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眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 #3

時系列は「PROOF OF SHADOWS ep.12」https://note.com/satius/n/nbc07f38312d4
アイルズ戦直後です。

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「課長を含…4名を目視…確認。周…敵影無し。お…かれさ…です。」
先の戦闘で破損したバイザーを通して、途切れながらも最も欲しかった情報が入ってくる。

ナタリアを半ば強引にアイルズから引き離し、地上まで帰還した散葉たちは
通報を受け駆け付けた課員と合流していた。

「ここまで来れば一安心…でしょうか。」
先導するフローロがこちらに振り向き告げる。
その顔にはようやく少しの安堵が見える。

「そうですね。ナタリアさんは大丈夫ですか?」
散葉は自分の背にいるナタリアの様子をうかがう。
「あぁ……ああ、大丈夫…少しは落ち着いたよ……」

ナタリアは身体はともかく、精神へのダメージが大きいようだ。
兄を…家族を失ったんだ。今はこうして背負って運ぶことしか出来ない。

「そういえば散葉、そのヘッドギア、まだ起動したままじゃないのか。」
「あっ…」
課長に指摘され、散葉はようやくそれに気付く。
ヘッドギア「belief」の起動は今回で2回目。1度目は全開で10分使用して、その後約1ヵ月眠っていたらしい。
今回は開発係で作ってもらったバイザーの機能で効果範囲を抑え、アイルズとの接敵直後に使用してから今で5分ぐらいで……

「今なら心配する必要もないしな。」
ナタリアをフローロに預け、課長に促されるまま「Belief」の効果を切る。
すると、やはり前回と同じく急激な眠気に襲われる。
「たぶん数日で起きられるはず…ですけどまだかくじつでは…ないので……」

「心配するな…私が代わりに有休申請を書いてやる。」
「エッ!!!??!?」
予想もしない言葉に、ナタリアの方へ顔がギュンと向く。
眠気がちょっと飛んだ。

課長の方を見ると、小さなため息をついてから
「大丈夫だ、有休とは別枠にする。だからしっかり休め。」

と、苦笑いしながら言う。

その言葉に胸をなでおろすと、再度まぶたが落ちてくる。
薄らいだその視界に、ナタリアのニヤリとした表情と、フローロの少し困ったような笑顔が見える。

あぁ…大丈夫そうだな……
そんなことを思いながら。

紅狼散葉は眠った。


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「ん……んん、ここは…またあの夢の中か。」
森の中で目覚めた散葉は、生えている植物に見覚えがあった。
ヘッドギア「Belief」を受け取った場所、そして使用後にも夢で見た場所だ。

「服装はあの時のままなのか……」
眠る前まで重厚なアサルトスーツ…「GMF-TX"ベルウェザー"」を着ていたはずだが、
今は以前の夢と同じ、環境課に入る前に旅をしていた時の服装だ。
以前の夢と違うのは、ヘッドギアとバイザーがあることと、スタンブレードを持っていないことだろうか。

「眠る前に持ってたものは持って来れる…のかな…?」
まあその辺は追々検証するとして、同じ夢ならあの子も……

「おーーーーい!!」

木々の狭間から、聞き覚えのある声と共に現れたのは、青と白の毛並の…

「やっぱり散葉のねーちゃんだ!!」

「咲夜!」

この夢の中で出会い、私にこのヘッドギアを預けてくれた獣人の少年。

蒼狼 咲夜がそこにいた。

「もー、いきなり倒れたと思ったらフッと消えたまま、長いこと帰ってこなくて心配してたんだよ!?今までどこ行ってたの?」

「前回起きた時はそんな感じだったのか…」

ツメを扱い散葉と咲夜を襲ってきた黒と赤の獣人、そいつのと戦いで使用した「Belief」の効果を切った後、今回と同じ様に眠くなり、起きた時にはこの夢の中だった。

負傷した咲夜の看病をしながら、しばらくこの世界で生活していたはずだ。そして半月ほど経った時にまた急激に眠気が襲い、気が付くと環境課が管理する病棟の中で目覚めていた。

(あの時は夢の中で半月ぐらいしか経っていないはずなのに、現実では1ヵ月経っていた。やっぱり時間の流れにズレが……)

夢なら十分あり得る話だけど…と考えながら、散葉は誤魔化し方を考える。

「え、えーっと…そう、そういう転移魔法があって突然呼ばれて……」

「ふーん……?そんなのがあるんだ。やっぱり世界は広いなぁ。」

(信じてくれるんだ……)

少しの間ここで生活して分かったことがある。

この夢の世界は小さい頃好んで読んでいた、「剣と魔法が織りなす冒険譚」ジャンルで言うなら「ヒロイック・ファンタジー」な世界観で出来ていることだ。

以前環境課の課員に助けてもらったという話をした時、「冒険者ギルドみたいなところ?」なんて咲夜に返されていた。

「で、ねーちゃんはまたしばらくしたらいなくなっちゃうの?」

「あぁ、多分2日ぐらいはこっちに居れるかな。」

「そっか……、じゃあうちでゆっくりしていってよ!」

半ば強引に引っ張られながら、2人は咲夜の家へ歩き始めた。

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場所は変わって、2人は近くの町へ来ていた。

咲夜が料理を作ってもてなしたい!と言うので、食材を探しに来ていたのだった。

「もう怪我は大丈夫なのか?」

「うん、もうバッチリ治ったよ!!」

「それなら良かった……」

そんなことを話しながら市場を歩く。

(やっぱりこう…なんか浮いてるな……)

町の住人の大半は民族衣装的というか、ファンタジーな感じだ。

だけど咲夜の服装は、どちらかと言えば現実の世界のものに見える。

町の住人の中にも時々だが、同様に浮いた衣装のヒトがいる。

(向こうの広告で昔見た気がする服もあるんだよな……)

「まあ、夢って色々混ざるものだし……」

「ん?ねーちゃん何か言った?」

「いや、良い匂いがするなーって。」

実際になんだか香ばしい匂いがしている。

「あそこのお店からかな、見に行ってみよ……ん?」


匂いが流れてくるお店の前では、一人のお客が香辛料を品定めしている。

その姿は、黒いコートに黒と赤の毛並で……

「……うん、美味い。これを一袋……ん?」

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「あっ!!!!!」

「はぁ!!!??」

以前ヘッドギアを狙い襲ってきた、黒と赤の毛並の獣人が買い物していた。


「チッ!!これ!代金置いてくぞ!!!」

散葉と咲夜が面食らって固まっていると、黒赤の獣人は香辛料を急いで受け取り走り出した。

「あ!待てお前!!咲夜はここで待ってろ!」

「えっ、僕も…」

「あいつは今武器を持ってないみたいだし大丈夫だから!!」

(怪我をさせられた相手に近付けさせたくないし……)

そう言って咲夜を残し、散葉は逃げる背を追った。

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「ハァッ…ハッ……やっと追い付いたぞ……」

足の速さは散葉の方が上のようで、逃げ切れないことを悟ったのか、黒赤の獣人は立ち止まりこちらに振り向き息を整えてから、

「……よぉ、また使ったんだな、それ。」

頭のヘッドギアを指し、言った。

「ああ、大切な人達を守るために。」

「そうか……そりゃ良い使い方だ。」

バツが悪そうにそう言う。

「…あんたは何でここにいるんだ。」

「お前と同じだよ。だいたいは、な。」


「「……」」

2人の間に少しの静寂が訪れる。

散葉は何を聞くべきか、何をするべきか決めかねていた。

(敵意は感じない…… でも何かを聞くにしても、信用していいのか……?)

「あー……

 あの白青のやつ、咲夜っていったか。あいつの怪我はもう大丈夫か?」

「あ?あ、あぁ…一応。」

「そうか……悪かったな。これ。」

そういって散葉に袋を放り投げてきた。

中身は……さっきの市場で買っていた香辛料だった。

「償いにならないのは分かってるが、詫びとして受け取っとけ。」

「……このヘッドギアはもういいのか?」

「お前、今環境課にいるんだろ?なら奪われることはないだろうし、預けとくよ。ちゃんと制御も出来てるみたいだしな。」

「奪われる?」

こいつ以外にこのヘッドギアを狙っている者がいるのか?

だとしたら、あの時こいつは……


「じゃあな。大切なものを守るために使うのはいいが、あんまり使いすぎるなよ。起きていないと…守りたいものは守れないんだからな。」

「あぁ、それは…分かってるよ。」

遠のく黒いコートの背を見ながら。

咲夜を傷つけ、敵対していた相手だけれど。今のこいつは、少しだけ…信用出来るんじゃないかと思った。

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「ねーちゃん!!大丈夫だった……って、その袋は?」

町の市場へ戻ってきた散葉の元へ、咲夜が駆け寄ってくる。

「これは…あいつが落としていったみたいなんだ。」

「……そうなんだ。」

信用出来るかも知れないが、まだ完全に信じるわけにはいかない。

あいつの実力なら、あの時咲夜を殺すことも出来ただろう。

まだ咲夜を近付けたくは無い。

「またあいつに出会っても、近付かない様にしなよ。」

「うん、わかった!」

「じゃあ、帰ろう。こいつを使って料理しようじゃないか。」

脳裏にはこの夢を見る前の、ナタリアとアイルズの姿が浮かぶ。

ただの夢だとしても関係無い。

この子を失いたくは、無い。


眠れる紅狼と眠れぬ蒼狼 #3 「守りし者」



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