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書評

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2023年1月の記事一覧

青羽悠(2022)『青く滲んだ月の行方』講談社

この変なこだわりというかプライドが自分をいつまでも縛り続けている。そんなことは分かっているのに、でもだったらどうすればいいの。若者のリアルを描く共作2部の男性視点からの一冊。いつか、積み重ねてきた今を認められるのか。

自分だけの秘めた悩みのように思えて、そばにいる人に実はあっさりと見抜かれている。孤高とか陳腐とかなんてのは思い込みで、ちっぽけな人間の人間同士のやり取りで物事なんて氷解してしまうか

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真下みこと(2022)『茜さす日に嘘を隠して』講談社

上手くいかないこと、どうしたって上手くいかないこと、そんなのばっかで押し潰されそうになる。若者のリアルを描く共作2部のうち女性視点からの一冊。分からないことばかりなのに、やりたい衝動は抑えきれない。

世の中と上手く折り合いを付けることと、自分を切り売りしないで大切にすること。重いことと、どうでもいいような軽いもの。疑心暗鬼で被害妄想、それでも話してみると案外思っていたのと違っていたりする世界。

瀬尾まいこ(2022)『掬えば手には』講談社

人の心が読める(という気がしている)主人公と心を閉ざしている同僚の物語。人に向き合うということの難しさ、それでも心に引っかかる違和感を大切にじっと見つめ続ける、寄り添うことの現実を温かく描いた小説。

手にあたるのは冷たい風ばかりじゃない、幸せや希望のような光の一粒一粒が掬い取れることにだって気づける。身の回りに起こることを観察して、愚直に向き合っていくことにエールを送っている。