赤毛のアンさん
最近は小説なんて書いていなければ、わざわざ筆をとって綴るような不幸も起きてはおりませんが、それでもやっと一年が、もうそろそろ終わりそうです。皆さんは年の瀬をいかがお過ごしですか?
だなんていかにも優等生なご挨拶をしたいわけでもありません。
少し前、まだ秋が名残惜しいくらいの時分に、ある本に触れました。
翻訳書簡 『赤毛のアン』をめぐる言葉の旅(上白石 萌音、河野 万里子/NHK出版)
女優の上白石萌音さんが翻訳家の河野万里子さんの手ほどきを受けながら『赤毛のアン』の名場面の翻訳に挑戦するという本でした。
大変お恥ずかしながら『赤毛のアン』はかい摘むほどしか存じませんでしが、原文と翻訳を通じてアンが暮らしたグリーンゲイブルズの詩景がぱっと広がるようでした。
実は英語、少し好きです。話せも読めもしませんが、洋楽や海外ドラマは昔からとても身近にありました。
英字の原文には原文の良さがあり、日本語が原文の作品には、それならではの魅力がある。
それは確かにその通りかと思うのですが、日本語の話者として、一つ申し上げるとしたら、その二つは、決して相いれないものではないと思う。英語から日本語へ、英語から英語へ、日本語から日本語へ、上白石さんは幾度もアンの世界を行ききしながら、いち読者である私をはるかに遠く離れたアヴォンリーの地へ連れ出してくれました。
そして河野さんの翻訳は、原文への敬意と日本語の逞しさへの大きな信頼に溢れていました。漢字とひらがなの使いわけについてもお話しされていて、この文章で意識してみたのですが、いかがでしょうか?笑
訳者は役者に通ず。
とても素敵な二つの言葉の往来が微笑ましくて、同じページを何度も何度も読んでしまいました。
いつか私のお話が英語になんてならなくてもいいけれど、いつか英語の本の翻訳に挑戦なんてできずとも、この短い文章を読んでくれた人が、この本を読んだ私と同じような気持ちになってくれたら嬉しいです。
上白石さんの英文朗読もお楽しみいただけますよ。ご興味がある方がいらっしゃらなくても、私はこの本が好きです。
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