アポなし父さん・前編 〜嗚呼、職人の絶望日記〜
父の弟子となって1ヶ月が過ぎた、3年前の12月のことである。
「宇治まで麻の布を買いに行くから、レンタカー借りてくれ。」
そう父に言われた。
レンタカーに乗り込んでいざ出発。
と、その前に一つ気になることがあった。
父はその麻布屋さんとやらに訪問の連絡を入れた気配がないのだ。
「電話してから行ったほうがいいんじゃ、、、」
と言う僕に対して、
「あそこの人はいつもいるからええねん。」
と、めんどくさいことを言い出すな!という雰囲気の父。
そして1時間後、宇治の麻布屋さんに到着。
インターホンを押しても誰も出てこなくて弱気な表情になる父。
「あれ、、、おかしいなぁ、、、やってるはずなんやけどなぁ、、、
電話してみるわ。
プルルルルル、、、
え? 出張中?いま東京ですか? あぁそうですか。出直します。」
助手席で携帯電話の電源ボタンを見つめながら父がポツリ。
「居やらへんかったわ。災難やったな。」
まるで、「安全運転のうえで遭遇した不慮の事故だった」とでも言いたげな口ぶりだ。
ちなみに、父がその麻布屋さんに来たのは2年ぶりで、過去に来たのはたったの1回だけだと言う。
オッサン、過失運転で有罪確定。
二日後の日曜日、出張から帰ってくる予定の麻布屋さんに再訪問することになったのだが、またしても父の自由人が炸裂するのだった。
後編へつづく。
みなさまのご支援で伝統の技が未来に、いや、僕の生活に希望が生まれます。