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授業中に「えーと」を連発してバカにされたあの日のあなたへ

発言の思考中にでる「えーと」が相手に与える印象。そして好印象を与える思考方法。

ある読者の方から「宿題」として、面白いテーマをいただきました。所作の背後にある心理や、相手に与える印象って、なかなか気になるところですよね。
心理学者=こういう題材を扱うスペシャリスト、というのが多くの人のイメージじゃないでしょうか。
あながち間違ってないけど、それがすべてじゃないんだなぁ……(僕はそれを知らなかったせいで大学時代に学部選びを間違えた)。

さておき、本題に入ります。
が、その前に少しだけ周知をさせていただきます。

本noteでは、読んでくださる皆さんからの「宿題」を募集しております。
僕に書いてみてほしいことがあれば、質問から相談、その他のお題に至るまで、なんでもお寄せください!下記フォームより随時募集させていただいております。

よろしければ是非お願いいたします!

前置きが済んだところで本題に入ります。
ついつい言っちゃう「えーと」って一体なんなんでしょう?
そして、あれはできるだけ言わないほうがいいのでしょうか。だとすると、言わずに済むための方法のようなものはあるのか。
そのあたりを検討してみたいと思います!

「えーと」ってそもそも何やねん!

身も蓋もないですが、のっけから引用から始まります。とりあえず押さえておきたいのは太字の箇所です。
ちなみに「有声休止」とはまさに「えーと」や「あのー」といった「言葉に詰まったときに出るアレ」のことを指します。

一つは対人的機能です。……文末などの発話の区切りで黙ってしまうと……他の人が話し出すきっかけをつくってしまい、まだ話したいあなたから発言権が移行する可能性が生じます。そうならないためには話し続ければよいのですが、すぐには考えがまとまらない。そこであなたは発言権を維持するために有声休止を発するのです。
もう一つは認知的機能です。有声休止には考えをまとめる補助的役割がある、というものです。授業での発表にみられる有声休止は、こちらでしょう。……あなたは「えーと」と声に出さないと、うまく考えがまとまらない。 それで有声休止を発しているというわけです。

出典はこちら:
https://psych.or.jp/wp-content/uploads/old/53-32.pdf

僕などがあらためて何かを書き足す必要がないくらいよくまとまったコラムなのですが、それでもあえて要約するとしたら、「えーと」という発話には (1) 発言のボールがまだ自分のもとにあることをアピールする(2) 口に出すことで思考を促進する、という二つの意味があるといえるでしょうか。
言われてみるとたしかに!と納得するところ大です。

プレゼン中に「えーと」は言わないほうがいい?

では、上に引いた内容を踏まえて、発言中に「えーと」と言ってしまうことの良し悪しを考えてみたいと思います。

結論から言うと、これは大いにシチュエーションや話し方のスタイルによると考えるべきだと思います。

たとえば、上のコラムでも引き合いに出されている「授業中の発言」という場面を考えてみます。
数十人のクラスメイトの中から指名されて、ある問題の答えを述べなくてはならなくなった状況で、回答に窮して「えーと」という発話を繰り返してしまったとしましょう。
これはまさしく、「考えがまだまとまっていないんだな」という印象を聴く側に与えることになります。

このように、明らかに自分が聞き手に対して一方向的に話す状況においては、「えーと」という発話は「考えのまとまっていなさ」を強く印象づけることになるでしょう。

ですから、たとえばビジネスや学術関連のプレゼンテーションなどの場面では、基本的には「えーと」という発話は好まれないと思います。
話すべき内容があらかじめ決まっているようなシーンでは、考えは極力事前にまとめられているほうが聞き手には好印象でしょう。

他方で、一方向的に喋る場面であったとしても、聞き手とのエモーショナルな連帯感のようなものを演出したいようなケースであったなら、有声休止はときに効果的な演出になりうるかもしれません。
つまり、話し手自身の思考のプロセスをリアルタイムで追体験させることで聞き手を惹き込みたい、といった場合には、有声休止は緩急の「緩」の部分を演出するテクニックとして役立ちうると考えることができます。
もちろん話し手のスタイルにもよると思いますが、講演やスピーチなどにおいては、それほど意図して排除しなくともかまわないケースもあるように思います。

ある言葉について、それを「言うべきか言わないべきか」と二元的に語ることは難しいのです。
ある場面では不適切な表現も、別の場面で使えばきわめて有効な演出になりえます。
「考えがまとまっていないように見えるから使わない」と断ずるのではなく、「考えがまとまっていない印象を与えるとまずい、といった特定の場面では出さないようにする」、といった考え方を採用するほうが、言葉の使い方には広がりが出るのではないでしょうか。

会話においてはどうか

前段の最後に述べたことを当てはめて考えるならば、会話においてもやはり同様に、「えーと」が出ないほうが望ましい場面と、それほど問題ない場面とが存在すると考えられます。

たとえば、二人で会話している最中、自分の発言のあいだずっと相手がさも何か言いたげな顔をしている、などというときには、「えーと」を連発して発言権を占有するのは避けるべきでしょう。
いつまでもパスを出さずにボールを抱え込んでしまったら、「ああ、この人は自分の都合でしか話すことのできない身勝手な人なんだな」という望ましくない印象を与えてしまいかねません(逆に言えば、意図してそのように印象づけたいのであれば有効な手段ということになるかもしれませんが)。

逆に、お互いじっくりと自分の考えを述べ合って、互いの間に誤解のないようにしたい、といったシーンでは、「えーと」を繰り返してでも、考えをじっくりまとめながら喋るほうがいいでしょう。
立て板の水のようにすらすらと自分の考えを述べてしまうと、かえって、相手との対話によって考えを修正する気がない、すでにある自分の考えに固執している、というマイナスの印象をもたらしかねません。
よく夫婦ゲンカなんかで、ものすごい早口で自分の意見をまくし立てる人がいますが、まくし立てられた側が往々にして「この相手には何を言っても無駄だ」とうんざりしてしまうのは、一つにはその喋り方から思考の揺るがなさ・融通のきかなさを感じ取ってしまうからではないかと思います。

「あのー」も「えーと」も使いよう

子どもの頃、授業中に「あのー」や「えーと」を連発して、クラスメイトにそれをバカにされたせいで、それ以来言葉に詰まるのは悪いことだと思い込んでしまっている、なんて人は少なくないのかもしれません。
でも、ここまで検討してきたように、言葉に詰まるのは必ずしも悪いことではないのです。
私たちの思考の広がりはときに不規則ですし、感情にも大いに左右されるものです。
その特性を補い、より思考を深めて豊かにするために、「あのー」も「えーと」も大いに役立っている。そんなふうに考えることだってできると思います。

言葉が与える印象は一つじゃないし、良し悪しも単純には決められない。
そのことを覚えておくといいかもしれない、という点をあらためて述べて、この文章を終えたいと思います。

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