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私の好きな「青島ビール」を揶揄する香港法曹界の長老を相手に、異議申し立てた

私は「青島(チンタオ)ビール」がそこそこ好きである。

「青島ビール」とは、中国山東省の青島で製造が開始され、中国でもかなり歴史のあるビールである。

「そこそこ好き」と書いたが、普段は少し苦さが強くてコクのある日本のビールを好んで飲んだり、コロナで家に引き籠りっ放しだった一時期、少しビターな"ASAHI THE RICH (アサヒ・ザ・リッチ)ばかり飲んでいた時期もあった。

ただ昔、香港に住んでいた頃、青島ビールが日本で買うより安かったこともあり、このビールばかり頻繁に飲んでいた時期もある。

上で「苦さが強くて~」とか「コクのあるビール」とかと比較したが、この青島ビール、単発で飲む分にはあまり気付かなかったのだが、日本のアサヒやサッポロあたりを飲んだ直後に飲むと、何だか「ちょっと薄い」ような気がしたものである。

次第に少し大げさながらも「ん?何か水みたいだな」ぐらいに(酔ったアタマで)感じた次第である。

ただ何回か飲むうちに、そのスッキリした味わいや爽快感などが癖になり、特にコッテリとした中華料理などに非情によく合うと感じ始めた。

そして、この若干控え目な青島ビールも「なかなか悪くない」と思うようになって、やや自己主張の強いビールを飲む合間を縫ってではあるが、繰り返し飲むようにもなった。

今はお酒自体、あまり飲んではいない。

私はコロナがひと通り落ち着いたタイミングで、格闘技の稽古なぞ(サボりながらも)再開したのだが、その頃から少し健康面に気を遣い、意図的にお酒の量を減らし始めた。

そしたら段々と飲みたい気分もなくなってきて、最近は1人で家で飲むようなことは殆どなくなった。

お酒をあまり飲まなくなった今となっても、青島ビールを「ちょっぴり薄い」などと感じながら飲んでいたあの頃をたまに懐かしく思い出したりもする。

ところで、青島ビールと言えば、私はある人物を思い出す。

ひと昔前、一緒に仕事もさせていただいた香港法曹界の「長老」的な「陳(ちん)弁護士」(仮名)である。

周りの香港人はみな、長老の苗字の後ろに英語の”Sir”(サー)を付け、この長老を「陳Sir(ちんサー)」と呼んでいたので、私もこの方をそのように呼んでいた。

陳Sirは若かりし頃、「バリスター(Barrister)」(※本記事の末尾に説明あり)と呼ばれる法廷での弁論等を主な職務とする弁護士をしていた時期があり、一時期、裁判官も務めたことがあるらしい。

純粋な中国人(香港人)ではあるが、法廷で長きにわたり熱弁を奮ってきたのであろう、かなり流暢で綺麗な英語を話す。

なかなか声も大きく、自身漲るキャラクターであり、存在感と迫力のある人物である。

私が一緒に仕事をした頃は既に「半引退」のような生活であり、弁護士事務所に「Consultant(相談役)」のような肩書きで所属されていた。

さて、陳Sirは、結構なご年齢であったが、頭の回転はキレッキレで、正確もアグレッシブ、体格も大きくて迫力があり、若き弁護士たちからも一目置かれていた。

一度、陳Sirと2人きりで、そのとき一緒に対応中であった案件について相談したときのことだが、陳Sirは「この案件で懸念すべき問題の1つ目は〇〇、2つ目が〇〇、3つ目が…」と結構ややこしい法的リスクの分析を始め、その途中で電話が入った。

陳Sirは私に「おっ、ちょっと待っててくれ」と言って、5分ばかり、これまた結構ややこしそうな別の案件について電話で話し込んだ。

そして長めの電話を切った途端、「、、、そしてここで考えなくてはならない次のリスクだが、、、」とピタっと話が途切れたちょうどのタイミングから(結構ややこしい)分析を再開したことがあり、少し驚かされたことがある。私であれば、「えぇ~っと、、、さっきどこまで話したっけ?」となりそうなものであるが。

頭の回転も速く、流暢な英語を話し、且つ既にそこそこの資産を蓄えたと思われる陳Sirは、香港でお金持ちのステータスの1つとされる「Peak(山頂)」と呼ばれるエリアに家を購入していた。

成功者の余裕も感じられるのか、若い女性陣にも結構人気があった。

私も陳Sirのことはリスペクトしており、当時は何かと気に掛けてもいただき、色々と奢って下さったりもした。

、、、ただ、この陳Sir、弱点があり、、、大の酒好きで、ほぼ毎晩飲んでいた印象である。

しかも、、、酒癖が悪い!

ただでさえ強面の長老であるのが、酒がまわるとよりアグレッシブになり、終始、説教口調となり、半ば怒り気味のようなトーンで、そこそこ「過激」なことも言うのである。

一度、酔った陳Sirにいただいた自虐的アドバイスとして「おい!うちの事務所に〇〇って弁護士いるだろ? あれば完全にワーカホリック(workaholic= 仕事依存)だ。お前は、ワーカホリックにだけはなるなよ。あんなもんは完全に病気だ。オレみたいなアルコホーリック(alcoholic =アルコール依存)になる方が100倍マシだ! おう丁度いい、お前もどうせなら、アルコホーリックになれ!」いうのがあった。

幸運なことに、現時点で私はどちらのホリックにもなっていないが、そんな調子でご機嫌になったときは、色々と高そうなウイスキーなぞもご馳走になったりした。

一度、私がチビチビと(冒頭でお伝えした)お気に入りの「青島ビール」を飲んでいたときのことである。

それを見付けた陳Sirに「、、、おい、お前、何飲んでやがる?」と絡まれた。

私は「はぁ、陳Sir、、、あの、、、青島ビールっすけど。。。」

陳Sir 「何で、そんなもん飲んでんだ?」

私 「、、、いえ、結構美味しいかなぁ~とも思いますが、、、」

陳Sir 「お前、マジで言ってんのか? そもそもお前は、青島ビールのことをちゃんと分かって飲んでんのか? じゃあ、青島ビールの名前の由来を言ってみろ」

私 「、、、名前の由来、、、ですか? 青島(チンダオ)、、、って中国の山東省の青島ですよね?だから、そこで造り始めたビールなのかなと、、、」

陳Sir 「うん、お前は何も分かっていない。青島のスペル書いてみろ」

私 「スペル?、、、チンダオ、、、だからQING DAOですか?」

陳Sir 「おい、誰が中国語のピンイン書けって言った?瓶をよく見てみろ。スペルが違うだろ?」

私 「あっ!ホントだ!瓶に書いてあるスペルは、、、T S I N G T A Oですね」

陳Sir「そうだろ。中国語とスペルが違うだろ。そのビールに対するオレの『感想』頭文字を繋ぎ合わせてんだよ」

私「頭文字を繋ぎ合わせた、、、と仰いますと。。。?」

陳Sir 「お前も鈍い奴だな、よく聞け!オレにとっちゃ、そのビールはなぁ、、、」

と陳Sirは、青島ビールの瓶に書かれたTSINGTAOのスペルを指差して、こう言い放った。
 
This Sxxt Is Not Good, Try Another One !

、、、

、、、どぎついので、翻訳はしないでおく。

上は、お酒をたいそう聞こし召された長老が勝手に仰ったことである。また、西洋人がこのように揶揄したりすることがあるらしいが、何とも悔しい。

冒頭で書いたとおり、私は青島ビールが美味しいと思う。
私は青島ビールが好きである!
、、、ので、青島ビール好きの方は、長老の言ったことで私を責めないでほしい。

いずせにせよ、私は長老が仰ったことに賛同しない。

「異議があります!(Objection, Sir !)」

青島ビールで少し気分が大きくなった私は、瓶に書かれたスペルを再度指差し、多少ビビりながらも陳Sirに言い返した。

Thanks Sir, I’m Never Gonna Try Another One !

こちらが正しい名前の由来であるので、ぜひ覚えておいてほしい。

さて、異議申し立てたものの、その後の応酬に私は果たして勝ったのか。いや、そもそも、こんな酔っ払い同士の掛け合いに、勝ち負けなど有ろう筈もないか。。。

(完)



(※)

~あとがきに代えて~
「香港法律ムダ話」《バリスターとソリシター》

英国の法廷小説などを読まれたことがある方は「ん?弁護士に2種類あるの?」などと疑問を持ったことがあるかもしれない。

(一国二制度が続く限りは)コモンロー法域である香港にも、本文中に言及した「バリスター(Barrister)」「ソリシター(solicitor)」という2種類の弁護士がいる。

前者は、訴訟支援や法廷での弁論活動などを主な職務とし、後者は企業法務、契約書、家族法(離婚や相続など)、不動産売買などの訴訟外の業務を幅広く対応したり、訴訟業務については主に「バリスターの管轄外」において訴訟書類をドラフトしたり、法廷に立って弁論活動を行ったりする。

たまに日本語で書かれたサイトを見ていると、「法廷に立つ弁護士がバリスターであり、ソリシターは文書作成等をするだけで法廷に立つことはありません」などといった記載を目にするが、少なくとも香港においてはソリシターも大いに法廷に立って日々、訴訟を遂行している(英国の実務については自信を持って書けないが)。

むしろ訴訟案件をメインに手掛けるソリシターも数多く存在し、彼らはリティゲーター(litigator)などと呼ばれたりもする。

因みに、映画などで、英国や香港のバリスターが法廷でガウンを纏い、ウィッグ(wig)をかぶっているのを見たことがあるかもしれない。

地味だが、ソリシターの法廷用の正装(ガウン)もあり、裁判所で執り行われる新人ソリシター任命セレモニー(香港では、裁判所が弁護士を任命し、”Roll”と呼ばれる弁護士名簿に名前を記載する制度となる。因みに一度名前が載ると、除名されるのは難しい。。。)では、ソリシターの卵たちがこのガウンを来て法廷に参列することとなる(自分では買わず、この日だけ友人からガウンを借りたりする人も結構いる)。

誤解を恐れず、雑に説明すると、下位の裁判所では「バリスター抜き」で解決することが可能な訴訟案件も数多くあり、実際にソリシターだけで解決(実際には裁判所の判決に至る案件は少数であり、和解が大半であるが)する案件も多くある。

それが上級審になると「バリスター」の協力を得ないと解決が困難または不可能な案件が出てくるという実務(制度枠組み)となる。

またソリシター抜きで解決できそうな訴訟事案であっても、勝率を高めるため、敢えて戦略的にシニア・カウンセル(Senior Counsel)と呼ばれる経験豊富なバリスターを起用するようなこともある。

これには日本とは異なる「法曹一元制度」というものに端を発する弁護士と裁判官の少しダーティーな裏事情が絡む場合もあるが、長くなるので、また機会があれば書きたい。

そのほか、最近はあまり見なくなったが、昔は「ソリシターは日本で言う司法書士です」などということを堂々と書いた日本語サイトが有ったりしたが、そのように法律系資格は細分化されておらず、大きく2種類の弁護士が存在するというのが、より正確なところである。

因みに、日本の司法書士の主要業務となる不動産登記もソリシターの業務範囲であり、それを得意とするソリシターは”conveyancing lawyer”などと呼ばれたりもし、ときに”conveyancing clerk”と呼ばれる無資格のベテラン担当者と組んで対応したりしている。

従って、日本の司法書士と絡めてソリシターの説明をしたいのであれば、「ソリシターと呼ばれる弁護士が、日本において司法書士が取り扱っている主要業務もまとめて取り扱っている」といったあたりが実態となるだろうか。

なお、クライアントはバリスターに直接案件を依頼することはできず、ソリシターを通じてバリスターを任命しなければならないという建前がある。

従って、バリスターを起用する場合、「ソリシター」+「バリスター」で二重に弁護士費用が発生し、これがときに香港の訴訟費用が高額になる理由と言われたりもする(ソリシターの事務所から送られてくる請求書に、ソリシターの報酬(Fee)と分けて、バリスターの費用が「実費(disbursements)」扱いで別途加算されたりする」)。

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