九官鳥(8)

九十六日目(1インチの差が見せる風景)

「あたしの世界にも縄張りと言われるものはきちんとあります。そういう意味ではどんなに知能や技術が発達したとはいえ、そういう意識はあたしたちとそうは変わらないのね。」『リンドウ』に[国境]と言うものの存在の説明を受けて、あたしは彼女にそう答えたのさ。


『リンドウ』は前にも少しふれたように[孤児]と言うものなのだそうだ。
だから本当の親を知らない。
だから自分の国籍を知らない。
だから自分のルーツが知りえない。
その代わりに学習能力の高さが身に授かっていたのだそうだ。
ただ、『リンドウ』曰く、その学習能力の高さのおかげで、今の『仕事』につくことができたのだそうだ。
あたしにそう説明してくれた時、
「でもね、本当は私[CA]になりたかったんですけれど、身長が1インチほど足りなくて、その職業にはつけなかったの」と、付け足した。
それを聞いてあたしは『リンドウ』に、こういう質問をしなくては気が済まなくなる。
「ねぇ『リンドウ』。不思議に聞こえるかもしれませんが、あなたたちは仕事を決めるのに基準なんてものがあるの?」『リンドウ』は案の定、不思議そうな顔をしている。
「われわれは、生まれついての職業を持っているの。ニイタカキビの子はスイカの種をかき混ぜるって、大事な仕事を持っているし、雷ゴロゴロは野イチゴにくだをまく。ほうずきアシカって言うのは笑うしかなかったかな。だからね、『リンドウ』あなたにも、実はすでに本当の職務があるのではないかしら?そうだから、今やっているこの職業こそが、あなたが成るべくしてなった職業かもしれませんよ。現にあたしと会話のできる世界でただ一人の人間なのだから」って言葉を伝えていると、あたしの言葉の途中で『リンドウ』は一粒だけ。本当に一粒だけの涙をこぼした。
その涙の意味について考察していると
「そうかもしれませんね。私にとってこの経験は身に余るほどのことかもしれません。そんなことを思ったら…。つい…。すみません」最後の言葉は余計だったけど、答えをきちんとくれたの。

ふとあたしは、『リンドウ』に(それでは、あなたの職業はなんですか?)と、聞かれるのではないかと思い怖くなってしまった。
それは本当に鳥肌が立つ思いがして、あたしはあたしの職業を思い出した。




ひとまずストックがなくなりましたので これにて少しお休みいたします。 また書き貯まったら帰ってきます。 ぜひ他の物語も読んでもらえると嬉しいです。 よろしくお願いいたします。 わんわん