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文学作品

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高校生の頃に作ったものを手直ししています。あとは最近の作品です。
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#私の仕事

理想の恋人(ヒト)①

理想の恋人(ヒト)①

いま思いだしても、あの瞬間から僕の燃え盛った情熱の炎は消えることはなかった。PC画面に映し出された広告の見出しに僕の目とココロはすっかり奪われてしまった。

理想の恋人、贈ります

それは国外の新規企業「Moned社」が大々的に打ち上げた広告CM記事だった。社名を聞いたことはなかったが、検索すると様々なレビューや意見記事がトコロ狭しと画面に並んだ。さらには記事の見出しがどれも刺激的だった。

「こ

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僕の未来予想図⑦

僕の未来予想図⑦

新人の朝は早い。僕の朝は職場の床掃除から始まった。6時起床、6時半自転車で出勤、7時に朝の掃除開始。就職後から毎日続けている、僕の朝の業務だ。一通り掃除を済ませると、お湯を沸かして、台所の湯飲みを片付ける。先輩たちは時々深夜まで仕事をしていて、各自の机に置きっぱなしのお茶を片付けるのも僕の朝の業務の一つだ。急いで朝の業務を済ませると、僕は机に置いた冊子に目を通した。先輩が来るまでに判例の問題点と解

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僕の未来予想図⑥

僕の未来予想図⑥

平凡に過ぎていく日常、そんな日の終わりはあっけなく訪れた。
きっかけは先週やってきたカネさんの知り合いだった。突然現れたその人の横には人懐っこそうな笑顔のオジサンと、6歳くらいのオトコの子が並んで立っていた。オジサンは少し頭が弱いのか、頭を下げてひたすら笑顔でへえ、へえと言うだけだった。聞けば嫁さんに逃げられた挙句、家賃も払えずに部屋を追い出され、行き場所もなくなったそうだ。だからしばらくの間この

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僕の未来予想図⑤

僕の未来予想図⑤

僕がここの工場にたどり着いて数日、カネさん夫婦は僕の話を真剣に聞いてくれた。奥さんは声を上げて泣いてくれて、カネさんはすごく優しい笑顔で肩を叩いて励ましてくれた。
「もうナンも心配いらんよ。好きなだけココにいて良いから。修クン、ナンもないけど、ココでゆっくりしてきんさい。」
カネさんの言葉に、ようやく僕は救われたような気がした。気づけば僕も、声を上げて泣いていた。それは忘れていた涙だった。数年ぶり

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