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清く楽しく美しいレイアウト講座



0.まえがき


これは今から10年前、当時大阪・梅田のファッションビルでデザイナーズブランドの洋服を展開するショップの店長をしていた時に、売れる売り場作りの基礎として、独自の感覚でスタッフのために書いたものです。でも本当は、仕事とは関係なく、ただ自分自身の望む在り方、生き方のために書いてたんだな〜と今更ながらに気付きました。noteを始めてから、10年前に記したものがなぜか次々と蘇ることが増えた最近、いろいろ整理するときなのだと思い、自分の軌跡としてnoteに載せておくことにしました。よろしければお付き合いください。





1.はじめに


毎日過ごしているあなたの部屋は、いつもきれいに整理整頓されていますか?

あなたにとって気持ちの良いスペースになっているでしょうか。日常的に過ごす場所がきれいなのか乱れているのかで、根本的な精神状態が決まってくるのではないかと思われます。

たとえばそれは部屋に限ったことではなく、美しい景色を見て気分が良くなったり、かわいいものを見て胸がときめいたりするように、人の心に感情が芽生える瞬間の仕組みとはとても単純なものです。

今回は、そんな当たり前の感情にスポットを当て理解を深めていくとともに、清く楽しく美しい売り場を作るために大切な心の持ち方を学んでいってほしいと思います。

まずはじめに、魅力的な売り場を作るためにもっとも重要なことは何でしょうか?

それは掃除です。

あなたは毎朝心を込めて、床や棚、ラックや鏡、また普段は目に付きにくいレジやカウンター回り、什器の隙間など、すみずみまで目を通しきれいに出来ているでしょうか。

ここで大切なのは、あなたがそれらの汚れや乱れに気付きたいという思いで観察しているかどうか、またきれいになった状態を見て、清々しい気持ちになれているかどうかということです。

もちろん営業中も同じように気を配れていなければならないのは、言うまでもないことです。

ただ義務的に掃除をするのでは、何の意味もありません。そこにあなた自身が小さな喜びややりがいを感じられているかどうかで、あなたの今現在の仕事に対する向き合い方が見えてくるのではないかと思います。

さて、お客様を迎え入れる準備がととのったら、いざ、開店です。



2.洋服は生きている


実は洋服にも私たち人間と同じように、居心地が良く個性を発揮できる場所や、最も魅力的に見える表現というものが存在します。

たとえばあなたの普段の洋服のコーディネートが決まるまでの過程を思い出してみてください。

きっとあなた自身の個性や雰囲気に合ったものを納得いくまで選び、素敵に着こなす努力をしているのではないでしょうか?

同じように、洋服側にも主張があり個性があります。要するにそれは、洋服が私たちと同じ命(エネルギー)ある生き物であるということを意味しています。ですので、ここからは呼び捨てではなく、敬意を表して“洋服さん”と呼ばせてもらうことにしたいと思います。

ではまず洋服さんたちに、より魅力的で美しい姿になってもらうためには、いつも子どもを見守る親のような気持ちで目をかけてあげなればなりません。と言っても、そんなに難しく考えることではなく、

・ていねいにたたんで美しい形にしてあげること

・乱れを直してととのえてあげること

・適切な場所に収めてあげること

これらのことがきちんと出来ていれば、お客様からも常に羨望の眼差しを向けられ、洋服さんはいつもキラキラと輝いていられます。

これがレイアウトの本質です。

私たちの役割は、主役である洋服さんの手となり足となり、演出家のごとく常に最高の環境を提供することなのです。

ここで意識してもらいたいのは、私たちはあくまで洋服さんの輝きたいという願いを叶えてあげる側であり、洋服さんの無言の訴えに心を傾け、感じ取ってあげなければならないということです。そしてそこには一体どんな訴えがあるのか、洋服さんの声をいくつか挙げてみたいと思います。

・ぎゅうぎゅう詰めに置かれて苦しい

・柄物ばかりが集まってうるさい

・無地ばかりが集まってさみしい

・同じアイテムがかたまっていて短調で刺激がない

・あれこれ並べすぎてまとまりがない

・近くにあるものと仲良く調和できる並びにしてほしい

・在るべき場所にすぐ戻してほしい

・乱れたあとは素早くきれいにたたんで本来の姿に戻してほしい

・下の方でしわくちゃになっていることに気付いてほしい

・紐やリボンがほどけていたら結んでほしい

・タグの向きや場所を揃えてほしい

挙げればまだまだあると思いますが、もし洋服さんたちに口があったなら、その時々に応じておそらくこのような要望をわめきたてているのではないかと思うのです。

大事なのは、洋服さんとしっかりコミュニケーションを取り、瞬間瞬間の要望を見逃さずに気付いてあげることです。

店頭に並んでいる全てのアイテムひとつひとつに、もれなくベストスタイル・ベストポジションを与えてあげることが出来たなら、きっとお店は洋服さんたちが楽しげに踊る姿で溢れ、またその魅力に惹きつけられた多くのお客様の存在によって、さらなる盛り上がりを見せることになるでしょう。

それが、清く楽しく美しいお店の本来在るべき姿なのです。

そうやってあなたの手により素敵に表現された洋服さんたちは、やがて次々と来店されるお客様方に気に入られ、私たちへの恩返しとなるべく、お客様の元へ巣立っていくでしょう。



3.心は鏡


人の心とは、清潔で美しく楽しい気持ちになれる物事に無意識に惹かれてしまうものです。

それはきっと、人間誰しもが純粋で美しい心を必ずどこかに持っているからです。そしてあなた自身にもその心があることを、いつも忘れずに感じていてほしいと思います。

さあ、今日からあなたも洋服さんたちの素敵な演出家となるべく、店内すべての洋服さんたちに喜びの表情でいてもらうことを意識しながら触れ合ってみてください。洋服さんたちの個性を生かすも殺すもあなた次第です。

その中で、あなたの目に映る洋服さんたちの姿が、本当はあなた自身の心の姿であるということに気付いてほしいと思います。



4.ラックのレイアウトを作る上での重要ポイント


①となり合わせのアイテム同士が、引き立てあっているか。

②となり合わせのアイテム同士が、コーディネートとして成り立っているか。

③ラックに並ぶアイテムが、気持ちの良い間隔、カラーリング(色の流れ)になっているか、またその中に足止めになるアクセントが作れているか。


まず、組み合わせるアイテムを選びます。

次に色の流れを決めます。

それぞれのアイテム同士が色・素材・デザインともに引き立て合い、尚且つ自立した並びを見つけ出します。

この法則に則った並びが実現されると、店頭の中で死に筋が生まれません。

またラックの流れの中で、アイテムの並びによって刻まれるリズムを、一定の繰り返しになるように調整しながら、途中でそれを壊すようなアクセントになるアイテムを挟み、変化の場を設けます。またそこから新たなリズムを刻む流れを作ることで、アクセントごとに、少しずつ違うテイストや世界観を表現することが出来ます。

ある程度同じリズムを繰り返すことの安定感と、アクセントによる崩壊感が、自然な流れの中で、予想を裏切る提案としてお客様の心を惹きつけます。

ちなみに、ここでいうラックの「流れ」とは音楽に例えると音符が高低に動くさまである“メロディー”にあたります。

音楽で言うところのJAZZのセッションのような化学反応を効果的に使うことで、全体で見たときに決して単調ではない、自然な変化を纏った奥行きのあるレイアウトを作ることが出来ます。

レイアウトが完成したら、お客様の動きを観察し、入店きっかけがショップ全体の雰囲気(伝わるイメージ)に触発されていることが伺える場合、レイアウトバランスが取れている(調和している)と考えていいでしょう。そこからアイテム一つ一つをじっくり見る姿勢に自然と移っていき、お客様独自のブランドへの理解が深まっていく(魅せられていく)重要な過程となります。

ここで言う調和している場というのは、より自然界に近づけた状態であり、規則性と不規則性がバランス良く入り混じっている場のことを指します。

また、売れるお店の土台として接客に重点を置かれることはよくあることですが、個人的にはレイアウト(空間作り)が最も大事だと思っています。まずはメインである洋服ひとつひとつの存在を際立たせ、場のエネルギーを整えることが出来たとき、その魅力はスタッフにも伝わり、売る(売れる)意欲や自信は自然と高まります。

ベストスタイル・ベストポジションに置かれた洋服の並びそのままに接客を進めることが出来るため、接客中の導線を混乱させることなく、尚且つ接客に注ぐエネルギーも半分程度で済ませることが出来ます。
それは決して手を抜くということではなく、説明不要の見せ方をすることで、すれ違いやすい言葉のやりとり(説明)を減らすことが出来、尚且つシンプルに心のこもった想いのやりとりだけで、スムーズな接客が展開されていきます。

洋服を売ると言うのは、主要アイテムに、究極に映えて見える美しい姿で場に並んでもらうことが最も重要であり、言葉であれこれ無理くり説明して買ってもらうものではないというのがわたしの持論です。

魅力的であれば、少ない言葉であっても、十二分に伝わります。

だから洋服はやっぱり、生き物なのです。

生きている物を扱っている、その触れ合いの姿勢が、モノを輝かせます。




5.最後に


小さい頃から洋服が大好きでした。

高校生の頃には、洋服の販売員になりたい!と思っていました。

でも、どうやってなったらいいかわからなかったのですが、自然な形で、話が舞い込んで来ました。

かれこれ、13年間アパレル業界に身を置きましたが、人との交流、モノとの交流を、とことん学び体験させてもらった貴重な時間でした。

最初は接客での喜びが大きかったですが、次第に魅せることの魅力に取り憑かれていきました。

任されたSHOPを、まるで絵を描くように音を奏でるようにレイアウトすることが、わたし自身を満たしてくれるなくてはならない創作のようになっていったのだと思います。今でもあの快感は忘れられません。

お店に来られたデザイナーご本人が、そのレイアウトを見て頬を赤らめて喜んでくれたり、お客様が、写真を撮らせて欲しいと言ってくれたり、永遠には留めておけない、作品としては残せない、その瞬間だけの束の間のレイアウトだからこそ、一瞬一瞬の通りがかりで入店される人たちの反応や声が、うれしかったです。

洋服は着るものでありながら、そのままで十分に美しく、心をときめかせてくれる最高の芸術品であったと、この文章をかきながら、デザイナーや製作に関わる全ての人への敬意と共に、改めてそう感じています。

ちなみにタイトルにある【清く楽しく美しく】はブランドコンセプトから拝借しました。




6.あとがき


最後までお読みいただき、ありがとうございます。荒削りなところや、独断的なところも含めて、当時の自分の感覚がよく現れているなぁと思います。完全に自己満足でやっていた感満載ですが、こうしてカタチに残しておいてよかったなと思っています。ちなみにわたしは、自宅のジョイントマットでさえ、白黒白黒…的な崩れない一定の繰り返しに違和感を覚えてしまいます。なので、自由度が増しながらも、秩序を作りやすい三色使いにして、一見よくわからない不思議な配置にしていますが、よく見ると、なるほど、規則性があるのですね、でも、その中に不規則なアクセントを入れているのですね、的な並びになっています(笑)たかがジョイントマットひとつにここまでこだわってしまうわたしですが、身体が落ち着くリズムを探し求めた結果、そうなりました。もし面白そうだなと思ったら、ぜひ試してみてください。ジョイントマットは形状としては平面のモノですが、色が作り出すリズムその影響だけで、空気の流れが変わる気がします。
















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