九官鳥(3)

五十二日目(歯磨きの風景)

あたしが居たところについて伝えたところで、あなた方にたどり着けるわけではないのですよ。
何度も何度もあたしはそう伝える。
あたしの住んでいたところは[否定]という街、[全身]と言う国。
もちろんこの世界の地図のどこにも、その街は書かれていないし載っていない。
あたしの住んでいたところはこの場所にいる人たちには見る事ができないのですから。
地図なんて物に載るはずはないのです。
人間達にはそのことについて、幾度も幾度も繰り返し説明をさせられるあたしは、たいがいにうんざりしている。
多分こいつらにはあたしの言葉はさっぱり理解できないのでしょう。
理解しようとしないのでしょう。
しまいにはインチキだとか、物まね動物だとかって言いだす始末。
そうしてこいつらはあたしより自分たちの方が上の生き物だと思いたいようだった。
多分そうなのだろう、だからこいつらはあたしの言う事を真に受けないし理解できないのだ。
生き物を比べても仕方のない事を理解していない。

こいつらはとんでもなく愚かな生き物だ。
こいつらは悲しいぐらいに愚かな生き物だ。

あたしはこいつらの一人に、こんな質問をされたことがあった。
「あなた。もしくはあなた達は道具と言うものを使えるのか?もしくは使ったことはありますか?」とね。
あたしはおかしくなってゲラゲラ笑ったよ。
おかしくて涙を流しながら。
「あなた方は、どうしてそれを使う必要があるのだい?」と、嫌みのつもりで言ってやったのさ。すると白い服を着た一人が薄気味悪いニヤケ顔をあたしに向けて、
「あなたは、私たちの言葉を理解し、また使え、そして異様な手段で伝えてくるわけだが、道具の一つも使えないのだね」
あたしはこいつらが(この時に限っては、こいつだけだったのかもしれないが)本当に哀れに思ったよ。
言葉すらもまともに使えないものに、道具なんかが使えるわけがないと思ったからね。
まぁ、ここに来る前に黒い塊の博学者に
「あそこの者は、自分たちの同族を殺す道具を作っていて、あたり前のようにそれを使う。それどころかより多く殺す道具を作るのに競い合っている」って聞いていたからね。
悲しくても驚きはしなかったよ。

たぶんこいつらは哀れで愚かな生き物だ。

必要以上の道具なんてものは、自分を退化させる物にすぎないのさ。
自分たちの首を絞める道具なんてもっと理解に苦しむ。
必要な物なんて歯ブラシかなんかが、あればいいのさ。
生きていくうえで最低限のものさえあれば。
だから、あの薄気味の悪いニヤケた顔の人間の前で、自分の頭に翼をあてて。
ゴソゴソやって中から一本歯ブラシを取り出してね。
ごしごし音を立てて自分の歯を磨いてやったのさ。(正確にはくちばし磨きだけれどね)
その時のあいつの顔ったら可笑しくてさ。
猫の尻尾をネズミがブラッシングしているのを見た時のような顔をしていたのさ。
しまいには、壁のアラームが鳴っているのに
「そのブラシは、ど、どんな理由で何にどうやって使うんだい?」なんて頓珍漢なことを言うからさ。

あたしはフフン?と
「あなた方は、歯ブラシで何を磨くのだい?」って聞いてあげたんだ。




ひとまずストックがなくなりましたので これにて少しお休みいたします。 また書き貯まったら帰ってきます。 ぜひ他の物語も読んでもらえると嬉しいです。 よろしくお願いいたします。 わんわん