Sluggish Resolution
ゴトッと音を立て、備品庫の棚から一つの箱が滑り落ちる。
「やべっ。」
試験が完了した備品を片付けに来ていた散葉が慌てて拾い上げ、確認の為に開けたその中身は、以前試験した椛重工製の「2本目の杖」―「クォーツ・オシレータ」のグリップ部分だった。
「……あぁ。」
破損が無いことを確認し、念のため隣の箱に入っていた重熱を引き起こす用の合金板を取り付け、接続に問題無いことも確認する。
さすがにここで発露させるのは危険なのでやらなかったが。
実験場で説明をしている時、弾道ゼラチンへ打ち込みその爆発力に散葉が少し目を見開いた時、課長に承認を貰った時。
「クォーツ・オシレータ」の試験の際に幾度も見た、全身ドヤ顔人間の姿を思い出す。
環境課に籍を置いたきっかけは成り行きによるものだ。理念に賛同して、なんて崇高な意思があった訳でもない。
もちろん、入ったおかげで人との繋がりの大切さを肌で感じ、守りたいものも出来ている。
今渦巻いている感情も、環境課に入る以前ではこんなに大きくならなかっただろう。
だとしてもその感情は、本当に自分を突き動かすのに使っていいものか?
「……」
散葉はヘッドギアを触り、先に相対した二刀の使い手を思い浮かべる。
あの時はこちらの戦力が十分だったから使わずに済んだが、これからもそう上手くいくなんて思わない。
今の感情を持ったままなら、全力で使えと指示されたなら、いや指示されなくてもその時が来れば、私は躊躇なく全開で「Belief」を起動するだろう。
それが、眠り続けることになるとしても。
そこに、確固たる自分の意志はあるのか?
それは、ド取の操り人形にされていたかもしれないあいつと、私。本当に違うと言えるのか?
「クォーツ・オシレータ」を元の通りに棚へ戻し、備品庫を後にする。
そして自分のデスクに戻り、使用申請書を書き始めた。
使用する日付の欄だけ空欄にしたそれを、引き出しの中――同じように途中まで書かれた「Belief」の全開での使用申請書の"上"に重ね、
散葉は静かに、引き出しを閉めた。
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