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アロマ療法の話

うつ病の症状は様々だが、わたしの場合特に不眠が顕著だ。
20歳のときにうつ病の診断を下されてもう7年経つが、この7年間睡眠薬なしで眠れたことは一度もない。

一昨年から今の病院に移り、やっとカウンセリングを受け始めたのだが(それまでは診察と薬を処方されるだけだった。カウンセリングに行くきっかけについては後々書く)、これ以上導入剤も含め睡眠薬を増やすのはあまり良くないということで、先生が「アロマを使ってみましょうか」と提案してくれたのだ。

もちろん根治を目指しているし、これ以上薬を増やすのはごめんだ。
抗うつ剤も入れると、毎日めちゃくちゃたくさんの薬を飲んでいる。
そんなものなくてもさっさと気持ちよく眠れるようになりたいし、うつ病を治すためならなんでもやるぞという気持ちだった。

まずは好きな香りを探してみましょう、ということで先生はわたしに目を瞑るように言った。
ラベルの香りの名前を見て、先入観を持たないようにするためらしい。

「息をゆっくり限界まで吐いてください」と先生は言った。
ふーっ、と吐き終わったところで、先生がわたしの鼻の下に遮光瓶を近づける気配がした。

「ゆっくり鼻から息を吸ってください」と言われ、わたしは香りを肺に入れた。
「どんな匂いですか」と先生は訊ねた。

「なんか、こう、タクシーの匂い…」とわたしは答えた。
先生が吹き出した。
目を開けると、ラベルにはミントと書かれており、「確かにタクシーの芳香剤でよくこれ使われてるんですよね」と先生は苦笑した。

その次に嗅がされた香りは「トイレの匂い」と答えた。
ラベンダーだった。
その次に「混んだ電車の中のおばさんの匂い」と答えたものはローズで、カモミール、ジャスミン、ゼラニウムなどフローラル系は全滅だった。

だが、ネロリだけは「おいしそう」と答えたことで、先生はオレンジ、レモン、ベルガモット、ユズ、ライム、グレープフルーツなどなど柑橘系のボトルを次々とわたしの鼻の下に運んだ。

これがぴったり大正解だった。
柑橘系は甘めから苦めまで、すべて心地よい香りに感じられたのだ。
特にオレンジとライムに強く反応したため、カウンセリングの後その足でわたしはニールズヤードの店に向かい、オレンジとライムのアロマオイルと陶器のアロマボトル(オイルを数滴ボトルに垂らすだけでデスク周りに香るというもの。デュフューザーは掃除がだるいのでやめた)を購入した。

効果ばつぐん、とまでは言えないが、以前と比較するとだいぶ入眠が楽になった。

子供の頃からずっと毎日夜寝る前に日記をつけているのだが、先生いわくこれがわたしにとって瞑想になっているらしく、書いてからでないとほぼ確実に眠ることができない。
ボトルにアロマオイルを数滴垂らしてから日記を書くのが、今では習慣になった。

アロマオイルを使うと絶対に眠れるかといえばそうではないが、使う前と比べると心なしかリラックスしやすくなった。
匂いに対する快/不快は本能に直結しているそうなので、自分にとって「本当に心地いい匂い」は精神を安定させてくれるらしい。

「眠る前だけじゃなく、嫌なことがあったときの気分の切り替えにもいいですよ」と教えてもらったため、しばらくは遮光瓶をそのまま持ち歩いていたのだが、出先で遮光瓶を直接を嗅いでるとちょっと奇異の目で見られかねないので、香水が欲しくなった。

わたしは海外旅行が好きで、免税店でよく香水を買うのだが、ほとんど使わずそのまま放置してしまっていた。
それらの香りを調べると、ローズだとかラベンダーだとかジャスミンだとか、フローラル系が多かれ少なかれ配合されていた。
なるほど使い続けられないわけである。

わたしはそれらをメルカリに出して処分して、新しい香水を買うことにした。

しかし、意外と「柑橘系の香水」には、フローラル系の香りが配合されていたりするので、香水探しは難儀した。
ちょうどその頃新しい職場が決まったので、勤務時間が長いこともあり、持続時間の長いオード・パルファムを探していたのだが、柑橘系だけでまとめられたものは意外に少ない。

コロンやトワレならあるのだが、それでは香りが持たなさすぎる。
荷物をできるだけ少なくしたい派なので、アトマイザーを使う気はなかった。

調べに調べて行き着いたのが、ルラボの『フルールドランジェ27』である。

以下、公式サイトより引用。

フルールドランジェ27
Fine Fragrances
完成までに3年の月日を費やした、ナチュラルで非常に貴重なオレンジブロッサムの香り。もともとの高潔さにフレッシュフローラルとレモンの調香が加わり、ムスクと太陽を感じ果汁が溢れるほどのベルガモット、プチグレンとレモンが香りにまるみを持たせている。このオレンジブロッサムは強烈さとデリシャスな曖昧さを兼ね備え、女性にも男性にも絶対的な官能的パワーを与える。
出典:https://www.lelabofragrances.jp/creations

これだ!と思い、当時無職だったわたしはすぐにルラボの代官山の店舗に行き、その場で50mlのボトルを買った。
2万円弱である。
めちゃくちゃ高い。

ルラボはその場で香水を調合してくれ、ラベルに好きな文字を入れてくれる。
わたしは名前と、ライティングの仕事が決まったところだったのでペンのマーク(✒︎)を入れてもらった。
香水にしてはかなり高いが、オリジナリティを感じられるのでまあよしとしよう。

ルラボには他にも柑橘系はあるのだが、ジャスミンだのバニラだのローズだのが入っていたりしたため、試しに嗅がせてもらったがやはり微妙だった。
シンプルに柑橘系だけでまとめられているこれがやはりピンときた。

なんだかルラボの回し者みたいになってしまった。
ルラボはけっこう構成がシンプルなので、それこそ感覚過敏の人なんかはいいかもしれない。

現在、ほぼ毎日この香水を手首の内側につけている。
柑橘系の香りなので人に嫌われる匂いではいし、食事の邪魔にもならない。
むしろオレンジの香りには食欲増進の効果があるらしい。

上司にむかついたときは、手首を嗅いでイラつきをごまかしている。

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