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  • 眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 後編

    VRC環境課 紅狼散葉の夢の世界のお話 ド取後~

  • 眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 前編

    VRC環境課 紅狼散葉の夢の世界のお話 入課~ド取直後まで

最近の記事

眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 #11

「チッ、余計な真似を……!しょうがない、一旦お開きにしますか。」 そう言いながら灰狼は銃を向ける。 その銃口は散葉を狙っておらず―― 瞬間、散葉の身体は前方へと跳んでいた。 「なッ……!?」 その動き対して灰狼は目標を変えようとする。 遅い。 幾度となく幻と戦った表情の無い悪夢のそれと比較して、あまりにも。 苦し紛れに放たれた弾丸は散葉の影を打ち抜き、 その銃へ、振り切った散葉の刃は吸い込まれるように向かい、粉砕した。 「こいつッ……!」 悪態を吐いた灰

    • 眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 #10

      扉の先は自然に溢れた周囲の様子とは大きく異なる、硬く冷たいコンクリートの壁にところどころ蛍光灯が光る通路が続いていた。 明らかに雰囲気が違う。 「ちょっと、待ってくれって!お前は咲夜なのか?ここは何なんだ!?」 追いついた散葉の質問に、咲夜?は歩きながら答える。 「わたしはこの世界を管理する自律型保守システム、開発コード『REarth』(リアース)と申します。咲夜はあなたのサポートをする為に生まれたわたしの人格の一つです。ですので咲夜と呼んでいただいて問題ありません。彼の

      • 眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 #9

        翌日、目が覚めた時にはすでに萌吹の姿は無かったが、それから1週間程経った夕方に姿を見せた。前回と同じく扉をガンガン叩いて。 「そんなめちゃくちゃやんなくても出るって……」 「わりぃ、結構待たせたと思って、急いで来たんだよ。とりあえず、水かなんか、くれねぇか?」 よっぽど走ってきたのか息の上がった様子の萌吹を見て、ちょうど咲夜も出かけてるし、と散葉は家に招き入れた。 「で、まずお前の状況だが。」 出したコップの水を一気に飲み干し、一息ついた萌吹が切り出す。 「とりあえず命に別

        • 眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 #8

          夢の世界に来てから1ヶ月が過ぎた。 散葉は変わらずこの夢から覚める予兆も無いし、咲夜は眠ろうともしない。 それでも、ようやく眠る前の恐怖を頭の隅へ追いやる事が出来た気がする。 川で遊んだり、少し離れた大きな街へ買い物に行ったりして、久しぶりに心から楽しいと思えた。 買出しから帰って来た頃にはもう日は傾き始め、西空を茜色に染めていく。 今は台所で鍋を火にかけている白青の背中を、机に突っ伏して見ていた。 ――以前私が「だいたいこんなもんでしょ」と味付けしていたら、「大雑把すぎ

        眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 #11

        マガジン

        • 眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 後編
          5本
        • 眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 前編
          7本

        記事

          眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 #7

          月夜に鈍く光る刃を両手に携えて、振るい、走り、跳ぶ。 そんな日が続いていた。 ド取班長、堺との戦闘の最中、ダメージの蓄積で半ば強制的に『Belief』の副作用が発生し、この夢の世界に来てから2週間が過ぎた。 現実の時間では1ヶ月程か。この世界での滞在期間最長記録を毎日更新している中でも、目が覚める様子は全くなかった。 これまでと同様に青白の毛並みの子、咲夜と一緒に暮らしている。 以前と違うのは、こうして睡眠時間を削ってまで鍛錬を続けていることぐらいだろうか。 「はっ…は

          眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 #7

          A Long Long Dream

          「まだ、まだ……」 「寝てる場合じゃないのにッ――!?」 自らのその叫びに目を覚ました散葉は勢い良く身体を起こした。 その眼前に総毛立つような圧は無く、その地面は固くも無く。 「……そっか、眠っちゃったんだ」 そこは見覚えのある草原に山々。 ヘッドギア『Belief』の休眠時に見る「夢」の世界だった。 眠りにつく前の情景を思い出す。 ボロボロになってゆく庁舎、そこに現れたド取班長、堺斎核を前に尋常ならざる気迫で立つ狼森さん。 その背を見るガメザの目は、同様に

          A Long Long Dream

          Disturb the water

          ちくり。 手元が狂い、目標を見失った細い針が指を刺す。 「痛っ…」 滲み出た赤い血がまだほとんど真っ白な布に落ちる前に、散葉は慌てて手を引っ込めた。 少し前の客船での戦闘、ファイヴから受けた圧倒的な「暴」の感触が、未だにこの手に残っている。 今のように自宅で裁縫が出来るぐらいに回復するのにもしばらくかかった。 こうして生きているのが不思議に思える程だ。 結局時間を稼ぐだけで、奴の不死身さの源を特定することは出来なかった。 突貫で作ってもらった四物デリンジャーも、奴の一

          Disturb the water

          眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 #6

          「よぉ、思ったより早く来たな。あいつの近くにいりゃ会えると思ってたぜ。」 「どうやって咲夜の家を見つけたんだ、ご自慢の鼻で匂いでも追ったのか?」 「あぁそうだ。すごいだろ。」 得意げに胸を張るその姿に少し困惑しながらも、散葉は自分の目的を思い出す。 「いや、今必要なのはそんなことじゃないんだ。あんたの名前を教えて欲しいんだけど……」 「…なんでだよ。」 「あんたの個人情報が何も無いから、入院手続きがちょっと面倒なことになってるんだよ。」 「……」 露骨に嫌そう

          眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 #6

          眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 #5

          灰色の襲撃者が去ってから数分、叩き起こされた様でとても不機嫌なガメザを先頭に、数名の課員が散葉たちがいる空き地に到着した。 「チルちゃんは…無事そうだな。そっちのやつは結構怪我してるっぽいけど…寝てんのか?」 「あぁ、私の"これ"と一緒だ。」 「あ?そのヘッドギア何個もあるのかよ。じゃあ俺も……じゃねぇや、さっさとそいつ運ぶぞ。」 同じく到着した救急車に数名の課員と共に乗せ、最寄の病院までの搬送を依頼する。 「うっし、じゃあ怪我人もいなくなったし、こんな時間に起しや

          眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 #5

          眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 #4

          闇夜を黒いコートが駆け抜ける。 その服は所々に、風穴が空いていた。 どれだけの時間が経ったか分からない。 何人かは片付けた。 それでも追手は未だに振り切れない。 「キリがねぇ…!」 吐き捨てる黒と赤の毛並に凶弾が掠る。 急げ。 今はただ、走るだけだ。    zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz 散葉は郊外の、壁に囲まれた小さな公園に来ていた。 ここは環境課に入る前、初めてあの夢を

          眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 #4

          Sluggish Resolution

          ゴトッと音を立て、備品庫の棚から一つの箱が滑り落ちる。 「やべっ。」 試験が完了した備品を片付けに来ていた散葉が慌てて拾い上げ、確認の為に開けたその中身は、以前試験した椛重工製の「2本目の杖」―「クォーツ・オシレータ」のグリップ部分だった。 「……あぁ。」 破損が無いことを確認し、念のため隣の箱に入っていた重熱を引き起こす用の合金板を取り付け、接続に問題無いことも確認する。 さすがにここで発露させるのは危険なのでやらなかったが。 実験場で説明をしている時、弾道ゼラ

          Sluggish Resolution

          眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 #3

          時系列は「PROOF OF SHADOWS ep.12」https://note.com/satius/n/nbc07f38312d4 アイルズ戦直後です。    zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz 「課長を含…4名を目視…確認。周…敵影無し。お…かれさ…です。」 先の戦闘で破損したバイザーを通して、途切れながらも最も欲しかった情報が入ってくる。 ナタリアを半ば強引にアイルズから引き離し、地上

          眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 #3

          Until then

          散葉はいつもの廃工場に来ていた。 平時なら少しは渋られる休みの申請は、例の電力プラントでの事件の直後だからか、すんなり通った。 見上げると、穴だらけの屋根の先では、重苦しい雲が雨を吐き出している。 どさっ と お気に入りの昼寝ポイントに座り込む。 屋根がまだある程度残っているため直接雨には打たれないが、周囲に落ちた雨粒が顔や足に少し跳ねてくる。 今日はあまり寝心地も良くないだろう。 だけれど今のような、考え事をしたい時にはちょうどいい。 「はぁ……」 どうするべきだっ

          Until then

          VRC環境課 紅狼散葉_設定

          「zzz……」 1.基本情報名前:紅狼 散葉(くろう ちるは) 性別:女性 種族:獣人(狼) 年齢:22歳 配属:開発/整備係 試験班 セキュリティランク:2 好き:寝ること 未知の道具を使うこと 2.ステータスSTR : 5 後述の旅の経験もあり、近接装備による戦闘能力は高め。 筋力はそこまである訳ではない。(4相当)そのため、基本戦闘スタイルの二刀流は破壊力の面では突出しているとは言えない。しかし、技量と経験による武器操作性能は高く、手数と対応力に優れる。

          VRC環境課 紅狼散葉_設定

          眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 #2

          VRC環境課 紅狼 散葉 ep.0 zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz 「うぁ~つかれたぁ~……」 「ああ悪い、一旦休憩するか?」 散葉と咲夜の2人は野原を歩いていた。 キャンプで遊び終えて、咲夜の家へと帰っている途中だった。 「家はもうすぐだし、もうちょっとがんばるよ。ねーちゃん歩くの速いね……」 「ずっと1人で行動してたし、せっかちになっちゃっ

          眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 #2

          Dreamy Dreamy Days

          zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz ―街外れの廃工場― 普段静かなこの場所で 今日は轟音が鳴り響いていた。 「オイオイ生温いんじゃねェーか!!?」 飛んでくる瓦礫を拳で叩き落しながら翡翠色が言う。 その眼は周囲を縦横無尽に走り回りながら、手に持つ大鉈で瓦礫を打っ飛ばしてくる赤黒色を捉え続けていた。 「わかってる……よッ!!」 散葉は両手に持った大鉈…絶ち斬り

          Dreamy Dreamy Days