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■人の精神状態はコップに入った水で測ることができる


人の心をコップの水に例える話を、児童精神科医の上司に教わったことがあります。

「人の心は誰しもコップに満たされた水みたいなもんだ。こぼれないようにギリギリのところで頑張っている。そんなところにたとえ1滴の水だったとしても、あふれてしまうこともあれば、何とか持ちこたえることもある。とくに児童精神科外来に来る子どもはそんな状態だ。心が弱っている状態であれば誰しも優しくされたいと願っている。だからほんのちょっとした一言が心を崩壊させてしまうかもしれなんだよ」

実際に何かに例えてもらえるとわかりやすく、記憶に残りやすいので、私も後進の指導の際には使わせていただいている話です。

さて、コップがあふれてしまう状態を例えていうのであれば、「燃え尽き症候群」や「バーンアウト」です。

どの病院でも看護師は重要な存在。医師の仕事は1人ではできません。看護師は医師の仕事にとって非常に重要な存在です。しかし、看護師の多くは女性です。女性は結婚や出産、育児などのライフステージの変化によって、働き方を変える可能性があり、それによって職場を辞めていく看護師も非常に多くいます。自分に合った勤務体制であることは、働きやすい職場環境として非常に大事なことでしょう。

しかし、私が経験したのは、「消えてしまった看護師たち」です。

■消えた看護婦たち


ある年の3月終わりぐらいから、「私は今月一杯で辞めるんです」と言う話があちこちで聞かれ始めました。辞めることを口外しないように言われていたのでしょうか?
噂では聞いたことがあったのですが、本人が言って来ないので本当なのか嘘なのか、どっちなんだろうとは思っていました。

4月にはごっそりと病院から看護師が消え、病棟の一部を閉鎖して、外来業務を縮小、救急患者の受け入れ縮小など、病院の経営方針自体が変わってしまったことがありました。日替わりで担当する看護師が変わり、信頼していた看護師がいなくなる。残された者たちは余計なことに神経をすり減らし疲弊する。こうなれば医師の仕事に不具合が起こるのは当然のことです。

それぞれ辞めていく理由はいろいろあったのでしょうが、マウンティングを取るような威圧的な態度の人や相手によって態度を変える人がいると、不満が生まれて人間関係は悪化します。例えば陰口をたたいたり、いじめのある職場は論外です。

■人が本当に求めているのは


先の児童精神科医の上司に言われたのは、人と接することは、「馬鹿なふりをすること」だよと教わりました。

「利口だと思われようとして自分の話ばっかりするようになると、相手は話してくれなくなるし、話を聞いた方が得られるものが多い。本当に利口な人は知識を披露することが恥ずかしいことだと知ってるし、中途半端な知識をひけらかせば、自分の小ささを露呈することになるんだよ。だいたい人が求めているのはアドバイスじゃなくて、話を聞いてもらいたいだけなんだよ」

実際にそのようなことを分かっている病院上層部となれば、人間関係は良くなって、仲間がいれば大抵のことは乗り切れるようになります。同僚も上司も自分からは選べません。自分で選びたいなら職場を変ればいいのですが、患者さんのことを思えばそうは簡単にはできないものです。

看護師とのコミュニケーションの重要性を訴える、語り継がれる「消えてしまった看護師たち」の話。実際に経験しなければわからないかもしれません。実際に経験した医師としては思い出したくない、それはそれは怖い話なのでした。

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