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2022年10月の記事一覧

『穴の町』 ショーン・プレスコット

『穴の町』 ショーン・プレスコット

乾いて埃っぽく寂寥とした風のような小説だ。どこかの荒野から吹いてきて、どこかへ吹き去っていく。

オーストラリア中西部の、歴史も特徴もない町に、どこからかやって来た主人公。彼は、スーパーマーケットのウールワースで働きながら、「消えゆく町々」についての本を書いている。

主人公が住み着いたその町は、ショッピングプラザと、マクドナルドやピザハットといったチェーン店がメインの、どこにでもありそうな特徴の

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『JR上野駅公園口』 柳美里

『JR上野駅公園口』 柳美里

上野公園に暮らす、あるホームレスの物語。
この物語はフィクションだが、そのモデルとなるホームレス達は、今も実際にそこに生活している。

当然だが、彼らは初めから路上に生まれたわけではない。彼らの家のない人生は生まれた時から始まっていたものではない。
この世に生を受けて名付けられ、家族と暮らす家があり、学校、仕事、兄弟、恋愛、喜びがあった普通の人生。
その、どこに路上との接点が生まれ、ブルーシートの

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『一九八四年』 ジョージ・オーウェル

『一九八四年』 ジョージ・オーウェル

言わずと知れたディストピア小説の金字塔『1984』を、遅ればせながら読んだ。
特に興味を持つことなく、いつか読もうとも思っていなかったのだが、本屋で何とはなしに手に取った新訳版の文面に興味をそそられて、そのまま購入した。

無骨で理屈くさい小説だとなんとなく思い込んでいたが、想像以上に小説として面白かった。
無骨と言うより情緒的で、ロマンチックですらあった。

*****

ユーラシア、オセアニア

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