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九官鳥

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#散文

九官鳥(8)

九十六日目(1インチの差が見せる風景)

「あたしの世界にも縄張りと言われるものはきちんとあります。そういう意味ではどんなに知能や技術が発達したとはいえ、そういう意識はあたしたちとそうは変わらないのね。」『リンドウ』に[国境]と言うものの存在の説明を受けて、あたしは彼女にそう答えたのさ。

『リンドウ』は前にも少しふれたように[孤児]と言うものなのだそうだ。
だから本当の親を知らない。
だから自分

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九官鳥(5)

六十四日目(輝ける風景)

「あなたには、あたしのことで迷惑をかけたようですね」あたしの話に少し紅い髪の人間は、首を横に振っているだけ。
「どうかしたの?」そう聞いてもその様のままだった。
「すみません。どうもしません。大丈夫です…」
「どうもしないということは無いでしょう。あなたの様子は、明らかにおかしいよ」
少し紅い髪の人間は
「あの。すみません。うれしいのです。あなたとお話ができることが。だ

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九官鳥(3)

五十二日目(歯磨きの風景)

あたしが居たところについて伝えたところで、あなた方にたどり着けるわけではないのですよ。
何度も何度もあたしはそう伝える。
あたしの住んでいたところは[否定]という街、[全身]と言う国。
もちろんこの世界の地図のどこにも、その街は書かれていないし載っていない。
あたしの住んでいたところはこの場所にいる人たちには見る事ができないのですから。
地図なんて物に載るはずはないの

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九官鳥(2)

二十一日目(間抜けが居る風景)

「あたしの名前なんて言うのはお前さん方からしたら、まるっきりさっぱりどうでも良い事でしょうよ」あたしは完全に拒否をする。
そうはいっても実のところあたしは自分の名前をあまり気に行ってなかったのでね。
言いたくなかったのが本当のところだ。
子供の頃、この名前でよーくいじめられたもの。
それにしても人間というのは余計なことを根掘り葉掘りと聞いてくる。
あたしはそんなこ

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九官鳥(1)

二十日目(南窓の風景)

人間という生きものはつくづく面白いものだ。
このところ連日あたしのところにやってきては、あたしのことを研究対象の生き物だからなどと、あーじゃないこーじゃないと、やいのやいのやっているのさ。

奴らは知らなくていい事って物が、この世の中にはたっぷりあってどんなに考え込んでも、とっくり解らないものがどっさりあるって言うのを知らないのさ。
おまけにあたしが言っている事には聞くこ

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九官鳥

九官鳥(きゅうかんちょう)



二十日目(南窓の風景)

人間という生きものはつくづく面白いものだ。
このところ連日あたしのところにやってきては、あたしのことを研究対象の生き物だからなどと、あーじゃないこーじゃないと、やいのやいのやっているのさ。

奴らは知らなくていい事って物が、この世の中にはたっぷりあってどんなに考え込んでも、とっくり解らないものがどっさりあるって言うのを知らないのさ。

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