのかも一つのポイントではないでしょうか。
 もちろん事業所として、法人として、どの方向性で行くのかがとても重要になります。個人でできることには限りがありますし、事業所や法人のサポートがなければ職員個人にとっても、利用者個人にとっても、EBPの持続可能性は非常に乏しくなります。成果を上げるためには個々のスキルアップだけでは難しい部分をどのように環境を整えていくか、組織や人材をどのようにマネジメントしていくかを検討できると思います。
 私が学んでイメージしてきた人材育成とは「プログラムを実装すること(支援の方法を身に着けること、EBPを忠実に再現できることなど)」にのみ焦点を当てています。現場ではご家族の対応や送迎、分掌分担業務、委員会、連携や会議など多岐に渡るかと思いますが、いかに細分化してどこの業務が育ってほしいのか。どこに集中させて学んでもらうのか。どうやって管理して組織的に動くのか。法人として成果は何か。を整理することはポイントのような気がします。

8.私のこれから…

 最後に私のこれからについても含めてまとめがてらこの記事を終わりにしたいと思います。今回の記事でいくつかキーワードを出していきました。

・EBP
・実装のフレームワーク
・忠実度
・評価尺度
・コーチング

など皆さんにとってあまりなじみのない言葉もあったかもしれません。私も調べて行けば調べるほど迷いました(笑)だからこそ、これからの分野ではないかなと思いますし、これを福祉の現場で取り組んでいくことでよりスムーズなEBPの導入につながっていけば…と考えています。私として基盤にあるのは支援も実装も行動管理のための「細分化」「仕組み化」というイメージです。


 こういった学びを現場に落とし込んでいくことが私の目標ですし、学びをシェアしていくことで何かのきっかけになればと考えています。大変恐縮ではございますが皆さんからもぜひ色々なご助言やご指導を受けながら洗練させていきたいと思っておりますのでどうぞ様々なサポートをよろしくお願いいたします。これからどれくらいの頻度で更新できるかわかりませんが…(笑)また、運用の仕方についても色々と検討していこうと思います。
 長い文章でしんどかったかもしれませんが、読んでいただいてありがとうございました。

 


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