Until then

散葉はいつもの廃工場に来ていた。
平時なら少しは渋られる休みの申請は、例の電力プラントでの事件の直後だからか、すんなり通った。
見上げると、穴だらけの屋根の先では、重苦しい雲が雨を吐き出している。

どさっ と
お気に入りの昼寝ポイントに座り込む。

屋根がまだある程度残っているため直接雨には打たれないが、周囲に落ちた雨粒が顔や足に少し跳ねてくる。
今日はあまり寝心地も良くないだろう。
だけれど今のような、考え事をしたい時にはちょうどいい。

「はぁ……」

どうするべきだったのだろう。

ひと思いにトドメを刺すべきだったか?
もう助からないことは心の奥底で気付いていたはずなのだから。

いや。

死は救いではない。命は散るから美しいなんて戯言だ。
なにより……あの場にはナタリアさんがいた。
その判断を伝えること、今の私に出来るか?

「……」

トドメを刺さない判断は、最良ではなくても、最善だったと信じたい。
だが、凶弾が全てを持ち去ってしまった。

あの妨害を防げていれば、なにか……

「…盾でも持つか……」

そんな、根本的な解決にならない、零れ落ちた言い訳に苦笑する。

おそらく結末は、何も変わらないだろう。


だけれど。
今の私には、守ってその後どうするかなんて正解は見出せないけれど。
それを判断できるヒトは いる。
そう信じて いる。

なら、私も『そう』なれるように。
なれるまでは、『そう』出来るヒトのために。

「例えひとときでも……」

目を閉じ眠りにつく。
頬を伝う跳ねた雨粒が 増えた気がした。


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