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「これが最後」という緊張感が、その本を「特別な一冊」にする。/編集者の言葉#13

今回はひとり出版社・夏葉社の創業者である島田潤一郎さんの言葉に焦点を当てたいと思います。

本をつくるときは、もしかするとこれが最後の本になるかもしれない、という気持ちで、つくるようにしている。/『あしたから出版社』

この言葉は、「出版社をたたみたい」という文章のなかにある一節です。

夏葉社がこの10年間で刊行した書籍は30冊。

一年に3冊ほどのペースになります。月に何十冊もの本を出す出版社が多い中で、年に3冊。点数が少ないように思われるかもしれませんが、いくらひとり出版社とはいえ、逆に年3冊に絞って刊行しながらも10年続いているというのは、すごいです。

出版社を続けていくには、「自分がいいと思う本をつくる」だけでなく、実際の読者に、その本をいいと思ってもらわねばなりません。それゆえ島田さんは本をつくるとき、冒頭の言葉のような気持ちで、緊張感を持って本を作っていらっしゃるのではないでしょうか。

それだけに一冊仕事が一段落した後は、精も根も尽き果てて「よくやった。もう十分やった」とばかりに、出版社をたたみたくなることがよくあるそうです(それは島田さんにとって、いい本ができたという手応えのようなものだそうですが)。

ところで夏葉社のホームページには、こんな言葉があります。

夏葉社は一万人、一〇万人の読者のためにではなく、具体的なひとりの読者のために、本を作っていきたいと考えています。マーケティングとかではなく、まだ見ぬ読者とかでもなく、いま生活をしている、都市の、海辺の、山間のひとりの読者が何度も読み返してくれるような本を作り続けていくことが、小社の目的です。

夏葉社ホームページ

顔の見えない「数字としての1万人」を対象に本をつくるのではなく、「具体的な一人」のために緊張感を持って本を作る。商業ベースで考えると、もっと利益が見込める選択肢もあったでしょう。それをやらずに、いまのスタンスを10年続けるというのは本当に男前な仕事ぶりだと思います。

そこには島田さん自身が「本が好きで、何度も本に救われてきた」という経験も反映しているのかもしれません。だからこそ最高にいい本をつくるために、自分を極限まで追い詰める。

その結果が「特別な一冊」となって、島田さんが考える本への思いを読者に届けて、夏葉社は10年続く出版社になったのではないでしょうか。

昔から一期一会と言いますが、「もしかするとこれが最後かもしれない」という緊張感を持って仕事をするのを忘れないようにしたいと、あらためて思いました。

最後まで読んでくださりありがとうございました。
よい一日を!


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