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モノ書き

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#ショートショート

人生カタログ本

分厚い本を渡された
ずっしりと重量感のあるそして、いい素材の紙を使っているであろう、固い本。

「この中であなたが望む人生を選んでください。その通りに歩むことが出来ます。」

冷たい笑顔で言い放つ。

ペラペラっと中をめくってみる

大きなソファに座って脚を組む男性。
いいスーツを着て優しい微笑みをしている。
一目でわかるお金持ち。

かと思ったら良い具合に日焼けをしたサーフボード片手に写る若そう

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幸せの魔法使い

幸せの魔法使い

わしの友達には“魔法使い”おる。
その“魔法使い”が現れると、一瞬にしてその場が明るくなる。
蛍光灯が新しいものに変わった…わけでもない、その“魔法使い”が自ら光ってる…わけでもない。
ただ、その“魔法使い”を呼ぶ時は注意しなくてならないんじゃ。
“魔法使い”と言われることが嫌いだからなぁ。

なぜ、“魔法使い”かわかったかって?

簡単なことだぁ。

とてつもない威力があるかじゃよ。

人を笑の

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帰り道

帰り道

駅に着く。
電車から多くの人が吐き出されていく。
暖かい電車の中とは違ってひんやりとした風を感じる。
この温度差が私の家路を引き締める。

家までは約20分ほど。
自転車を使っていたが、パンクという出来事をきっかけに歩いている。
行きは太陽の暖かさを感じ、夜は空を見上げ星の瞬きに心癒されている。

ふ〜。と、一息ついて歩き出す。
電車から吐き出された人はもうまばらで、前にはスーツ姿のサラリーマンし

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海岸線

海岸線

颯爽と走る

右には穏やかな海が見え、左には大好きな君がいる。

窓を開けて風を感じながらお気に入りの曲を聴いて。

ここの道が好きになったのも君の
「鎌倉に行きたい。」
という一言からだった。
君は僕と出会う前からそっち方面にはよく行っていたようだし、1人でも行けるはずなのに、何度も僕を誘ってくれた。
そして、僕も虜になってしまった。
何も考えない、この海風が僕自信を包み込んでくれるようなそんな

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春のあたたかさ

春のあたたかさ

澄み渡った青空。
手をどんなに伸ばしても届かない、綺麗な青空。

ソファに座りながら、外の風景を楽しんでいた。
手には読みかけの本。
テーブルにはまだカップから湯気が出ているコーヒー。
昨日、出張から帰って来たいっくんがお土産としてくれたクッキーも添えられている。
穏やかな土曜日。
隣に座るいっくんはまた難しそうな顔でパソコンを見ている。

ハー
大きく息を吐いて
思いっきり吸い込む。
隣のいっく

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魅惑

魅惑

君に惹かれてしまうのは、何か寂しいもので覆われたような、目の奥に冷たい水が流れているような、そんな雰囲気が気になるからであろうか。

もしくは、私より遅く生まれているはずなのに、この世の全てを知っているかのような落ち着きに惹かれたのだろうか。

君の一言一言はわたしを安心させ
君の冷たい瞳はわたしを包み込む

隣に座る君の体温でわたしの左側だけが熱くなる。
君のその薄い体の右側は熱くなるのだろうか

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純愛

純愛

「あと、10年若かったら良かったのに」

貴方はそう言ったけど、わたしはそうは思わない。

「貴方と早く出会えていたら良かったのに」

と、そう思うから。

重なった手がチクチクする。
始まりは一瞬だった。
あの時から、触れることのできない背中を追いかけて、遠ざかる貴方が振り向くのを待っている。

もし、わたしがこのまま独りだったら
わたしは貴方のせいだって言ってやる。

困った顔をするでしょう、

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同士

同士

惹かれあったはずなのに、いつの間にか私の想いばかりが重くなり、
離れたはずなのに、君との距離が近くなる。

そうやって君の都合よく過ぎた日々は良い想い出とはならず、そんな事あったな〜なんて友達との笑えるネタとなる。…それはもう、いい想い出という事なのかもしれない…。



君との誕生日合戦
サプライズを考えることが楽しかったよ。
フェスにライブにイベント
いろんな所へ行ったね。
春は桜を見に行

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予測不能

予測不能

今日の君と明日の君
元気がいい日か違う日か
会わないとわからないなんて
僕は怠い

同じ私なんて存在しないの
力強く言うもんだから
反論できず
今日も僕は同じ僕で君に会いに行く



扉をあければ涼しい風が僕を迎える一方で
遠く彼方にはどんよりした黒い塊も見えている
壁にもたれる傘を見て
チラッと見せる女神を信じて
持たずに出よう

少し歩いて気づく女神の嘘
ポツ
ポツ
冷たい雫が僕を撫でる

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私とわたし

自分で作った囲いの中でもがく日々
私の理想のはずなのに。
いつの間にか私はわたしを苦しめ、おおきな空をただ見上げるだけの日々となる。

鳥のように羽ばたきたい
風のように自由でいたい
花のように輝きたい

蓋をされた囲いからどうやって出ようか
出たい、出たい、出たい、
思いばかりが重ななるだけ。

助けて
たった4文字の言葉も言えない
いらないプライド

ごめんね
これしかわたしは言えなくて
もが

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ウラギリモノ

限りなく嘘に近い、本当の話。



その日はよく晴れた日だった。前日の雨が嘘だったかのように、真っ青な空が僕たちを包み込んでいた。
大きく息を吸っては吐いて、何度も繰り返す呼吸音に耳を傾けては僕の心臓はバクバク言っていた。
裏切るやつはいるのだろうか。周りの奴らの様子を伺っても何も見えない。声を出すことも許されないこの状況で僕の限界はもう、すぐそこまでやってきている。
親友のO田が一歩前に出た。

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ナミノート

ナミノート

照りつける日差しが、キラキラと波を輝かせ、私の背中にも暑い視線を注いでいる。

ビート板よりも何倍も大きな板に上半身だけを乗せて浮いている。
背中に注がれる視線が後々私を苦しめるなんてことをこの時は考えない。

押し寄せる波に揉まれて、その大きな板から落とされる。
まるで、お前は俺には勝てないと、笑われているように。

その大きな波を越えて、私も穏やかな沖に向かいたい。
キラキラ光る波の上、ゆ

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賑わう街

賑わう街

時代の流れに身を投げて
月日だけがやたらと早く過ぎ去っていった。

ボヤける目線の先には
なにが写っているのだろうか。

先を行く者
流れに乗れる者
取り残される者

同じレールではなくとも
同じ時代を生きている

競い合わず、己のペースで流れていたとしても
何かに迫られるこの圧迫感は世の常なのだろうか。

焦点の合わないこの目は
見えるものも見ようとしない
頭の中だけが動き回り、疲れ果てる。

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星想い

星想い

星空が川を作ったところを見たことがない。
彦星と織姫は今年は会えるのだろうか。

狭いベランダから二人でみつめる。
片手には缶チューハイを持って、雲が覆う夜空をもう30分は眺めている。

「蚊に刺された〜」
O型の彼女は刺されやすいようだ。

「中に入る?」

「う〜ん」

曖昧な返事の時はその意と反対の時。
まだここにいたいんだな。

“天の川 場所”

指先で簡単に調べられる時代という

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