【医師エッセイ】過去20年
■少子化が加速する日本
小児科医として、2022年の出生数79万人という数字を見るとため息をつかずにはいられません。厚生労働省の人口動態統計では、予測よりも11年早い少子化の速度だそうです。
今後の日本のあり方を考えている政治家を始めとする人たちが予想もしていなかった数値だったのでしょう。こんなにも早い少子化の波が来ているということは、この先、社会保障費を支払う若い世代が減少し、1人1人の負担が増加することになるということです。
第2次ベビーブームに生まれ育ち、バブル期を経験した私からすると、今の日本の凋落の有様は、今後20年を楽観できるものではありません。私たちができることと言えば、愚痴を吐いて気を紛らわすことだけなのでしょうか。
せっかく働いて稼いだお金でさえ、異次元の少子化対策と言われる財源も費用対効果も明らかでない、ズレている国策に消えてしまうかもしれません。
■子どもたちが楽しいと思える未来はどこに
我が家には4人の子どもがいますが、公園を始め外で大人の目なしでは遊ばせることすらできない世の中では、これから少子化が解消されるとは到底考えられないのです。
子どもたちが笑顔で遊んでいる。子どもたちが将来に目を輝かせている。
そんな国は将来が明るいでしょう。ですが現実的には、今の日本では難しいでしょう。日本にいる子どもたちが、子どもたちだけで伸び伸びとできる環境は、見当たらないからです。常に次は何が起きるのだろうか、またよくないことが起きるのではないか、そんな不安を子どもに押し付けている状態とも言えるでしょう。
また、内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省が共同で作成した「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」では、2040年には医療費が70兆円に迫ると予測されています。令和2年度(2020年)の国民医療費は42兆9,665億円ですので、20年も経てば医療費が約1.6倍にもなるのです。ただでさえ、基本賃金が上がらない中、電気代や物価の高騰や消費税の10%の増税などが重なり、国民負担が増えています。
医療費が上がらなければ、医師の給料は上がらない。しかし、医療費を抑制する国策、日本の医療費の国民負担は国際比較ではむしろ低い方なのですが……溜息しか出ませんよね。
■医療業界、そして私の医師人生の先
これから生きていくのに、日本国民は歯を食いしばっていかなければなりません。世の中、特に日本では明るい情報は一切と言っていいほど入ってこないのですから、そうなってしまいます。
ただ医学部受験は軒並み合格偏差値も上昇しているので、優秀な医師たち頼もしい後輩が育ってきています。つまり、医療業界だけに目を向けてみると、これからの発展には期待が持てるということです。
私も医師となり、坑インフルエンザ薬の登場、てんかんへの抗けいれん薬や抗てんかん薬の登場、がんに対する分子標的薬の登場など目覚ましい医学の進歩を見てこられたのは、医師人生を過ごしてきた中で非常に嬉しかったです。
何しろ治療法のなかった、もしくは燦燦たる治療成績しかなかった疾患が、治せるようになったのですから。治せるということが、医師としての自信にもつながります。
これからの20年。最新医学を学びながら、頼もしい後進とともに、これからも小児科医として、病にある子どもたちを、学校や社会へと再び復帰させる仕事に熱量を注ぎ込みます。小児科医を仕事として選んだ人生を、これから歩んでいけるのは非常に幸せなことです。
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