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今もずっと、23歳の伊藤君がそこにいる。

今は、桜の季節じゃないけれど。

いつかnoteに書いたことのある

窪塚洋介さんが花について仰って

いたことを思い出していた。

これは、『ほぼ日』の記事でみかけた

花のおしまいの表現に対する言葉だった。

「最後」についての日本語の表現を語って

いらっしゃって。

それはあまりにも印象的だった。

花の種類によって「おしまい」の表現は

違うよねと窪塚さんが、言葉をつなぐ。

椿は「落ちる」



菊は「舞う」


梅は「こぼれる」



牡丹は「崩れる」

この言葉に再会しながら

かつて同級生だった今も、あの日から

二十三歳のままの伊藤君のことを思い

出していた。

伊藤君とわたしたちは大学の食堂で

はじめて出会った。

わたしが夜間にだけ通っていたコピー

ライターの専門学校に、伊藤さんがいた。

伊藤さんはとても天気のいい春のお昼前に

わたしに伊藤君を紹介してくれた。

広告の仕事に興味を持っていた伊藤君は、

もうその場で、その学校に行くわって

ファミレスで貯めたバイト代をそこに

つぎ込む勢いでほがらかに言った。

さわやな白いシャツの似合う奴。

第一印象はそれだった。

そしてみんなで次なんの授業なん?

と、まったりした会話を続けていたら

学食にある大きな窓からのまぶしい

ほどの光がわたしたちのテーブルに

注がれて、いくつかの筋をつくった。

テーブルの上に光のみちができたかの

ようで。

みんなの会話が途切れた時になにげなく

それを見ていたら、伊藤君がこれは

なんか授業を休めって言ってる光なんと

ちゃうか? ってやばい人のように冗談

みたいにいって、

わたしたちも同じようにやばいので

そやなそやなって。

本格的にみんなで授業をさぼることにした。

伊藤さんと、つきあってる彼と、伊藤君とわたし。

4人が向かった先は吉野だった。

吉野の桜でも観に行こうぜっていう行き当たり

ばったりの思い付きだった。

お天気を味方につけて吉野に向かった。

わたしたちは、桜が見たいというよりも

もしかしたら授業をさぼる口実で桜をだしに

使った。

そのせいか。

罰なのか。

その場所にたどり着こうとするのに辿り

つけなかった。

たぶん一時間弱かかったかと思う。

学食でかつ丼食べたりランチ定食

食べたばかりのわたしたちはコンビニで

きのこの山とかをたくさん買って伊藤さんの

彼の車に乗り込んだ。

国道309号線に乗っかって、わたしたちは

晴れた日に授業をさぼっていることが

楽しくてたまらんみたいな感じで、

エスケープにはしゃいでいた。

五条市に入ったらもう吉野はこっちの

もんみたいに楽勝を決めていた。

でも、なんか走り続けて何度も何度も、

最初の場所から離れてゆくのに、

最終的には振出しに戻っていた。

伊藤君の彼から伊藤君が運転を

変わっても同じだった。

みんなでなんど、たどり着こうとした

だろう。

伊藤さんの彼も伊藤君もうまくいかなくて、

わたしたちは最初の地点に引き戻されて

しまった。

ちゃうねん、ちゃんと違う道から行っても

戻ってきてしまうんや。

伊藤君のマジか? みたいなおののいた

声を最後にみんなであきらめて、吊り橋を

渡った。

そんな日だったから、この吊り橋も

振り返ったらみえなくなって霧の向こう

に消えてしまっているんじゃないかと

ホラーな話で盛り上がった。

伊藤君は、子供かよっていうぐらいに

橋を揺らせて、伊藤さんにマジ切れされて

いた。

桜見られなかったよね、吉野の桜って

誰からともなく言いだして。

誰も本気で観たい人はいなかったかも

しれないのに、見えないと知ると

山のどこかに桜が咲いていないかと

車窓の風景を探していた。

ほら、あれって。

いつも無口でほとんど会話しない

伊藤さんの彼が声にした。

その長くてきれいな指がさす方向を

車を止めて観たら、山の中腹に

かろうじて桜が咲いていた。

けなげな感じで、ささやかで。

それが伊藤さんの彼の声にとても

似合っていた。

あの日桜をみなかった日のことはなぜか

覚えている。

そして微かにしっかり根を張って生きて

いた桜のことも。

観られなかったゆえかもしれない。

その一年後には、伊藤君はふいに

居なくなってしまった。

この世の中のどこかにまだわたしは

伊藤君がいるような気がすることがある。

仕事で立ち止まりたくなると、時々思い出す。

あの判断って、どう思う? あかん?

ってちょっと相談したらそのたびに、

「ぼんちゃんが決めたんならええんちゃうの?

 それよりずらかろうぜ」。

そんな声が聞こえてくる気がする。

おちこんだりもしたけれど、私は元気です。

伊藤君、いろいろあったけど、あの頃よりは

元気なおばさんになったでわたし。

じゃあね!

🌸    🌸    🌸    🌸    🌸

今回はこちらの素敵な企画に参加させて頂きました。

思いがけなくバトンを渡してくださったのは、

素敵なわたしのお友達、七田苗子さん!

美しい心にふれると、心が生まれ変わる

そんな気持ちになる、すてきな記事です。

苗子さんの記事は読むだけで、気持ちが

ゆきたい場所を教えてくれるそんな思いに

なるんです。

ぜひまだ未読の方はごらんになってくださいね。


人を誘うのが苦手なわたしがバトン受け取って

くれませんか? って言うのは、かなり

ハードル高かったんですが。

noteじゃなければ会えなかった大好きな

お二人が快くお受けくださいました。

まずお人目はこの方、大人気のクリエーター

ももまろちゃん。

はい! はい。 そうです、ほんまにそれそれ!

まろちゃんのコラムにいつも𠮟咤激励を

うけている私です。

物を見ている時の眼差しの乾いた感じが

カッコいいです。

まろちゃんバトン受け取ってくれて、

ありがとうございます!

お次の方は、わたしの大好きなお友達の

おひとりミーミーさん。

ミーちゃんの記事は、知らない分野のことも

わたしそれ好きかもしれないって

興味を誘ってくれる文章の引力です。

ゲーム音痴なので巷で噂になってるときも

ふーんって感じだったのにミーちゃんの

この記事でスプラトゥーンやりたくなってきて

ます!おそるべしミーちゃんパワー。

ミーちゃん、バトン受け取ってくださって

ありがとうございます。

🎮  🐈  🎮  🐈  🎮  🐈  🎮  🐈

読んでいただきましてありがとうございます。


(※吉野の桜の画像は朝日に輝くフリー画像を拝借致しました)






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