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あの名曲のトリビュート小説を楽しむ/『アンジェリーナ 佐野元春と10の短編』

はじめまして、そして、今日も来てくださってありがとうございます! 今日は作家小川洋子さんが、ミュージシャンの佐野元春さんに捧げたトリビュート小説をご紹介したいと思います。

小川洋子さんといえば、芥川賞作家であり、『博士の愛した数式』(読売文学賞・本屋大賞)、『ブラフマンの埋葬』(泉鏡花文学賞)、『ミーナの行進』(谷崎潤一郎賞)ほか数々の作品でも有名です。

そして「小説が行き詰まった時、彼の歌を聴いて想像力をかきたてたり、コンサートに行って書くエネルギーを補給した」というほどの佐野元春さんのファンでもあります。

そんな小川さんが1993年に発表したのが、本書『アンジェリーナ佐野元春と10の短編』です。

各短編のモチーフとされているのは、表題作「アンジェリーナ」をはじめとした佐野元春の名曲。

「毎月一曲を選び、それを繰り返し聞いているうちに、どんどん物語が湧き上がって」きた物語を一冊にまとめた、いわば小川洋子さんによる佐野元春トリビュート短編集が本書です。

ミュージシャンがミュージシャンのトリビュート・アルバムをつくることはありますが、作家がミュージシャンのトリビュート小説を書くというのはあまりみたことがありません。

あの名曲がどんな物語になるんだろうと楽しみながら読みました。

曲のイメージを壊すとか壊さないとか、そういう次元とは異なる、もっと奥深いところに小説の言葉がひそんでいたのです。それはたぶん、佐野さんの曲が音楽としてだけでなく、一つの創造物として存在しているからではないでしょうか。

アンジェリーナ 佐野元春と10の短編

小川さんはあとがきにそう記しています。そうやって書かれたのが、猫のペーパーウェイトに導かれて小説を書く女性の話「バルセロナの夜」であり、レンタルファミリーという職業をしている女性との恋を描く「彼女はデリケート」などの物語です。

なかでも私が好きな話は「クリスマスタイム・イン・ブルー」。

クリスマスに東京へと向かう飛行機のなかで、恋人に手紙を書いているという形式で綴られる物語です。

「アンジェリーナ」にはじまり「情けない週末」で終わるという構成はファン泣かせで素晴らしく、作品によっては登場人物の台詞に佐野さんの歌詞が使われていたりしていて、一気に読んでしまいました。

解説で作家の江國香織さんも触れていますが、企画の実現にあたっては非常に勇気がいったと思います。それでも実現させた小川洋子さんに、そしてこの企画について快諾された佐野元春さんに敬意を表したいと思います。

※アメーバブログ2016年8月17日の記事に加筆した記事です

最後まで読んでくださりありがとうございました。
よい一日を!



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