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Dreamy Dreamy Days

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―街外れの廃工場―

普段静かなこの場所で 今日は轟音が鳴り響いていた。


「オイオイ生温いんじゃねェーか!!?」

飛んでくる瓦礫を拳で叩き落しながら翡翠色が言う。
その眼は周囲を縦横無尽に走り回りながら、手に持つ大鉈で瓦礫を打っ飛ばしてくる赤黒色を捉え続けていた。

「わかってる……よッ!!」
散葉は両手に持った大鉈…絶ち斬り鋏を、一際大きな瓦礫に向かって強かに打ち付けた。

飛んでくる背丈程の瓦礫を前にガメザは少しだけ腰を落とし
「っらぁ!!」
繰り出した右腕は、積み木を崩すが如く軽々と瓦礫を砕いた。

崩れ去った瓦礫の裏から、大鉈を構えた散葉が飛び込んでくる。
袈裟斬りを狙う左腕に向かって、ガメザはさらにもう一歩踏み込み
「シッ!」
右肘を打ち据えた。

大きくバランスを崩した身体はそのままに、散葉は右手の大鉈を地面に突き立てそれを軸に半回転、ガメザの横をすり抜け距離を取った。

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ガメザが今の姿になったきっかけであるあの『事件』からしばらく経った。
義手化しリハビリを続け最近復帰したガメザに、散葉から備品試験の手伝いを持ち掛けたのだった。

「私は強いやつ相手に絶ち斬り鋏の試験が出来るし、あんたは今の身体が持つ力を実践で確認出来る。まさにwin-winの関係ってやつだ」
今のガメザの能力にも興味があった訳だが。

「間違ってねぇだろうけど、面と向かって言われるとなんか腹立つな……。
 まあいいや。試験戦闘、受けてやるよ。いつやんの?」
「今日」
「今日ォ!?」


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攻撃の出がかりを潰された散葉は、膝に手をつき息を整えていた。
「痛ったた……。さすがだな本当に…」
「なんだよまだ舐めてんのか?これじゃ肩慣らし程度にしかなんねぇぞ」
「マジかよ……」

事件の前のガメザも十分すぎる程に強かったが、今はさらに……
一回り以上大きくなった身体と義手化したその腕から繰り出される一撃は、以前よりも鋭くそして破壊的だ。

「まぁ、そんなこともあるだろと思って、ちゃんと準備はしてるよ」
ポケットから取り出した書類をピラピラと見せびらかす。
「なんだよそれ?」
「私のヘッドギア【Belief】の使用申請と明日の有給申請だ」
「ほーん?そこまでしてくれんだ」
「復帰祝いも兼ねてるんだ。出来るだけ派手に祝おうと思ってたんだよ」

「さて、明日中には起きれる程度ってことで、全開…は許可出てないから、打たれ強さを除いた強化なら15秒ぐらい。
 腕と足…力と速さだけとか部位を絞ればもうちょい長くてもいいけど……」
「一応聞くよ。どの程度がいい?」
Beliefに手をかけ、首を鳴らすガメザに聞く。

「確認の必要あんのか?そんなもん。」
「同意取っておいた方が後々面倒が無いからな。」
Beliefを起動する。

「「(ほぼ)全開だッ!!」」
叫びと共に 対の獣は疾駆した。


先に仕掛けたのはガメザだった。
走り込んでくる顔にきっちり合わせた前回し蹴り、散葉は一瞬だけ身体を反らし急停止、タイミングをずらすと、
そこからガメザの頭上めがけて跳んだ。

蹴りを外したガメザは慌てることなく低い体勢を取り、対空のアッパーを 繰り出す。
身体を横へ大きく捻り、無理矢理その腕を避けた散葉はそのまま横回転、 両手の刃による2連撃はガメザの髪を捉えた。

(やっぱり斬れない……何で出来てるんだよこの髪は)
無理な体勢とは言え確かに斬り付けた翡翠色の髪は、傷が入ったかすら怪しい感触だった。

ガメザの後方に着地した散葉の視界の端に、後ろ蹴りの足が見える。
クロスした大鉈の腹で受け、


…いや、受けきれず、後方へと蹴り飛ばされた。



ガメザは素手の間合いへ入る為、拳を繰り出しながら前へ前へと。
散葉は間合いに入られないよう、刃で弾きながら後ろへ後ろへと。

拳と刃の応酬が数秒続き、ラッシュの切れ目に散葉は攻勢に転じる。
左の刃で左の拳を弾き、自らの身体で隠した右手の絶ち斬り鋏を変形、刀身を延長する。
そして上半身のバネを利用し鋭く突きを放った。

間合いの変化に一瞬反応が遅れたが、寸前で躱された刃は服の一部を切り裂きガメザの右脇下へ流れた。
身体と右腕で大鉈を挟み、散葉を引っ張り込んだガメザは頭突きをかました。
散葉の視界が歪む。

「あぁクソッ!!」

悪態をつきながらガメザの身体を蹴り付け後方に離脱するも、すぐに追撃が来る。
どうにか体勢を立て直し迎撃しようと構えたその時、突然ガメザの上半身が前方へ下がった。
まるで小石に足を取られ躓いたように。

(いや……躓いたんじゃなくてこれは…)
翡翠色の髪が迫る。
(クソ硬い髪による攻撃…!面白いことを。ならこっちも試してやる!!)

両手の大鉈を手早く変形させ合体、大型の鋏へ。そうして
(絶ち斬る!)
鋏んだ。


刃は髪に食い込んだ。
食い込んで

そこまでだった。
(これでも斬れないか!
 まあいい、ここから後ろを取って〆だ!!)
食い込んだ鋏を軸に髪を乗り越え、ガメザの後ろを取ろうと足を地面から離したところで気付く。
ガメザの左足が見えない。

(……まさか)
咄嗟に鋏を髪から離そうとしたが、一瞬間に合わず。
翡翠の髪を掻き分けて、                       左のかかとが絶ち斬り鋏の結合部へと吸い込まれた。

鋏からビギッっと嫌な音がし、身体ごと大きく吹き飛ばされ背中から着地する。
(瓦礫の代わりに髪で…!)

二振りの大鉈へ無理矢理分離し、体勢を立て直して目線を上げるとすでに 破壊者の姿は無く。
さらに上を見上げると。
輝く翡翠色が墜ちてきていた。


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散葉の頭の横、コンクリートの床は拳を受けてひび割れていた。
「……降参」
「あいよ」
馬乗りになっていた散葉の上からどきながら、ガメザは見下ろしている。
その顔は心なしから自慢げに見えた。

「で?俺の実力はどうだったよ?」
「以前以上。つまりげきつよ。起きたら以前のデータと比較して文章に起こすよ」
「そりゃどうも」
「鋏の方は強度と切断力の強化が必要だな……」

話ながらBeliefの効果を切る。
それと同時に急激な眠気が襲う。
「……あぁ…悪いけど課内のてきとうなとこまで……私を持ってってくれないか…」
「あ?あぁ、いいぜ。…今日のぶんの手間賃で今度なんか奢ってくれよな」
「…えぇ……まあ、いいよ……じゃ、おやすみ……」


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ガメザは散葉を抱えて立ち上がる。
「さて、と……」
「オイ瑠璃川ァ!!いるんだろ出て来い!!」
廃工場を震わす叫びに、柱の陰からピンクの髪の少女がふよふよと出てくる。
「なんだ~気付いたんですかガメザ先輩~」
「気付くに決まってんだろ、チラチラ顔出してクスクス笑ってんだからよ」
「なんだかいい感じの雰囲気だったから~そっとしておいてあげようとしてたんですよ~?」
「あ゙?お前も脳みそまで吹っ飛んじまってんのか???」
「じょうだんですってば~」

「チッ……まあいいや、俺は散葉ちゃん運んでくるから適当に瓦礫とか片付けといてくれ」
「えぇ~!ちょっと横暴じゃないですか~!?」
「うるせぇな見物料だ見物料!」
「今度なにか奢ってもらいますからね~」
2人分出してもらうか…などと考えながらガメザは庁舎へと歩き出した。


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―夢―

「あ、ねーちゃん!!久しぶりー!!!」

森で目を覚ました散葉の元へ、白青な毛並の少年が走ってくる。

「おー咲夜、帰ってる途中か?」

「うん、買い物に行ってたとこだったんだ。」


このヘッドギア【Belief】を使い、効果を切って眠った後は毎回、咲夜のいるこの夢を見る。

「ねーちゃん、今回はどれくらい居られるの?」

「また用事があるから、半日くらいかな……」

「そっか…… じゃあ、今日は剣の使い方教えてよ!!」

「ああ、いいよ。」


この夢と現実では時間の流れが少し違うらしい。

具体的には、夢の世界での半日は現実世界での1日であるらしい。


現実で目覚める時、夢の世界ではいきなり倒れた後、フッと消えてしまうのだという。

最初の頃はそれで咲夜を大いに心配させてしまったが、そういう魔法的なのがあるのだろうと納得してくれたようだ。

最近は目覚める時間を逆算して、時間までには咲夜から離れたところに移動するようにしている。


「なあ咲夜……本当にこのヘッドギア、まだ返さなくてもいいのか?」

「うん…今返してもらっても、またこの前のヒトが奪いに来たとしたら、 今度こそ守れないかもしれないから…」

「そうか……」

「ねーちゃんの住んでる街は技術力が高いらしいし、そこでヘッドギアを解析してもらいながら、こうやってたまに剣を教えてくれれば、いつかはあいつに勝てるかもしれない。

だから、いっぱい教えてね!!」

「……ああ、私よりも強くなってもらおうじゃないか。」


夢の住人だったとしても、私はその成長が見てみたいんだ。


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―医務室―

「やっぱりおかしい…」
Beliefの効果で「休眠」中の散葉から測定した波形を見ながら、シエンは思案する。
睡眠には深い眠りと浅い眠り…ノンレム睡眠とレム睡眠がある。
通常眠るとまず深い眠りへと落ちてゆき、数時間後からレム睡眠とノンレム睡眠が交互に現れるようになる。

しかし、休眠から1時間も経たずに計測を始めたはずこの波形は、入眠直後から一貫してレム睡眠が続いている。
「居眠りが多いそうですけど、ナルコレプシーの波形とも違いますし…」
レム睡眠特有の高周波の波形が出続けているというのは、明らかに異常だ。

夢はレム睡眠の時に見るという。
ノンレム睡眠を介さないレム睡眠は、現実と区別がつかないほどリアルな夢を見ることもあるとか。
だとしたら、今このヒトはいったいどんな夢を見続けているのだろうか。

「んん…あれ、ここは……」
「あ、散葉さんおはようございます。 といってももう夕方ですけどね」
「シエンさん…ってことは医務室か、ベッド占領しちゃって申し訳ない」
「いえ、昨日ガメザさんが散葉さんを運んでいるところに会ったので、確認したいこともあって医務室まで運んでいただいてたんですよ」
「確認したいこと…?」

「散葉さん…そのヘッドギアを使った後の休眠後、寝起きが悪かったりはしませんか?」
「え?まあ、ぐっすりって感じではないけど、めちゃくちゃ悪い訳でも…」
「…では、毎回とても現実的な夢を見ていたりはしませんか」
散葉の目が少し見開かれる。

「……私としては、そのヘッドギアを多用するのはオススメできません。
 今回なんかは1日で起きられてますが、もし長時間使用したりして休眠時間がさらに伸びた場合……」
「…夢から帰ってこれなくなるかもしれませんよ」

「…だとしても……」
その判断は正しいのだろう。しかし夢と現実、どちらも今の散葉には大事な場所だ。
どうするべきなのだろう。

「そこは紅狼の判断に任せる」
「えっ? うわっ!!」
ベッドの隣を見るといつからか、灰色の猫…課長 皇純香がそこにいた。

「ヒトの顔をみてそんな驚くものじゃない。起きる少し前からいたぞ」
「は、はぁ…」
初めてBeliefを使った後、1ヵ月程も続いた休眠から目覚めた私を、経過観察も兼ねて環境課へ引き入れてくれた課長には本当に感謝している。
それはそれとして、何を考えているのかよく分からないというのも事実だ。
神出鬼没な謎のヒト、そんな印象だけれど

「話を戻すが、私はそのヘッドギアを使うなとは言わない。
 紅狼が夢の世界で何を見ているのかも無理に干渉しない。」
「だが。」
「今はお前も課員なんだ。頼る時はちゃんと頼れ。」

このヒトは、やっぱり皆をよく観ている

「課長……。 わかりました、ありがとうございます」
「あと居眠りも減らすようにな」
「ゔ」

よく、見ている……

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―開発/整備室―

次の日、散葉は絶ち斬り鋏を持って整備室を歩いていた。
「お?紅狼さん何してるんですか?」
「あ、アルくん、ちょうどいいところに。探してたんだ」
「僕を?ああ、それの整備ですか」
散葉から大鉈を受け取りながらアルベルトは言う。
「そうそう、あと一緒に改造の依頼もしようと思って」
「うわぁ思いっきりひん曲がってますね…。なにやったんですかこれ」
「この前ガメザと試験戦闘した時に蹴り壊されちゃった」
「はぁーそれは…、さすがはガメザさん……。あーでも、この構造だと元から強度に不安がありそうだし、どっちにしろ長くはなかったと思いますよ」
大きく曲がってしまった合体機構のあちこちを示しながら指摘する。
「だよなぁ。それで強度上げないとなぁって考えてったらアルくんの顔…頭?が思い浮かんだから」
「僕の頭が硬いってだけじゃないですかそれ!」
「えっ、私は別にアルくんの頭が固いなんて思ってないぞ……?」
「「??」」
2人揃って首を傾げる。


「…あっ、ああ、硬度がかたいと思考がかたいで行違ってますねこれ」
「あーなるほど…」

「そういやガメザの頭も硬かったなぁ……」
「……それはどっちの意味で?」
「硬度の方だよ!殴られちゃうぞ!」

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……

「…ェエエックション!!」
「ちょっとガメザ先輩~汚いですよ~」
「あぁ?うるっせぇな……。誰かが噂話でもしてんだろ」
「また恨みでも買ったんですか~?」
「馬鹿言え。てか最近までそんなこと出来ねぇのはお前が一番知ってんだろうがよ」

……

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「とりあえず仕様書を渡しとくよ」
散葉は数枚の紙の束をアルベルトに手渡す。
「修理と補強、あとこの備品のオリジナルに付いていた、刃の発熱機能を また付けてほしいんだ」
「発熱…ですか?」
「硬いものを絶ち斬る時に+αでやっぱり欲しいなーと思って」

アルベルトは頷きながら仕様書に目を通していき、紙をめくる指はやがて最後のページの一文を見て止まった。
「あの……このめちゃくちゃでかい『爆発しないこと』っていうのは……?」
「あぁ、改造作業はアルくん以外でも構わないんだけど、爆発だけはしないようにして!」

散葉の語尾が少し強くなる。

「…オリジナルのやつは発熱し過ぎたかそれ以外の何かか、最終的に大爆発したんだよ…」
「えぇ……」
「アルくんが入課してくる以前に誰かが改造して、整備室の整理の時に外の『自動販売機』に入れてたみたいなんだけど」
「誰か…ですか……」

2人の目線の先には、こちらに歩いてきているリアムの姿があった。
「お?なんだよ2人してこっち見て。ボクになんか用か?」
「…あ、あーそれじゃアルくん!優先度は低めでいいからお願いしたよ! それじゃ!!」
「え?あっ、ちょっと!」
散葉はそそくさと整備室を後にする。

「…なんだったんだありゃ。」
「いやー、まぁ…ハハハ……」
アルベルトは 笑うことしかできなかった。

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すてきな/夢のような日々「Dreamy Dreamy Days」

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