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たとえヒールと呼ばれても…覚悟が開く2強時代の扉/高校野球ハイライト特別篇・滋賀学園

滋賀学園の最寄りは東近江市にある八日市駅で、JRの近江八幡駅から近江鉄道に乗り換えて向かう必要がある。通学時間帯でも電車は1時間に数本しかなく、スクールバスで通う生徒も多い。

「近くに住む子ども以外は寮に入った方が練習しやすいが、『県内で野球を頑張りたい』という家庭に寮はかえってハードルが高い。結果的に県外の選手中心になってしまう」。

山口達也監督が話す通り、今夏のベンチ入りで滋賀出身は左腕エースの髙橋俠聖のみ。私立でも県内選手が多い滋賀では異色のチームであり、その状況は揶揄の対象となることもあった。

滋賀学園高校 (C)びわ湖放送

ただ、なぜ八日市の学校に全国から選手が集まるのかも同時に考える必要があるだろう。

センバツに2度出ているとはいえ、創部25年で夏の甲子園は1度だけ。滋賀でもまだ名門とは呼べない野球部へ、近畿を越えて東海・北陸や関東、果ては沖縄からも毎年のように選手がやってくる。

会社員時代に敏腕営業マンだった山口監督の力だけでは説明できない、遠方の中学生をも惹き付ける魅力が滋賀学園にはある。

滋賀学園の山口達也監督 (C)びわ湖放送

一番は型にはめない育成方針ではないか。近年の卒業生には横浜DeNAに入団した宮城滝太や鈴木蓮、関東の大学球界で活躍した尾﨑完太や光本将吾もいる。高校時代から完成度の高い選手ばかりではなかったが、私も将来性豊かなプレーの数々に目を奪われてきた。

今年のショート・岩井天史も優れた身体能力で無限の可能性を秘めていて、卒業後の飛躍が楽しみな選手だ。中学生も最大限にポテンシャルを生かしてくれそうなチームへ夢を託したくなるのだろう。

2024年の中心選手・岩井天史 (C)びわ湖放送

一方で1年生大会5連覇を誇り「戦力ならシガガク」と毎年のように言われながら、なかなか夏を勝ち抜けないことは最大のネックだった。状況を憂いた山口監督は、2022年以降チーム作りの土台に守備を置くようになる。

伝統の打撃重視から大幅な方針転換。レギュラーを3年生で固めて第1シードから波乱なく優勝した今夏の戦いぶりは、ユニフォームの系統から高知・明徳義塾のようにも映った。きっと15年ぶりとなる夏の甲子園でも開幕試合に浮き足立たず、安定した試合運びを見せてくれるはずだ。

多い県外選手に安定の守備重視、そして夏を制した実績。プレーの魅力こそ減ったかもしれないが、チアリーディングと一緒にスタンドを巻き込む応援や、山口監督が高々と選手から胴上げされる様子からは、むしろ滋賀学園というチームそのものの魅力が増してきているように感じた。

近畿でただひとつ甲子園の優勝実績がない滋賀県で、近江1強に風穴を開けた意味合いも大きい。見据えるは全国レベルで切磋琢磨できる2強体制。絶大な人気を誇るブルーの盟主と比較し、「うちはヒールでもいい」と冗談まじりでつぶやく山口監督の覚悟が、新たな時代の扉を開けようとしている。

宙を舞う山口達也監督 (C)びわ湖放送

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