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アート・小説エッセイ

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小説、映画、アートにまつわるエッセイ。
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#レビュー

終わってしまうからこそ、

終わってしまうからこそ、

今はもう、終わってしまったものに、すごく惹かれてしまう。

縄文時代の女性たちがしていたアクセサリーとか、イギリスの貴族に仕えたメイドとか、大正時代の女学生同士の、手紙のやりとりとか。

今はもう、目の前で見れないもの。

たぶんそれは、春に行った谷川俊太郎展も、一緒だ。

もうとっくのとうに終わってしまったから、もう見ることはできない。だからかな、見ることができなくなってしまったから、谷川俊太郎

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思春期の揺らぎと危うさ。『打ち上げ花火、下から見るか横から見るか』

思春期の揺らぎと危うさ。『打ち上げ花火、下から見るか横から見るか』

ここ1年ほどで、アニメをたくさん見るようになった(とはいえ趣味がアニメですとは恐れ多くて言えない)。それまでアニメといえばコナンとドラえもんくらいしか見なかったけれど(ちなみに今も両方見ている)、元々絵を見るのが好きなこともあり、実写ではできないアニメの表現の幅の広さに気づいてからというもの、一気にアニメがおもしろくなった。

去年はちょうどアニメ映画の当たり年だったのもあり、君の名は、聲の形、こ

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現代版サザエさんと再定義する表現

現代版サザエさんと再定義する表現

最近店頭でよく見かける、益田ミリさんのマンガ文庫を買ってみた。

沢村さん家のこんな毎日 平均年令60歳の家族と愛犬篇 (文春文庫)

タイトルにもある通り、40歳独身実家暮らしのOLと、すでに定年を迎えて年金暮らしをしている70歳くらいの両親との、3人暮らしの話だ。

4コママンガみたいなコマ割りと、シンプルすぎるくらいシンプルな絵で綴られた、「沢村さん」家のなんてことない日常は、さながら現代版

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変化への、一歩を。『たまこラブストーリー』映画レビュー

変化への、一歩を。『たまこラブストーリー』映画レビュー

不安、不安、不安。何が不安かって言うより、不安というその感情自体がキライ。

今の時代は、先行きが不透明で不安になりやすい時代だと言われています。先行きが不透明ということは、この先どうなるかわからないと言うこと。つまり、今までと同じじゃなくて、変化していくということ。

そう、変化が不安を呼び起こすのです。

変化そのものが怖い、というのは人間の普遍的な感情で、私もご多分に漏れずそのうちの一人です

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父と子をめぐる物語...『ハリー・ポッターと呪いの子』

父と子をめぐる物語...『ハリー・ポッターと呪いの子』

ハリーポッター最新作、8番目の物語、『ハリー・ポッターと呪いの子』を読みました。脚本形式だしスピンオフというか、後日談というか、まあそんな期待してなかったんですが、読み進めるとぐいぐい魔法界へと引き込まれた!

ハリーポッターを読んできた・見てきた人、ハリポタファンなら必見です。あんまりこんな言い方しないけれど、でも本当に読まなきゃ損です。

面白かった~だけで終わらせるにはもったいない小説(スク

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内向的・外向的のちがいは刺激に対する反応のちがい。『内向型人間のすごい力』感想とレビュー

内向的・外向的のちがいは刺激に対する反応のちがい。『内向型人間のすごい力』感想とレビュー

前にブログを読んでいたら『内向型人間のすごい力』がおすすめされていて、気になって読んでみたら目からうろこだったので、私も紹介していきたいと思います。

外向的(extravert)か内向的(introvert)かというのは、今まで自分がどっちなのかって意識したことがなかったのですが、この本を読んで自分は内向的よりだということがはっきりわかりました。

もちろん人のパーソナリティを簡単に二分すること

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物語の功罪−−物語ですくわれるもの、物語でうしなわれるものと『この世界の片隅に』

物語の功罪−−物語ですくわれるもの、物語でうしなわれるものと『この世界の片隅に』

今夜のテーマは、物語の功罪について。

功罪っていうとなんだかカタイですね。私は物語が好きで、このブログでも物語そのものについて書いたりしています。人は物語のなかでしか生きられないんだなあとも思っています。

自分のアイデンティティとか、人生の意味とか、国の歴史とか、全部物語の構造で成り立っている。

というと話がずれてしまうかもですが、物語、いわゆるフィクションってなんで存在しているんだろうと、

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今更だけど『嫌われる勇気』を読んでーー生きやすさは「課題の分離」にある

今更だけど『嫌われる勇気』を読んでーー生きやすさは「課題の分離」にある

最近寝る前に大ヒットセラーの『嫌われる勇気』とその続編の『幸せになる勇気』をぱらぱらと読み返しています。『嫌われる勇気』の方は一年前くらいに読んで、そこからしばらく放っておいてました。

でも再び読んで、ああこれはなんども読み返すべき本だ、というか、読み返していくところに価値がある本だな、と実感しました。

『嫌われる勇気』では一見当たり前のことも書いてあります。読むと「なるほど確かにそうだな〜」

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どこまでも厳しく、それでいて優しい映画、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』

どこまでも厳しく、それでいて優しい映画、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』

高校2年生のころ、シカゴに引っ越しました。そのころといえば、友だちといるのが最も楽しい時期。

別れが名残惜しくて、別れをするのに必死で、シカゴでの先の生活なんて、考える余裕がありませんでした。

シカゴ行きの飛行機に乗って初めて、「で、シカゴってアメリカのどこらへんにあるんだっけ?」という思考にたどり着くものの、携帯は使えない機内、ガイドブックも持っていない私。

画面に映る「あと何マイルです」

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電線すら愛おしい...新海誠『言の葉の庭』

電線すら愛おしい...新海誠『言の葉の庭』

ヨーロッパと言えば、の後に続くのは数あれど、そのうち早めに出てくるのが「綺麗な街並み」じゃないでしょうか。

ドイツも都市によりますが、古い町並みを残しているところは、こっちが飽きるくらい建物の外観が統一されています。

翻って日本。特に東京をはじめとする都会は、大変ごちゃごちゃしています。

私はそのごちゃごちゃに慣れていたので、それが嫌ってほどではなかったんですが、ドイツの街に慣れると(昨年

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小説がもたらす開放感はどこから来る?柚木麻子『本屋さんのダイアナ』と、村上春樹『恋するザムザ』を読んで

小説がもたらす開放感はどこから来る?柚木麻子『本屋さんのダイアナ』と、村上春樹『恋するザムザ』を読んで

そういえば昔の頃はよく、現代日本の女性作家さんの小説をよく読んでいました。村山由佳、あさのあつこ、佐藤多佳子、梨木香歩、とか。

いつの間にか読まなくなったのは、彼女たちが描く女性が自分と近くなってきたからかもしれない。なんだろう、感情移入しちゃうというか、近すぎてべったりしているというか。まあそれがもちろんこれら作品の魅力でもあるんだけれど。

逆に高校を過ぎてから、高校生が主人公なことが多い

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