理科室と君と、傷つきやすいそれと。

フラスコの底にたまった水溶液は
混ぜちゃいけないってきみに言われて
じっとみていた。

ゆさぶっちゃいけない、のぞいても
いけないって。

この水溶液は傷つきやすいんだって。

言われたまま栞はじっとそのままでいた。

水溶液のうわずみが桃色になる。

噂になりたかった
ただそれだけ

ふたりきりになりたかった
ただそれだけ

ひとりじめしたかった
それ以下でも以上でもない

逃げたいような抱きしめられたい
ような栞は彼の白衣のしわばかりを

冷たい理科室でそれを環境ビデオのように
みていた。

もっと二人の関係がふるえるように
嘘つきになって

煙になってしまうとき
また今日の日を思い出すかな

ふたりの鼻のいちばん高いところが
冷たくなるほど、時が経っていた

三日月になったトローチといる25時。

小さい時に呼ばれていた名前で
名を呼ばれた時

水溶液のうえにうっかり栞は
なみだをおとしていた

ちいさな虹色の爆発がやってきた

理科室はいたづらに曲がっていた。

はずかしそうな水溶液はなにかに
傷ついていた。

ほらいったじゃん

（410字）

少しnoteお休みしてました。
noteだけじゃなく恒例のこちらの
ショートショートnoteも。
今夜は書けそうだったので挑戦して
みました。理系でもないのに理科室
好きでした。とくに放課後の理科室は
おちついているからそこに佇んでいたくて。
そんな大好きな理科室のこと書いてみました。
フラスコ、ビーカー、シリンダー。
わたしの好物のものたちです。