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『ホラーが書けない』14話 能力者との出会いって興味あるかな?【Web小説】

第14話 どこで縁がつながったのか

 俺の友人は異能者なんだが、これまでのエピソードを読んできた読者の中には、「霊感がある人とどこで知り合ったの?」と気になっているかもしれない。

 紹介してもらった?

 ネットで情報を見つけてアポをとった?

 いろいろ考えてしまうよな。異能者との出会い話は、おもしろみはないだろうから作品ココに書こうかどうか迷った。でも異能者と知り合いになるとか、あまりなさそうだから参考として残すことにした。

 残念ながらハラハラどきどきするようなストーリーはなく、異能者と出会ったのは偶然だ。だから過剰な期待はするなよ?

 


 当時の俺――紫桃しとう――は無職だった。

 仕事を辞めた原因は身からでたさび。思い出すと胸が苦しくなる痛恨のミスは、今でもなかったことにしたい、つらい記憶となっている。

 生涯続くと思っていた仕事との決別は喪失感がすごくて、別の仕事なんて考えられずにいた。無気力になっていて、ぼうっとしていたら一日が終わっている。そんなふうに無駄に時間はすぎていき、通帳の残高は無情に減っていく。

 焦燥感を打ち消すためにネットの求人情報は見るけど、すぐに前職のことが浮かび、思い出にしがみつく未練がましさにイラつく。うじうじとしたまま求人情報を流し見る日々を送っていたら職業訓練の存在を知った。

 『職業訓練』。名称からして就職に役立つかもと概要を読み始める。

 なるほど……。職業訓練は仕事に役立つ知識や技能を学ぶ場を提供しているらしい。訓練の種類は多く、補助を受けながら学べる仕組みが用意されていた。

 まだ仕事に就く気力がわかない俺には、社会復帰へのリハビリと再スタートにちょうどいい。次へ進める糸口が見つかり気持ちに余裕がでてきた。いっそまったく別の職種に就いてみようという考えがわき、興味がもてそうな訓練をさがし始めた。

 夢中になって職業訓練の情報を集めていると気になる職種を見つけた。業務内容や就職口、将来の展望などを調べていくと、やりがいがありそうだと興味がわく。興味がわいたら前向きな気持ちもでてきて、「ダメでもともと。まずは訓練を受講してみよう」と活力に変わった。

 こうして出直しする覚悟を決めて職業訓練を受けることにした。


 異能者との出会いは職業訓練学校だ。
 受講したのは短期の職業訓練で、20名の受講生がいて俺より年上の人ばかり。定年退職したのに再就職を目指す達者な先輩もいたから平均年齢は高かった。

 20人もいるクラスメート全員をすぐに把握したわけじゃない。でものちに異能者と気づく人物のことはすぐに覚えた。

 今でも鮮明に思い出せる。訓練初日の授業だ。

 初めての授業は自己紹介から始まった。これから数カ月間、一緒にすごすのだから仲良くしようねという訓練校側の配慮だろう。

 まず講師が自己紹介をし、名簿順で受講生の自己紹介が進んでいく。これまで聞き流していたけど、「神路祇こうろぎです」とよく透る声が耳に入って俺は顔を向けた。

 長袖のカジュアルシャツに黒のパンツ姿、身長は160センチくらいの中肉中背で、体形は中性的。黒髪を後ろに結んで眼鏡をかけている。

 日本人は鼻が低くて目は細いなど凹凸の少ない顔が多い。ところが声の主は目鼻立ちがはっきりしている。眼鏡をしていてもわかる長いまつげに大きな目、バランスの取れた鼻があり、くちびるは厚くもなく薄くもなく均整がとれている。

 エキゾチックな雰囲気をまとっているが、肌の色や髪の色から日本人とわかり、俺と同じくらいの年齢に見える。容姿には華があり、すぐに関心をもった。

 これまでのエピソードを読んできた読者の中には、コオロギ――神路祇こうろぎ――を男性とみていた人もいただろう。口調がアレだからな。でもコオロギは女性だ!

 そして……

 ああ、そうだよ! 認めるよ!!
 当時の俺は一目惚ひとめぼれした!

 コオロギを見た瞬間、俺はドラマの主人公みたいに新しく始まるなにかに期待してわくわくしたよ。ずっと穴ぐらに引きこもり、世間を妬ましく見ていたのに、勢いよく飛びだすような感じで、どん底から復活したさ!



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カクヨム
 神無月そぞろ @coinxcastle


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