知瀬 三國

ちせみくにです!Prologueを中心にお話を書いています! https://lit.…

知瀬 三國

ちせみくにです!Prologueを中心にお話を書いています! https://lit.link/chisemikuni

マガジン

  • 小さなお話

    短編のお話たちです。

  • まどろんで、朝ごはん

    寝ぼすけな私の、朝ごはん備忘録。

  • from MonochroMe

    色彩に基づいたエッセイ モノクロームより明日の私へ

最近の記事

  • 固定された記事

お別れくらい言わせてよ

 お友達がいなくなりました。と言っても彼女と私は出会ったことも一度もなければ、声を聞いたこともない、お互いにお互いの名乗った名前と綴った言葉のみを介して知り合っただけのお友達です。彼女は自分の名前を不躾に語られるのがあまり好きではないと思うので、今日のところは「Kさん」とお呼びすることと致します。Kさんはとても緻密で几帳面な小説をインターネットで書かれていて、有難いことに彼女も私の事をご存じでしたので、時折に彼女のお話の感想や世の幾つかの物事へのお考えなどについて、お言葉を交

    • 彗星

       本を読んで知った気になっている言葉が幾つかある。  例えば『彗星』  その言葉が意味する景色を、私は文学的にしか知らない。絵の具を伸ばしたような色めきも、煌めきを零したような淡い輝きも、現実に見たことはない。 「目を瞑って。キスをするから。それからゆっくり目を開けよう」  それが彼とした初めてのキスだった。  恋はゆっくりと膨らんで、やがて温かな唇の感触と共に私の元に舞い落ちる。名残り惜しむように脳裏に残る、眩ゆく流れる幸福な時間。  まるで彗星みたいだった。煌め

      • まどろんで、朝ごはん#5ブーランジェリーの文学性

        「あなたはいつも疲れた顔をしているね」 そう言われることがある。 いや別に、私はそんなに、疲れているつもりはないんだけどな。 ただちょっと朝が弱くて、人と話すのが苦手で、文章を読んだり書いたりしている方が楽なだけ。 小説もエッセイも書けないと、もやもやしたものが心の底にたまりっぱなし。お仕事が忙しかったりとか、プライベートでやるべきことが多かったりとか、考えなきゃいけないものがあったりとか、そういうもので、いろいろなバランスが傾いてしまう。 傾いたなら、そのまま倒れて

        • 歌舞伎町にて

           二人組の男がこちら側に歩いて来る。一人はネイビーのトレンチコートを羽織った四十歳前後の男で、酔いが回っているのか上機嫌な声で話している。隣のもう一人はもう少し若く見えるが、口元がマフラーに覆われているのでよく分からない。トレンチコートの男の方が会社の上司なのかもしれない。スーツを着ている中年の男が二人並んでいる場合、大抵の場合は会社の同僚の関係性であろう。男たちに居酒屋のキャッチの男が声を掛ける。二十一時を超えるとほとんどの客はすでに少なからず酒を口にしていると思う。ここが

        • 固定された記事

        お別れくらい言わせてよ

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        • 小さなお話
          9本
        • まどろんで、朝ごはん
          5本
        • from MonochroMe
          2本

        記事

          赤毛のアンさん

          最近は小説なんて書いていなければ、わざわざ筆をとって綴るような不幸も起きてはおりませんが、それでもやっと一年が、もうそろそろ終わりそうです。皆さんは年の瀬をいかがお過ごしですか? だなんていかにも優等生なご挨拶をしたいわけでもありません。 少し前、まだ秋が名残惜しいくらいの時分に、ある本に触れました。 翻訳書簡 『赤毛のアン』をめぐる言葉の旅(上白石 萌音、河野 万里子/NHK出版) 女優の上白石萌音さんが翻訳家の河野万里子さんの手ほどきを受けながら『赤毛のアン』の名場面

          赤毛のアンさん

          ハオルチア

          殺してしまった。初めてだ。 それはもちろん人ではないけれど、私の手で殺してしまった。 丁度、私が親元を離れて生きてみようと決心した時、はじめてのひとり暮らしのお部屋にお迎えしたハオルチア。お花でもなければサボテンでもない、不思議な緑の多肉植物。 感情に任せて家を飛び出して、はじめて自分がまだ子供だと知りました。それは決して寂しさではなく、不安や焦りや将来に対する諦めでもない。 でもこの気持ちを表せる、素敵な言葉を持っていない。 私が物を書き始めてから、3年が経ちました

          ハオルチア

          まどろんで、朝ごはん#4残暑ただようイギリスパン

          目覚めてすぐ、また微睡の中に沈みたくなる。 そういう朝の心地の良さは、いつまでも私に優しい。 「可愛い子には旅をさせよ」 そんなこと言われたって、お家でごろごろしている方が安心する。冷房の効いたお部屋で、太陽の日差しがゆっくりになるまで、欠伸をしながら過ごす。最近はそういう休日の過ごし方をしていました。 だからたまには、時々は。 気が向いた時くらい、さぁ食べましょう、朝ごはん。 残暑に袖を通して、新宿駅は、御苑前。 &sandwich.(アンドサンドイッチ/新宿御苑

          まどろんで、朝ごはん#4残暑ただようイギリスパン

          The Dancer

           やがて彼女はダンサーとして、知られることになるのでしょう。  その日はまだ梅雨明け前のじれったい天気で、私はまだ答えを見つけられてもいませんでした。大雨が私の傘をばつばつと叩いて、できればこのまま全部を投げ出したいと思ったその一日に、私は彼女に会いました。雨の中、彼女は黒いワンピースをひらひらと舞わせながら、往来の激しい通りの真ん中で静かに踊り始めました。初めは何人かの歩く速度が遅くなり、幾つかの傘が嵩張るように停滞しました。その小さな苛立ちを掠め取るように、雨音に混じる

          from MonochroMe #D93245 桜と快晴

          時々、ものすごく自分に優しくしたい日がやってきます。基本的に私は自分のことを甘やかしてしまいがちなのだけれど、晴れた天気のいい日くらいは自分のことを許してあげたいなと思います。 思えば最近は忙しくしてしまっていた。嫌なことを嫌なまま受け入れなければならない瞬間も多々あった。寒さと暑さの間で鬱屈とした気分になって、重い体をその重さのままベッドに横に倒していた。 そんな自分を変えるには、まずは着替えて、外に出る事から始めようと思いました。 夏も間近に感じる空の青さに、私は『

          from MonochroMe #D93245 桜と快晴

          from MonochroMe #000B00 雨と黒

          その日の雨は季節外れに冷たくて、風に煽られて斜めにぱつぱつと降っていました。 私のビニール傘が音を立ててその雨を遮っているその数歩前、黒いワンピースを着た一人の女性、傘を差さずに歩いていました。その日の強い雨がきっと彼女の傘を壊してしまったに違いない。そうして彼女はなおも勇ましく、レンガ調の歩道を歩いていました。 私はその人の後ろ姿を、数歩後ろで、ビニール傘を差しながら歩いていました。顔はもちろん見ることはできず、歩く音は雨風に掻き消え、濡れた土の匂いが私と彼女を確実に隔

          from MonochroMe #000B00 雨と黒

           小説を書き始めなければ、私はいくらか幸福だったのだろうと思います。  今日も私は這いつくばるようにキーボードに向かい、秩序のない文字列を延々と書く。「書く」という言葉が嫌いです。私のそれはその言葉が放つような生産性を持ち合わせていない。吐き散らかして、嗚咽を重ねたような言葉たち。ただ、醜いだけ。  小説を書いた、と一度だけ人に話したことがあります。その言葉を口にした瞬間に、私の中を流れる血液は錆色に変わって固着しました。溢れた言葉は決して器に戻ることはなく、その一滴が取

          長ぐつと小説家

           ぴちゃん。  まるで幼子のような音。ぴちゃんぴちゃん。わたしの長ぐつが音を奏でる。緑というには美しすぎて、青と呼ぶには穏やかすぎる。この街でたぶん、いちばん綺麗な色の長ぐつ。雨が降る日ばっかりだから、つい早起きをしてしまう。せっかくのおやすみに雨の音で目が覚めるなんて、なんだか小説の主人公みたいで厭らしい。もしも今日一日を小説にしても、たぶん起承転結なんてありません。たった数行、数ペエジにも満たないわたしの一日を、お読みくださる人がいたとしたら、きっとその人のほうが主人公

          長ぐつと小説家

          ただ、才能が欲しかった

           例えば、深夜の一時を回って、現実的な一日の終わりからも諦めに似た眠りからも逃避するように、ベランダに出てみる。アパートの一階のベランダには潮風が舞い込むこともなければ、柔らかな月あかりが差すこともない。疎らな生垣のツバキが唯一、私に寄り添ってくれているような気がする。ハイライトを一本、咥える。ライターの中で透明な液体がゆらゆらと揺れる。おもむろに付けた灯。吸い込んだ息に、夜の香りが混じる。そういう一日の終わりに私はただ、才能が欲しかったなと思う。    本物に触れたこと

          ただ、才能が欲しかった

          まどろんで、朝ごはん#3ジャムと優しい小豆

          そろそろお気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、私は朝に弱いです。 一度細めた目を大きく開くことがこの世の何よりも苦手な質でしたので、朝日が昇るたびに、その傲慢さに打ち負けてしまいそうになります。 いいえ、殆ど目覚めた瞬間に、一日の勇気の半分ほどを刈り取られているような気さえします。 加えて私、目が覚めたすぐ後は、食べ物が喉を通りません。お勤めに参ります際は大抵、朝ごはんのお時間を眠る時間にひっそり摩り替えては、お昼前にはお腹を空かせるような、そんな浅ましい人間です。

          まどろんで、朝ごはん#3ジャムと優しい小豆

          二〇十三年十一月四日

           冬になろうとしていた。その日は二〇十三年の十一月四日で、楽天が巨人を倒して日本一になった次の日で、未華子さんが亡くなる二週間前だった。  月曜日なのに仕事が早めに終わった私は、八王子駅北口の駅ビルの中で偶然に未華子さんに会った。まだ新しさをほとんどそのまま残したビルの内装が少し早いクリスマスに浮かれ始めていたのと、私のスマートフォンがほとんど田中将大のガッツポーズと今は亡き星野監督の胴上げ姿に埋め尽くされていたのを覚えている。少し腹回りのサイズが小さくなったジャケットを羽

          二〇十三年十一月四日

          雪螢

           異国さながら、東京都。よせばいいのに冬日和。肌に染み入る静かな寒さが少し懐かしい。冬はつとめて。清少納言も強がりな女だったのかもしれない。雪の積もるも知らないこの街での生活にも、僅かばかり慣れてきたところでございます。拝啓、田舎者だった私よ、東京も案外いいところです。追伸、強がらずに暖房はいつも点けておくこと。  歩いていれば沢山の人とすれ違い、みな一様にどこかに向かって歩いてゆく。立ち止まることも知らないで、寒さの朝を忙しなく行く。師走という言葉を作った誰かに感心。そう