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「童石」をめぐる奇妙な物語


最初から釘付けにさせる伏線の数々


おもしろいっっっ!!
たった半日で一気に読んでしまった!!

作者は深津十一ふかつじゅういちさん。
第11回『このミステリーがすごい!』大賞・優秀賞受賞を獲得し、しかも
これが処女作というのだから、これからの作品が楽しみだと思いました。


理解しがたい奇石が発見された事で、その原因究明に奔走するお話です。

初っ端から、とても常識では考えられない不思議で異常な事が書かれていて、ミステリーには違いないのですが、
これはオカルトなのか?事件なのか?わからない。

わからないから、その謎解明の切れ端だけでも掴めたらという思いから、気が付けばどっぷりハマってしまうお話で、要するにテンポの良い構成展開なのです。

そもそも、主人公の高校生も、いったい彼は善者なのか悪者なのか?
それさえも判らないほどの、伏線をばら撒き、こんな摩訶不思議な出来事にどんな真相があるのか!?

どうやって回収するんだと、なかば心配しながらもページをめくる手が止まりませんでした。

そればかりを思っているとあっという間に読んでしまったのです。
しかも、私の心配をよそに見事に伏線回収してくれているので、充実した読了感とその余韻が残ります。


ノンフィクションなのかと思わせるリアリティがある


だいたい歴史好きの私としては、史実に沿わせながら、元々興味のあった忍者、忍術なども絡んでくるので余計にそそられてしまいました。

忍術は忍びであって、絶対にオモテには出てこない。

それだけに、その実態はわからないではないか?
現代人にはとうてい理解できない特殊な能力なんていうものが、本当にあったかもしれないのです。

胡散臭い事ではありますが、
今でも、霊媒師だの、超能力者だの、そういう人間達を集め、その特別な能力をさらに磨き、ステップアップさせた集団があっても不思議ではない。

そう思うと、
このお話も、一見とんでもなく現実離れしているようで、実は、意外と事実に掠っているのではないかと思えてきて、ワクワクさせられてしまいます。

あかん。
ネタバレなってしまうので、これ以上は触れられない。

とにかく、フィクションの中にも実際の史実も織り交ぜているので、妙に納得してしまい、ストンと落とし前をつけてくれる作品だと思います。


残念なのはタイトル名と終盤部分


もうちょっと良いタイトルがなかったのかな…と思ってしまうのです。
ここまで夢中にさせるという期待感を、このタイトルからは感じにくい。

最初は「石の来歴」だったらしいのですが、過去の芥川賞作品と同題があったので、変えようという事にらしいのです。

それなら童石わらしいしだけの方がいいように思うのですが。

いや、縁石えにしいしもシックリするのでいいかもしれない。

おっとアカン!またネタバレになりそうです。

とにかく、「お?なにそれ??」とそそられるタイトル名が相応しいと思うのです。
確かにファンタジー要素もあるのですが、「奇妙な物語」には少し軽いメルヘンチックな要素も匂わせてしまうので、このタイトルだと内容のわりには軽いのです。

タイトルの命名センスが感じられないのが残念過ぎます。

そして、何より一番肝心な回収部分にあたる終盤を、走り過ぎた感はあります。
来歴絡みの、思わず身を乗り出してしまうほどの、伏線回収をもうちょっと丁寧に描いてほしかったと思わずにはいられません。

深読みすると、人は自然の中の一部に過ぎず、それに翻弄されながら歴史を刻んできたという、基本的な大きなテーマをこの斬新な着眼点からもっと感じさせて欲しかったのです。


私は読書中、映画のように頭に映像が流れるのですが、これも例外ではなく、すでに私の中では映像化されていて、無意識に配役まで妄想してしまいました。

映画化するには良い原作だと思うのですが。。。



※この記事は2013.8.24に他ブログでの投稿を加筆・修正したものです。

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