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星野道夫さんの思い出と言葉に包まれて

世界的なアラスカ写真家・星野道夫さんの写真を見ると、文章を読むと、静かに降り積もる雪を感じます。
彼の本を読んでいると、私の心にも深々と静かな雪が降り、その中に包まれていきます。

亡くなって25年。彼の写真と本は愛され続けています。

星野道夫さんの笑顔

私は何度か星野道夫さんにお目にかかっています。
写真とご本人を知ったのがほぼ同時期でした。

写真展のオープニングパーティーで紹介していただいて、その後彼の写真展にはなるべく足を運ぶようにしました。

写真とご本人にあっという間に魅了されたからです。

写真展でたたみ3畳分くらい?に大きく引き伸ばされた写真は圧巻でした。
カリブーの大移動、雪渓、オーロラ・・・

ダイナミックな写真の中に小動物の愛らしい表情も。

とりわけ印象に残ったのは、大地に咲き誇る黄色い小花の写真でした。
土の上に点々と星のように咲いていました。

私が「この写真が好きです」というと、星野さんは
「うれしいなあ。これは本当にきれいだったんですよ。地面にこんな(30㎝くらい)近づいて撮ったんです。
みんな大きな動物や吹雪の山の写真ばかりをいいというけれど、こういうところにもアラスカの良さがあるんです」
うれしそうでした。

穏やかな、でも子どものように無邪気な笑顔でした。

アラスカ叙事詩のような写真集

写真展でお目にかかると、ていねいに写真を説明してくれます。
大新聞社の重役にも、私にも全く変わらない態度でした。

「この時、あと少しでこちらを向くと思ったのに、ぱっと走り出されちゃって・・・」
「この時は刻々と空の色が変わって、何度もシャッターを切ったんですよ。本当はもっときれいな色だったんです!」
と話してくれて、その時の悔しさや感動がまるごと伝わってきました。

私が初めに手に入れた写真集は「風のような物語」でした。紹介するのは新装版です。

全体がアラスカの大きな物語のような写真集です。アラスカ叙事詩といってもいいでしょう。大きな命の流れを感じます。

星野道夫さんは、学生時代にふと見つけた写真集でアラスカに一目ぼれ。現地のだれも知らない中、手紙を書いて訪れてからずっと、彼はアラスカを愛し、アラスカを撮り続けました。

雪の世界へ連れていかれるエッセイ

写真だけではなく、エッセイにも胸を打たれます。

物静かで、淡々と情景を綴っているのに、どこか哲学的な文です。
冒頭でいったように、読んでいると深々と降る雪に閉じ込められます。

彼がアラスカに魅了されたときのことや、アラスカの情景を一つ一つ丁寧に書いています。
私が特に好きなのはトーテムポールの章です。
朽ちていくトーテムポールを探し、見つけ、考えていく。

倒れたトーテムポールが朽ちながらその存在をまっとうしているような・・・その描写に震えました。

ノーザンライツとはオーロラのことです。
この本は星野さんの遺作になります。
美しい大自然だけではなく、プロジェクト・チェリオット(アラスカでの核実験計画)についても書かれています。人生を犠牲にしてアラスカを守ろうとした人のことも。

彼の文章を読むと、静謐で清冽な空気に包まれます。
美しい孤独、というのでしょうか。
読み始めた途端に違う世界に連れていかれます。

幸せなご結婚

「撮影を終えて、帰ってきたときに部屋に明かりがついていたらって思うんですよ」と語っていた星野さん。

とても素敵な優しい女性と結婚されます。穏やかで、柔らかい笑顔のかわいらしい方でした。

パーティーでお目にかかった時に、当時の婚約者にアラスカの印象を伺うと
「とてもきれいでいいところでした!」といったあとにこう続け、みんな一瞬「大丈夫か?」と思いました。
「初めての海外ということもあると思いますが」
知らないからの笑顔? 不便で過酷な生活に耐えられるか・・・?
こんな可憐なお嬢さんが・・・。

もちろん杞憂でした。
本当にあたたかな幸せな家庭を築かれ、かわいい男の子が生まれました。

突然の悲劇

突然の悲劇が襲います。

ヒグマに襲われるという非業の死を遂げた星野さん。

強い衝撃を受けました。
20年以上たった(1996年死去)今でも信じることはできません。

ただ、「星野道夫 永遠のまなざし」(小坂洋右著・山と渓谷社)という本を読んで、ある程度納得できました。こうして一つずつ丹念に調査して追ってくださった作者に敬意を表します。
熊ではなく、それまで施設を使用していた人の不注意のせいで起きた事故なのだと知りました。
絶版のようですが、版元のアドレスを貼ります。

絵本と息子さんと

息子に読み聞かせた絵本もあります。私も大好きな絵本です。

星野道夫さん最後の写真絵本。
クマと人間とに同じ時間が流れていることを、写真と文で表現しています。
きっと息子さんへ向けて書いたのではないでしょうか。

星野さんがお亡くなりになった時、息子さんはわずか2歳。
事故直後にアラスカに入ったスタッフから「元気な男の子でね、すごく足が太かったよ!」と聞いて、「生命力が強そう」と少しだけ安心したのを覚えています。

息子さんのドキュメント番組もかつて見ました。

好青年に成長していて、頼もしく思いました。
偉大で、なおかつ不在の父を持つつらさも感じました。

いつかアラスカに

星野さんとお話したときにアラスカに誘っていただいたことがあります。
どなたにもおっしゃっていたと思います。アラスカの魅力をたくさんの人に伝えたいという気持ちです。
「ぜひいらしてください。夏はいいですよ。
いっせいに花が咲いて、大地の色が変わっていくんですよ。
だから友人が来たのに、僕は毎日撮影に出ていて”どうしてそんなに急ぐんだ。君はずっとここにいるんだろう”っていわれるんですけど、本当に毎日、毎時間、どんどん景色が変わるんですよ。だから・・・」
その情景が目に浮かびました。

行きたい! 見たい! と思います。

夏のアラスカの色が変わっていく大地も。
秋から冬の大空に輝くオーロラも。

いつか見に行きます。

星野道夫さんを思いながら。


この文章はnote友だちのnoteを読み、星野さんを思い出して書きました。ありがとうございました。

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