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眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 #5

灰色の襲撃者が去ってから数分、叩き起こされた様でとても不機嫌なガメザを先頭に、数名の課員が散葉たちがいる空き地に到着した。

「チルちゃんは…無事そうだな。そっちのやつは結構怪我してるっぽいけど…寝てんのか?」

「あぁ、私の"これ"と一緒だ。」

「あ?そのヘッドギア何個もあるのかよ。じゃあ俺も……じゃねぇや、さっさとそいつ運ぶぞ。」

同じく到着した救急車に数名の課員と共に乗せ、最寄の病院までの搬送を依頼する。

「うっし、じゃあ怪我人もいなくなったし、こんな時間に起しやがったクソ野郎を探してブッ飛ばしにいくか!」

「いや、全員一旦庁舎へ戻れだってさ。」

「ハァ!?ンでだよ!」

腕をぐるぐる回していたガメザが、もの凄く不満げな表情で振り向く。

「向こうは銃持ってるし複数いるんだぞ。あんたの戦闘能力は信頼してるけど、無策で行くもんじゃないってことだろ。」

「じゃあチルちゃんは何か策があって助けに飛び出したのかよ?」

「む――こっちは突発だったし他に手も無かったし、こう…違うじゃん。」

そんなことを話しながら回収したドローンと共に、散葉たちは庁舎へと向かった。

映像データを情報係へ受け渡し、文字起しのための聞き取りが終わる頃には、もう夜が明けてしまっていた。


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一連の引継ぎが終わり、庁舎の仮眠室で眠っていた散葉が起こされたのは、その日の夕方だった。

映像の解析が終了したこと、それと病院に搬送された黒コートの獣人に関することで、現状確認を行うそうだ。

小会議室には情報係からナタリアが、医療班からシエンが出席していた。

「ようやく来たか。また数日寝続けるのかと思ったよ。」

ナタリアはからかうように薄ら笑いを浮かべている。

「朝まで徹夜だったんだから勘弁してくださいよ……」

「まぁまぁこれで揃いましたし、始めましょう。」

シエンに促されて、一同は机に向かう。

「散葉が持っていたドローンのカメラで撮影された動画データを解析した。画質が悪く、さらに墜落時のショックでかなりのデータが破損してしまっていたが……これを見てくれ。」

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手元のデバイスに映し出されたのは、襲撃者の首元で光っていたドッグタグを拡大したものだった。

「かすれているがこのドッグタグに桜の花のマークが見える。これは『桜花電機』という企業が使用しているものに酷似している。」

桜花電機。

主に工業用やアミューズメント機器向けの電気製品等を多く手がける、老舗の企業だ。

一昔前の製品の形状を引き継ぎ現代風にリメイクすることを得意としているが、特段大企業とも言えず良くて中の上だろうか。

環境課へも少数ながら備品を納入しており、その際に一通り"裏"が無いことの確認はされていたはずだ。

「もちろんブラフの可能性も高い。現在慎重に調査中だ。ああ、念の為桜花電機から納入されている備品はしばらく使用禁止だ。」

手元のデバイスから画像がシュンと消える。

「それでは次に私から、本日深夜に救出されて、現在は管轄内の病院に入院中の女性について。」

入院中の女性――あの黒コートの獣人のことだ。

「銃弾を受けていた箇所については手術がすでに完了しており、命に別状は無いそうです。しかし、一向に目覚める様子が無いそうで…」

デバイスが再度ニュンと音を立て、見覚えのある似た波形が2列になって映し出された。

「上が現在入院している方の脳波、そして下が散葉さんがそのヘッドギアを使った後に眠っていた際の波形です。」

一般的な睡眠時の脳波は浅い眠りと深い眠り――レム睡眠とノンレム睡眠を行き来するジグザグなものになるが、今表示されている2つの波形はレム睡眠がずっと続いている。

「私のこれと同じと思われるヘッドギアを使っていたので、それによるものだと思う。」

「はい、そう考えて良いでしょう。それで何時起きるか、なのですがそれ以前に……」

「他に何か悪いことが?」

「いえ、彼女の所持品、および事件現場周辺に身分を証明できるものが無かったため、彼女の素性がまだ分からない状態で、長期間入院するとなると色々不都合が。」

どこの誰ともわからない、さらに意識不明の人物を預かり続けるのには、厳しいものがあるだろう。

血液や指紋等から身元を求めることも可能だろうが、すぐに出るものでは無いだろう。

「せめて名前が分かれば良いのですけれど……」

「――分かりました。当てがあるので、明日まで待ってもらってもいいですか?」

ナタリアとシエンが顔を上げる。

「"それ"か?」

「"これ"です。」

頭のヘッドギアを指して言う。

「そのヘッドギアを狙っての事件なんだろう。外では使わない方が良い。」

「それでは医務室の準備しておきますね。毎回言ってますけど、くれぐれも注意してくださいよ?まだそれの副作用が完全に解明されてる訳ではないんですから。」

「…りょうかいです。」

直近で片付ける必要のある業務を済ませ、散葉達は医務室へと向かった。

「ちょうど良い機会なので、睡眠状態に入る際のバイタルも記録しますね。」

シエンが電極パッドやら何やらを貼り付け終えたのを確認して、散葉は短時間だけ「Belief」を起動し、停止させる。

「ああ、今回はこの事件に関連する業務ってことになるように、課長へ伝えておいてやる、私が。」

「ナタリアさん前も似たようなこと言ってませんでした…?今度は信じていいんですか……?」

真顔で親指を立てるナタリアを見て、ウウーンと唸りながら、

紅狼散葉は眠った。


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「ここは――咲夜の家の裏か。」

目を覚ました散葉がいたのは、見覚えのある家のすぐ近くだった。

咲夜は基本的に家にいるため、この世界に来た時は結構な頻度でこの家の近くで目覚めている。

「さて、1日もいられないだろうし急が…うぉわっ!!」

次の行動を考えながら歩き出した散葉は、突然窓から伸びた腕に掴まれ家の中に引き込まれた。

「だれムグッ!?」

「しーっ!ねーちゃん、しーっ!!」

白青の獣人――咲夜が散葉の口を塞いでいた。

「~~ぶはっ、何、なにがあったんだよ…」

「こっちこっち、そーっと付いてきて。」

そう言い入口へ向かう咲夜に付いて行き、促されるように外を見た散葉の視線先には、向こうで見たばかりの――

あの黒コートの赤黒の獣人が、木に寄り添っていた。

「あいつ――」

「昨日来てから、そのままずっとこの家の周りにいるみたいなんだ、でも襲ってくるようでもないし……」

「いや、ちょうど良かった。」

「ねーちゃん!?」

引き留めようとする咲夜を家の中に残し、散葉は木の傍で目を閉じているヒトに向かって歩き出した。

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眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 #5 「その感情は現実か、それとも」


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